教育研究担当教官から
コミュニティの振興と生涯学習
情報学部教授
大堀 哲

 わが国は明治以来、国家の目標として「豊かさの量的拡大」を追求してきたが、これが達成されると徐々にではあるが、人々の意識に変化がみられるようになった。それはかっての経済、成長、産業を中心にしてきたものから、文化、生涯学習、環境、福祉といった、いわば生活に根ざした、より人間的なものに目が向けられるようになったということである。いまや「国家」から「地方」へ、そして「経済」から「人間」や「教育・文化」へといった方向へ、政治経済システムばかりではなく、日常生活レベルにまで様々なかたちで「主役の交代」がみられるようになったといえよう。
 近年、自主性、無償性、公共性、先駆性などの性格をもつ「ボランティア」活動や、民間非営利組織の「NPO」の活動が格別に注目されるようになったが、これらの活動も前述のような人々の意識の変化を背景にしたものである。21世紀には我々が生活するコミュニティにおいて、生きがいや自己実現、そして社会貢献を求める傾向がより一層強まることが確実に予想されている。このため「地方の時代」と「自己実現の時代」を視野に入れたビジョンの提示と、それらを支援する政策、方法論を構想していくことが国としての課題である。これからのコミュニティの振興は、人々の生活文化に貢献し、自己実現の喜びを喚起するものに発展していくことが予想され、その中で生涯学習の果たすべき役割が益々重要になってくるのは間違いない。従って高等教育機関としての大学は、これまでにもまして同一年齢の集団にのみ門戸を開放する体質から脱却し、生涯学習機関としてコミュニティ振興をリードしていくことが必要になっている。生涯学習教育研究センターに期待される役割・機能が大きくなるのは他言を要しない。
 本学の生涯学習教育研究センターは、設立3年という短期間にもかかわらず、センター長のリーダーシップのもと、公開講座、シンポジウム等各種事業を積極的に展開し、地域に開かれた大学の窓口としての役割をよく果たしてきている。勿論、課題も少なくない。 今後、生涯学習がコミュニティの成長・発展にどのように関わり、生涯学習に関する理論をコミュニティの振興にどのように具体化し戦略化すべきか、さらにコミュニティの振興に関する人材養成カリキュラムの開発研究とその展開、実践的なノウハウの提供や課題解決についての学際的な研究など、センター機能の更なる拡充が期待される。
TOP