シドニ大学における地域貢献と地域連携
阿部耕也

 平成14年度末、オーストラリアにおける大学の地域連携・貢献のあり方を視察する機会を得ました。今回はシドニー大学を訪問先に選び、継続教育センター、ビジネスリエゾンオフィスなど、地域貢献の窓口となっている部局を見学し担当者と意見交換を行うことができたので、その概要を報告します。
 イラク戦争が勃発し豪州も参戦という折り、中井弘和副学長、村越順一地域連携推進室長と3月24日から1週間の豪州視察に向かいました。シドニー国際空港の警備は物々しく戦時であることを伺わせましたが、市内に入るとニュース以外で戦時を感じさせられることはありませんでした。幸い旅行中は晴天に恵まれ、快適な南半球の初秋を満喫することができました。
 ニューサウスウェールズ州の州都であるシドニーは、豪州最大かつ最も長い歴史を誇る美しい都市で、世界三大美港の一つに数えられるシドニー湾を中心に広がっており、面積は東京都の5倍強、人口は約380万人を数えます。市中心部近くに立地するシドニー大学は、1850年に設立されたオーストラリア最古の大学で、18の学部からなる最大の大学でもあります。学生数は4万人を超え、5千人を超える外国人留学生も学んでいます。
 事前にシドニー大学出身の情報学部ゲスト教授にコンタクトをとってもらい、3月26日の視察初日にはシドニー大学から下記のような日程をアレンジしていただきました。
 午前10時にキャンパス中心にある印象的なゴシック建築 "Quadrangle"(写真1)下でドッド国際部長と待ち合わせ、棟内にある副学長室にエスコートしてもらい副学長補佐シェリントン教授から公式の歓迎を受けました。教授からは現在進行中のシドニー大学戦略プラン1999-2004について説明を受け、地域貢献・地域連携に関して意見交換を行うことができました。
 続いて、継続教育センターにセンター長ハイマニス女史を訪ね、生涯学習に関するシドニー大学の貢献についてうかがいました(写真2)。シドニー大学では、教養コース/キャリアアップコース合わせて250を超える継続教育コースが走り、毎年22,000人ほどが受講するといいます。大学全体として地域住民への教育サービスに取り組む姿勢があり、地域のニーズも高いと感じました。継続教育センターはその企画・運営のほかニーズ調査や地域連携プログラムを担当しており、フルタイムのスタッフ16人、事務職員20人が業務に当たっています。さらにパートタイムの教育スタッフが450人以上いるということです。ハイマニス女史らは、継続教育コースが多くの受講者を集める理由として、豪州最大かつ最も歴史があるシドニー大学への評価・期待をあげられましたが、同時に単位や資格の授与システムの検討をなかなか進めない大学の保守性に危機感を持っておられました。
 初日最後の訪問先はアジア太平洋研究所(RIAP)で、同地域にある諸機関と共同研究を進めたり、研究に訪れる外国人に英語教育サービスを提供したり、多彩な活動をしていました。当初予定していたコースは以上でしたが、副学長補佐との懇談で、地域産業との共同研究、知的所有権の扱い、地域と連携した教育活動にも関心があることを伝えると、早速翌日の視察・意見交換の場を設定していただきました。
 2日目は教育学部・職業経験部門の責任者ジャスマン助教授を訪ね、企業・学校との連携の上で進められる学生の教育課程や現職教員の再教育プログラムの説明を受けました(写真3)
 続いてビジネスリエゾンオフィスを訪ね、事業推進マネージャーのサイムズ氏に産業との連携について説明を受けました(写真4)。本学の地域共同研究センターに対応するこのオフィスは22人の専任スタッフと6人の事務職員を擁し、大学と企業との共同研究の仲立ちを行い、大学の持つ知的資源をビジネス化することを業務としますが、学内に特許申請の仕方や知的所有権の守り方、研究にともなうリスクマネージメントについて指導助言する仕事も担当しています。パテント・知的所有権について質問したところ、シドニー大学では共同研究の成果である特許などは大学に帰属するものの、そこから上がる収益については関係者が等分するというルールを最近導入したといいます。メルボルン大学などでは特許自体の帰属を研究者に認める方向で動いており、人材や企業がそちらに流れないかと危機感を募らせていました。
 どの担当者も思ったよりフランクにシドニー大学の強みと課題を語ってくれ、こちらも独立行政法人化など大きな変化のただ中にいることを伝えましたが、こうした中で改めてこれからの大学にとって地域貢献・連携が重要だという実感を得ました。
 懇談の後も広大なキャンパスを散策し、南半球最大という附属のフィッシャー図書館および宿泊地に近いシドニー工科大学附属図書館も利用してみましたが、いずれも非常にオープンな対応で、大学開放が当然のこととして根付いていることを感じました。シドニー大学では本学情報学部との学生交換プログラムの検討が進んでいますし、また先にふれたRIAPも日本の財務省と共同研究を進めるなど日本との関係も少なからずあります。また今回の視察旅行では時差がほとんどなく快適でしたが、時差がないということは、例えば日本との遠隔教育プログラムやテレビ会議システムによる共同研究などを進める場合にも重要な要素となってくると感じました。
 今回は準備期間がないまま行われた豪州訪問でしたが、地域貢献・連携に関して多くの示唆を得ることができました。急な訪問にもかかわらず歓待いただいたシェリントン副学長補佐をはじめシドニー大学の皆様、訪問日程のコーディネートをいただいた本学情報学部のゲスト教授、更にこの機会を与えていただいた学長および本学関係者の皆様に紙面をお借りして御礼を申し上げる次第です。

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