ネットワークと子どもの学び
−湧源サイエンスネットワークの実践から−


美馬のゆり(埼玉大学)


概要

■ 「湧源サイエンスネットワーク(YSN)」の実践
  −別名:不思議缶ネットワーク

■ コミュニケーションと学び
■ 参考図書


YSNとは?

■ 市販の電子掲示板ソフト利用
  −テキスト、音声、画像データ送受信可能
■ 参加者
  −小学校4−6年生約50名(特に6年生15名)
  −若手科学者(20−30代)17名
  −6年生担任教諭
■ 日常の疑問に答える
■ 「科学すること」のおもしろさ


実践の始まり

■ 不思議缶プロジェクトの存在
■ 応援隊として参加
■ 質問例
  −宇宙は果てしないのか
  −なぜ人は死ぬのか
  −なぜ時間があるのか
  −牛乳はなぜ白い
  −電話や電気はなぜ伝わるのか


応援隊の合意事項

■ 子どもの学習の流れに沿わせる
■ 奉仕ではなく自分たちもおもしろがる
■ 唯一絶対の解答ではなく、複数の回答
■ 答えを教えるのではなく興味探求の形
■ 「探求の伴走者」としての姿勢を重視
■ 質問の出てくる背景を大切に
■ プライバシー保護に留意


はじめに起こったこと

■ 子どもからの返事がほとんど来ない
■ あいさつ程度の短いコメント
■ かみ合わない会話


「どうして人間は死ぬのか?」

■ 科学者:「動物も自殺をする、と言ったらどう思いま
  すか?僕も見たことはないのですが、狭い地域に
  同じ動物がたくさんいると、餌を十分にとれなく
  って、結局全部が死んでしまいます。そこで、年
  をとったものが自殺することで数を減らすのだそう
  です。もし、人間が死ななかったらどうなるか。限
  りある地球の資源をみんなで奪いあってしまい、結
  局みんながつらい思いをすることになってしまうよ
  うな気がします。」

■ 子ども:「いつまでも死にたくない!」


「宇宙は果てしないのか?」

■ 科学者:「宇宙に果てがあるのか?これは、はい、
  でもあり、いいえでもあります。地球を考えてみて
  ください。(地球儀を持ってきてもいいです。)今、
  いる神応小学校から、山も川も海もこえてどんどん
  進んで行ってもどこにも地球の果てはありません。
  (後略)」

■ 子ども「果てを見せて、くれ〜」


「なんでうさぎははねるの?」

■ 科学者:「動物は、それぞれの生活の仕方に適した体
  の構造をしています。例えば、うさぎと羊、どちら
  も同じように4本の足を持っているけど、その足に
  違いがあるのに気がつくかな?答えは、羊は、4
  本の足がほとんど同じ大きさだけど、うさぎは、前
  の2本と後ろの2本の大きさが全然違うというこ
  と。だから、羊は4本の足をつかった歩き方が上手
  にできるけど、うさぎは、大きな後ろ足をつかって
  はねたほうが早く動くことができて便利なわけ。(後
  略)」

■ 子ども:「私、うさぎ大好きで−す(おとうともよく
  はねる)」



第1回小学校訪問

■ 9月下旬、応援隊が学校を訪問
  −約1時間半の出会い
  −簡単な自己紹介
  −興味のある分野別にグル−プを分け活動
   >>分解、実験、観察、運動測定、話し合い

■ 応援隊と子どもの変化
  −説明するより説明を聞くことの大切さ
  −質問の量、質ともに変化


子どもの変化

■ メッセ−ジ数増大
■ 応援隊個人への質問
  −初めて解剖したときの気持ち
  −子どもの頃好きだったもの
■ 日記風の手紙
  −今日はパスケットボールをしました


応援隊の変化

■ 子どもを実感、子どもの時間の流れ
■ 質問することのおもしろさを発見
  −小さい頃からの疑問を裏会議室で質問
   >>障子紙のピンと張るのはなぜ?
   >>蟻はなぜ溺れない?
   >>池の水はなぜ表面から凍るか?
■ 子どもへの答え方の議論
  −科学観の違いを発見


会議室構成1




第2回小学校訪問

■ 1月中旬に約3時間
■ 応援隊が自分の専門の話を各自10分間
  −コンピュータの分解・組立
  −ドライアイスの実験
  −ネズミと人間の脳の標本
  −泥水と真空ポンプで崖崩れの様子など
■ 卒業自由研究について話し合い


子ども毎の会議室を作成

■ メッセージ数の爆発
■ 疑問の広がり
■ 自分の変化を発見


会議室構成2




知りたいと思う気持ち

■ 共感すること
■ 子どもの背後にある世界
  −空の青さ
  −紅葉→気温→地球→宇宙
■ 子ども電話相談室
■ 科学なぜなに本やデータベース検索


他者の存在

■ 新たな人間関係の構築
  −自分を受け入れてくれる他者の存在
■ 明確な他者の意識
  −ことばにおける「相手意識」
  −自分と他者の区別


自分の対象化

■ 他者からみた自分
  −「自分」の見直し
  −自分をとりまく社会の「常識」
  −価値観の問い直し
■ 自分自身の変化への気づき


ネットワークの落とし穴

■ 情報の検索
  −図書館・博物館、宇宙・海底調査の生データ
■ ネットワークを利用した調べ学習
  −きれいな画面、おもしろい内容、ものすご
  い技術を使って発表
■ 調べ学習の目的
  −資料の収集、分析、解釈、背後にある問題
   を探り、仮説や結論を導出


コミュニケーションと学び

■ 相手意識の希薄性
  −作文課題
  −「情報発信」としてのホームペ−ジ作り
■ コミュニケーションにおける他者と自己
  −他者の存在の重要性
  −自己との対話の発生


参考図書1

「学び」についての再検討

■ 『「学ぷ」ということの意味』
  −佐伯胖 岩波書店 1500円
■ 『「わかる」ことの意味−新版−』
  −佐伯胖 岩波書店 1500円
  −(新版)内容を新しく2章分入れ替え
■ シリ−ズ学びと文化(全6巻)
  −佐伯胖ほか(編)東京大学出版会各1800円
  −1巻と6巻は学びと文化全般、2〜5巻は各教科
■ 『科学技術時代の子どもたち』
  −中村桂子 岩波書店 1200円

参考図書2

コンピュータ教育に関する理論と実践

■ 『新・コンピュータと教育』
  −佐伯胖 岩波書店 630円
  −岩波新書『コンピュータと教育』の続編
■ 『コンピュータのある教室』
  −苅宿・佐伯・佐藤・吉見 岩波書店 1500円
■ 『子ども・コンピュータ・未来』
  −苅宿俊文 ジャストシステム 1600円
■ 『不思議缶ネットワークの子どもたち』
  −美馬のゆり ジャストシステム 2000円
  −以上の4冊は、内容が相互に関係している

参考図書3

教育史・教育研究

■ 『教育方法学』
  −佐藤学 岩波書店 2000円
  −書名はオーソドックスだが中身はラディカル
■ 『授業研究入門』
  −稲垣忠彦・佐藤学 岩波書店 1500円



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