カナダUCFV大学の継続教育コース見聞記
滝 欽二
平成12年度末の3月17日より1週間、カナダの大学におけるcontinuing education(継続教育または連携教育)システムを見学する機会を得た。時差が12〜14時間あり、またカナダ国内の移動にも飛行機を使用せねばならないので、訪問先の大学は2ヶ所とした。カナダは生涯学習や継続学習教育では先進国であり、訪問先にはわが大学と姉妹校であるアルバータ州立大学ではなく、まだ気温が零度以下であった中央部のマニトバ州にあるウイニペグ大学(UW)とこの地よりは暖かい太平洋側のブリティシュコロンビア(BC)州のバンクーバーの東部にあるフレーザーバレー大学(UCFV)を選んだ。ここではUCFVの継続教育システムについて、見聞したことを中心に述べる。
UCFVは上述のようにBC州の中心都市のバンクーバーから東へ80kmのところにある風光明媚なフレーザー川渓谷地帯にあって米国との国境に近いアボツフォード市にメインキャンパスがあり、また10数km離れたチリワック市内にもキャンパスを有している。
この大学は前身の職業専門大学と法律研究所が統合されて1974年に創設された新しい州立大学である。同じBC州にある総合大学のUBC(ブリティシュコロンビア州立大学)およびサイモンフレーザー大学と教育研究体制を連携している。
3月17日の午前8時30分、イギリスのエリザベス女王も宿泊されたことのあるバンクーバーの中心地にあるフェアモントホテルに大学の国際担当のDea Freschi女史に出迎えていただき、1時間のドライブののちアボツフォードキャンパスに到着した。当日は10時から夕方までびっしりとスケジュールを組んでいただき、大学の継続(連携)教育の説明と施設をいろいろな方に案内していただいた。何度も来日の経験もあり、昨年わが大学の生涯学習教育研究センターを訪問していただいたLinda Brown女史と市民開放・ビジネス・情報学部長のKaren Evans女史らの大きな歓迎を受けた。ここのスタッフには女性が多くて大変明るく活気があり,我が国の大学の事情とは大きな相違をまず感じた。
この大学は創設された経緯から、農学・園芸、航空学などの職業専門科目や法律、幼児教育までたいそう幅広い分野の教育プログラムが組まれている。これらのコースを2年間修得し学位免状を取得した学生は希望すればさらに上の学士課程に進学し、文学、理学、経営管理、コンピューター情報処理、社会福祉などの10学部の学士プログラムが準備されている。2つのメインキャンパスをもつ大学全体では6,000名の学生、200名の留学生が在籍し、1,200名の教職員を擁して各種80以上の修了証明書や学位免状を授与しているという。筆者が訪問したアボツフォードキャンパスは市街地からちょっとはずれた丘陵地にあり、淡い赤褐色の瀟洒な2階建の校舎が周辺の緑とマッチしてゆったりと配置されており、3月下旬であったがすがすがしい気分のする構内だった(写真1)。
継続教育コースの1つである一般教養プログラムのESL(第二外国語としての英語コース)には高校卒業程度で18歳以上が入学資格とされている。したがって日本人を含む外国人が仮に必要な英語力がない場合にはこのESLコースをまず受講しなければならない。このESLは大変充実したシステムで、初級から上級までの5段階レベルと大学進学準備レベルの6コースあり、それぞれ1セメスター(半期間)で構成されている。学生は1週間に各レベルの主要科目と選択科目のうち18から24時間の授業を選ぶ。また語学実習室のコンピューターを駆使していつでも自主学習をすることができる。すなわち自分にあったプログラムを選び、順次上級に進むことができる。継続教育コースにはESLのほかに前述したように職業専門コースとして農学、ビジネス、コンピュータートレーニング、刑事裁判、幼児教育、環境、美術、演劇からスポーツリクレーションレーダー養成、社会福祉など20コースがある。また特徴的なのは、このコースには関係した仕事につきながら実践力を身につけるプログラムもある。いわゆる社会人が仕事に従事しながらそれぞれ関係の職業教育を受講し、必要な資格を取得したり、短期間に実践的な技術をものにするというコースである。例としてはマルチメディア出版、薬剤師、歯科衛生士、幼児教育、法律秘書などが準備されている。
これらの仕組みや運営は、わが生涯学習教育研究センターとしてもまた大学の今後のさまざまな活路を見出すためには、大いに参考にすべきであると思った。
そのほか継続教育コースには、われわれも毎年行っているような市民教育やオープンキャンパス的な成人教養教育などがあり、これらの事業への参加受講はもちろん無料であるので全学の予算や国、州からの助成金をもとにやりくりしながら実施しているという話である。市民教育の内容は公衆衛生、環境社会、政策論などを公開講座式で行われ、成人教養教育にはレジャー、自己開発、自己表現、シェークスピア演劇、天文学、芸術表現など多種多彩な内容が企画されている。また、この成人教養教育には、正規の授業と同じように必要単位を取得して学士の称号を得ることもできる。継続教育の運営基金は受講生からの授業料が88%で残りの12%は国や州からの助成金で構成されているようである。継続教育コースのこれまでの登録者数は17,000名にのぼり、21の証明書プログラム、1,100の短期コースがある。この継続教育コースには企業の技術者や個人経営者からなる非常勤講師が400名登録されており、20名の専任の教職員と4名のパート職員が勤務しており、年間予算は300万カナダドル(約2.8億円)で運営されている。(写真2)
大学内の継続教育コースの建物と施設を見学させていただいたが、いずれの教室も少人数教育でコンピューターなどの施設も充実しており、スタッフもてきぱきと教育指導していて明るく活気のある様子がよくわかった。昼時にはお忙しい中、大学の学長をはじめ他学部の学部長も交えて昼食をとりながら懇談した。当日通訳を引き受けてくれた日本人留学生の巣山淳一郎君(横浜出身)には多大な協力を得た。夕方、大学近くのバーでメンバーのみなさま(写真3)とおいしいビールと食べ物を家内ともどもご馳走になり、Brown 女史らに見送られながらバンクーバー行きのバスに乗り込んだ。
あわただしいカナダ訪問だったが、生涯教育の一端を見聞でき、Evans学部長をはじめスタッフのみなさま、巣山君、さらにこの機会を与えていただいた学長および本センター、大学の関係者のみなさまには大変お世話になった。紙面をお借りして謝意を申し上げる次第である。
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