教育研究担当教官から
『わけあう』
農学部長
中井 弘和
昨年秋のはじめ、ダイアナ元皇太子妃の衝撃的な死のニュースが世界中を席巻していたさ中、20世紀を生き、そして21世紀に大きな光を投げかけて、2人の巨星がひっそりと地上から姿を消した。20世紀最高の書の一つ「夜と霧」を著した心理学者・ヴィクトール・フランクルと貧しい人々に生涯を捧げたマザー・テレサである。
フランクルは、ナチスの強制収容所に捕らえられ奇跡的に生還した体験のその書の中で、どのような人々が極限状況を強く生き抜くことができたかについて冷徹な文章で書き綴っている。厳しい労働と飢えの中で、わずかに配られる食べ物を自分より弱っている人たちに分け与えたような人々が強く生き抜くことができたと言うのである。分け合うというささやかな愛の行為が人々の生命力を高めた、ということになるのであろうか。
マザー・テレサの偉大な働きについては周知のことであろう。貧しい人の中でも最も貧しい人々に仕えなさい。これは、彼女がシスター達によく語った言葉であるが、そこには与えることによってそれ以上のものが与えられるというメッセージが含まれている。
日本の社会を取り巻く状況はこのところ極めて厳しく、大学にも競争原理が益々色濃く導入されてくるにちがいない。われわれ大学人は、そのような状況の中で、人を押し通けて生きていくのか、あるいは、そうであるからこそ人と分け合って生きていこうとするのであろうか。それは、私達ひとりひとりの選択にかかっていることであるが、その時、フランクルやマザー・テレサが生涯をかけて残していったものを思い起こしたいと言いたいのである。
とまれ、わが静岡大学は、新設の生涯学習教育研究センターを通して、組織的に地域社会とより多く分け合うことによって、自らの生命力を高めながら、激動の時代を強く生きていくことができる、と私は考えている。
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