公開シンポジウム
『博物館と大学を結ぶ』「博物館とボランティア」
期日:平成12年7月1日(土)13:00〜16:00
場所:静岡大学 大学会館ホール
基調講演: ▼JUMP
名古屋市美術館学芸課主査 神谷 浩
事例報告1: ▼JUMP
愛知県陶芸資料館学芸部長 浅田 員由
事例報告2: ▼JUMP
静岡県立美術館学芸員 飯田 真
事例報告3: ▼JUMP
静岡県立登呂博物館学芸員 浅野 毅
事例報告4: ▼JUMP
静岡県立日本平動物園主事(学芸員) 佐渡友 陽一
事例報告5: ▼JUMP
細江町立姫街道歴史民俗資料館学芸員 栗原 雅也
討論・質疑 ▼JUMP
主催者あいさつ
司会(柴垣):
お待たせいたしました。生涯学習教育研究センターの主催事業でこれまで、「大学と博物館を結ぶ」という大テーマで公開シンポジウムをしております。今年は、3回目でテーマを「博物館とボランティア」として行うことになりました。学生の皆さんは、「博物館概論」という講義を受けている人達が主でありますが、一般の方々にも参加募集しましたところ、ボランティア関係の方々、博物館関係の方々にも、お集まりいただくことができました。この会場で今日は、博物館におけるボランティア活動とはどんなものか、という基調講演をしていただきまして、その後、この地域の博物館・動物園・美術館それぞれの実例報告といったところを発表いただき、みなさんとともにボランティア活動の中味について、一生懸命勉強し、それらを今後どうやっていくか、というところにもっていけたらいいと考え、このシンポジウムを計画いたしました。最初に、生涯学習教育研究センター長の滝欽二先生よりご挨拶をいただきます。
滝センター長:
皆さん、こんにちは。静岡大学生涯学習教育研究センター長をこの4月より仰せつかっております滝でございます。開講に先立ちまして一言ご挨拶申し上げます。
当生涯学習教育研究センターは、大学と地域社会を結ぶため、本年も秋に実施いたします大学の公開講座あるいは講演会、本日のような公開シンポジウムなどを計画し実施しています、静岡大学のいわば窓口的な役割を担っている共同教育研究施設であります。
センターではいくつかの計画的な事業のうち、継続的に進めております公開シンポジウムがありますが、「博物館と大学を結ぶ」という大きなテーマとした公開シンポジウムもその一つであります。
本学では、人文学部や教育学部また情報学部の学生を中心に、学芸員の資格取得希望者が増加しております。従って、博物館へ実習生をお願いする人数も年々多く、大変ご迷惑をおかけしておりますが、大学がもっている博物館情報はほんの小部分で、実際の博物館あるいは美術館で実施されている活動などへの理解は非常に乏しいものといえます。そうした現状から、学芸員の方々の貴重な実体験の報告や提言をいただき、これまで学芸員養成のための大学と博物館の意見交換を兼ねて、公開シンポジウムを行ってまいりました。
一昨年は学芸員資格に必要な「博物館実習」を受けるための意見交換を目的に「博物館学芸員の仕事」をテーマに公開シンポジウムを開催いたしました。そして昨年は、第2回目として、学芸員の活動内容の中でも重要な「教育・普及活動」をテーマとして公開シンポジウムを開いてきました。
第3回目の今回は、地域と結びつく博物館、生涯学習の場の博物館として、現在各地で取り組まれております、博物館ボランティアをとりあげることといたしました。
文部省の生涯学習審議会でも、博物館における人々の学習活動を推進するために、ボランティアの導入、ボランティア活動の場の提供を今後の重要な課題だと位置づけております。
本日は現場の学芸員のかたがたの実践例をもとに、ボランティアを実際にされている市民のかたがた、学芸員を目指している学生諸君、あるいはボランティア活動に関心をもつ若い方々を交えて、社会教育施設としての博物館におけるボランティア活動の在り方、あるいは博物館への外部人材の活用といったことの討論が深まることを期待しております。こうした機会が、大学と地域の生涯学習の場としての博物館を結びつけ、市民、学生、博物館の橋渡しになるものと確信しております。
本日は、はじめに名古屋市美術館主査の神谷様には、博物館、特に美術館ボランティアのシステム確立の実践例をふまえて、基調講演をお願いしております。次に陶磁博物館の事例として愛知県陶磁資料館学芸部長の浅田様、地元の美術館の事例を静岡県立美術館主任学芸員の飯田様、考古博物館から静岡市立登呂博物館学芸員の浅野様、動物園の事例から日本平動物園の佐渡友様、地域と結びついた事例を細江町立姫街道歴史民俗資料館学芸員の栗原様にお願いしております。
講師の諸先生方にはご多忙の中、本学のためにお足をお運びいただきまして誠にありがとうございます。また本学までお出かけいただきました会場の市民の皆様、博物館学芸員の皆様、本学教職員、学生の皆さん、ご参集ありがとうございました。この後の基調講演、事例報告をご静聴いただき、後半の質疑討論に是非とも積極的にご参加いただきますようお願い申し上げます。このシンポジウムが博物館と本学をより身近に結びつける糸口となることを願って、私のごあいさつといたします。ありがとうございました。
司会:
