【資料】公開シンボジウム「学習ネットワークと生涯学習」 1999年2月20日 Produced by 静岡大学生涯学習教育研究センター
「子育て」情報ネットワーク形成の社会的背景と事例およぴその将来像 久保田 力(常葉学園短期大学助教授/教育経営学)
§1「家庭教育」のネットワーク(化)?今回のシンボジストのお誘いを受けるに際し、当初、主催者からいただいたお題は「『家庭教育』のネットワーク(化)」という、ちょっと不思議でしかも奇妙な違和感を感じるようなものだった。 何らかの教育や学習がおこなわれる「場」が論じられる時、一般に引き合いに出されるのが「家庭」であり「学校」であう「社会」である事、そして、「生涯学習」という概念が、これら各々における教育活動や学習活動の時系列的かつ物理空間的統合作業の上に成立するものである事を考え合わせるなら、確かに「『家庭教育』のネットワーク(化)」は言葉としては成立するかもしれない。しかし、「家庭教育」を「家庭において親が子女に対して行う擁護・しつけ・性格教有(佐線全氏による定義/『学校用語辞典(ぎょうせい)』)」であると考えるのならば、それを「ネットワーク」化するというのは、一体どのような活動の事を意味するのだろうか。 「家庭教育」とはあくまで「家庭においておこなわれる(べき)教育」の事である、と主張するのであれば、そして、仮にそこで「ネットワーク(化)」を語り得るとするならば、それはおそらく、家庭において父母(保護者)が子どもたちに対する教育をおこなうために必要な教養・技術・技能の一方的な伝達や双方向的やり取りの「場や機会」あるいは「方法や手段」の事ではないのか。 したがってここでは、少なからず曖昧な用語ではあるけれども、父母(保護者)たちがわが子の子育てをおこなうに際して必要とされる多種多様な情報の伝達ややり取りの経路および方策、そして、その形成と構築という意味において「子育て」情報のネットワーク(化)という言葉を用い、以下の行論を試みたい。 §2現代における「子育て」情報内容の多様化 既に、就学前の乳幼児をかかえる保護者たちに対して社会の各方面から様々な形で(メディアを通じて)提供されている、もしくは、彼ら自身が必要としている「子育て」情報の内容は実に多種多様で多岐にわたっている。例えば、(是非や善し悪しや要不要の議論は別の機会におこなうとして)まったく乱暴に羅列しただけでも、 @オッパイの与え方・離乳(あるいは歩行)トレーニングの開始時期と方法 A子どもの言葉(あるいは歩行)の遅れに対する不安を解消するための情報 B近隣の幼稚園や保育所に関する各種情報と選択のための視点や規準 C安心して「子育て」で訪れる事ができる店や遊び場の情報 D育児や保育に関する諸理論(新・幼稚園教育要領など) E子どもに対する声かけの方法や叱り方のコツ F信頼できる(安心できる)そして通院に便利な小児科医の情報 G子どもに着せたい服・持たせたい物に関する情報 H乳幼児を対象とする塾・ならいごとに関する情報 I「公園デビュー」対策に関する情報 程度はアッと言う間にあげられるだろう。 元来、育児やこどもとの関わり方などについてのほとんどのノウハウは、「親から子へ」「ベテランの母親から新米の母親(娘)」ヘという経路を通じて伝達・伝承されるものであったし、また、出産や育児に関する色々な相談活動や助言・援助活動などについても、伝統的に垂直(縦)方向的・世代間でのコミュニケーション・チャンネル(C.C)の中で展開されるものであった。 しかし、上のように多種多様化した現代の「子育て」情報に関する諸々の処理作業は、単に従来のC.C.だけでは対応しきれなくなってきている。そこに、若い世代の父母たちからのニーズに対応するための社会的必然としてのC.C.自体の多様化と、新たなC.C.に対する父母たちの期待や依存傾向の発生現象が生じているようである。 §3世代間から水平方向的(同世代間)コミュニケーション・チャンネルヘの移行 現在、若い世代の多くの父母たちにとっての「子育て」情報の入手先、あるいは、子育てをめぐるコミュニケーション(単なるオシャベリからカウンセリングまでも含めて)の「場」や「機会」は、テレビなどのマスメディア・育児糸雑誌,育児サークルなどを事例とするような、むしろ水平(横)方向的・同世代的な広がりをもつコミュニケーション・チャンネルの上に存在しているように思われる。 「公園デビュー」というような思わず苦笑を誘ってしまうような現代教育用語(?)もあるが、われわれは、決してその存在を軽視したり看過したりする事はできない。ましてや、「一笑ににふす」などという事をしてはならないだろう。現在の(とりわけ若い世代の)父母たちにとっては、公園、すなわち「自分と同世代もしくは少しだけ先輩の親たちが集まる情報源的な人間関係」が、既に極めて重要な意味を持つようになっているからである。 では、なぜこのような現象や変化が生じてきたのだろうか。一つの仮説としては、 @いわゆる「核家族」化や「都市社会」化の進行 A経済的余裕などによる「子育て」情報の過多と父母たちにおける自律的判断能力の低下 B育児スタイルをめぐる世代間における美意識や価値観などのズレの拡大 C少子化の発生などによる「子育て」選択肢の増加と父母たちにおける自律的選択能力の低下 D父母たちにおける異世代間コミュニケーション機会の減少と苦手意識の増大 などが考えられるかもしれない。 §4「子育て」情報ネットワークの形成事例 ともあれ巷では、上述した水平方向的な「子育て」コミュニケーション・チャンネルが、主として若い母親たちの努力によって自然発生的・「草の根」的に誕生しつつある。 別提示の資料を参照されたい §5まとめもしくは問題提起――「子育て」情報から「子育て」自体のネットワーク化へ―― New Zealandには、幼稚園にも保育所にも分類しにくい Playcentres(プレイセンター)というユ二一クな就学前乳幼児のための教育(保育)施設がある。いうならばそれは、いわゆる育児サークルの一つの発展形態としての「父母たちによる協働的子育て組合」というべきものであると同時に、若い世代の父母たちが組織(相互)的・自己学習的に「親業(parenting)」を学び合う「場」でもあり、わが国における現在の「子育て」情報ネットワークも、将来的には「子育て」自体のネットワーク化の過程をたどる事になるかもしれない。その意味において、プレイセンターでの「子育て」ネットワ一クの実践活動は、「エンゼルプラン」の策定にも何らかの示唆を与え得るものと思われる。 資料ページ 空飛ぶらくだ ――静岡県の子育て情報ネットワーク「空飛ぶらくだ」のホームページ。 子育て情報 ――全国の子育て情報リンク。 Kid's B ――子育て支援グループKid’sBのホームページ。 |