それでは、講師の先生方をご紹介させて頂きます。今、センター長からお話がありましたが、まず最初に基調講演していただきますのが、名古屋市美術館の神谷浩先生でいらっしゃいます。それから、愛知県立陶磁資料館の浅田員由先生でいらっしゃいます。静岡県立美術館の飯田真先生でいらっしゃいます。静岡市立登呂博物館の浅野毅先生でいらっしゃいます。それから、日本平動物園の佐渡友陽一先生でいらっしゃいます。そして、細江町立姫街道歴史民俗資料館の栗原雅也先生でいらっしゃいます。では、さっそく基調講演ということで、名古屋市美術館の神谷先生にお話をお願いしたいと思います。それではよろしくお願いします。
基調講演
名古屋市美術館 学芸課主査 神谷 浩
こんにちは。今、紹介いただきました名古屋市美術館の神谷です。今日は基調講演ということでやって来ましたけれども、私、名古屋市美術館に入ったのは、3年前でそれまで名古屋市博物館に16年おりまして、3年前の3月末に「美術館に行って下さい」ということで美術館に来たんです。専門は、美術史で、特に浮世絵などをやってるんですけれども、その名古屋市博物館の方でも、ボランティアをそろそろ検討しなければいけないと言っていたときに美術館に移ったら、「もうやることは決まっているから、あとは頼みます」ということで、やらされたといいますか、やったわけです。その経緯、いきさつを報告しながら、博物館・美術館におけるボランティアの考え方を提示してみたいと思います。
こういうことを言うと、ボランティアのことに詳しいように思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、私、ボランティアの会議とかシンポジウムとか博物館側の会合に出席した程度で、そのときの会議で議論されている内容に、いろいろな意味でついていけなくて唖然とした記憶があります。その後、名古屋市美術館ボランティアをやろうという中で、議論もせずに、本もほとんど読まずにいろいろ考えてシステムを組み上げました。
今日の話は、私どもの名古屋市美術館を中心にしますので、どうしても美術館の話に偏りがちになると思いますし、それからもうひとつ、内側からの話にどうしてもならざるを得ません。外から見てどうなのか、というのはあまり考えていませんので、多少誤解があるかもしれませんけども、とりあえず全体的なことの報告とさせていただきます。ここに出るきっかけになったのは、名古屋市美術館の研究紀要に、ボランティア導入のいきさつを全部まとめたせいです。これは、その過程において様々な事柄を検討していくわけですけれども、その検討の結果が、何となくうやむやになってしまって、5年経つと忘れてしまう、それはまずいだろうと。せっかくみんなで一生懸命考えたのに、それをどこかに残したいということで名古屋市美術館の研究紀要第8巻(1999)にいろんな考え方をまとめてみたのです。今日お渡ししました資料の中の3ページから10ページにボランティア導入計画などがあります。これが、研究紀要の中に資料としてつけてあるものです。名古屋市美術館のボランティアの要項、活動要領、活動マニュアル等、基本的な枠組みについては、全てそこに載っていますので、読んでいただくとどういう考え方で活動を始めたのかということが、おおよそおわかりいただけるかと思います。
レジュメの書き方として、こういう場は初めてですので、どう書いていいかわからなかったんですけども、博物館においてのボランティアの位置づけということで、最初に意義とおいてみました。これは、まずもって、両面から考えなければいけないと思います。今日の発表者は、ほとんど行政の中ですけども、私ども美術館もそうですけど、行政サイドというのは、「あそこがボランティアをやっているから、うちもやらなきゃいけない」という横並びの意識というのがあることは否定できません。いろんな事情によって、それはそれで大切ですけれども、どういう形であれ、ボランティアの活動を始めるときには、参加する市民の側と受け入れる館の側との、どちらにも益すると言ったらおかしいですけれども、意義づけが必要です。参加する市民の側のとらえ方は比較的わかりやすいです。これは、活動に参加することによって、自己の目標を達成するということですね。ボランティアですから、自分のことではない、他に対して、自分の能力や技術を提供する、そしてあくまで、無償で提供するということです。時間の方も、自分の時間の中で行うというようなことですね。こうした市民の側からのボランティア意識に対して、組織の側は、ある程度、効果を期待するわけです。組織の運営のために役に立つ、あるいは効果があるようなことを当然期待するわけです。その市民の側と館の側との、2つの寄り合ったところにボランティア活動は、博物館・美術館でできるだろうと私は考えております。組織の運営にとって、どこの部分にボランティアの方々の力をお願いするのかと言うと、これは後の2番のところで言いますけれども、いろいろあると思います。それは、それぞれの組織の事情によって、様々であろうと思います。館に最も弱いところにあたっていただこうというわけではなくて、博物館側としては、積極的にどこの分野でやってもらおうというようなことを合わせて考える必要があると思います。その両者の関係ですけれども、これはあくまでボランティアの自由意志の延長で行われるわけなので、決して強制はできない。ただし、どんなボランティアであっても、ある一定のルールを持たないとまずいですね。両者の間には、厳密な契約はありませんけれども、緩やかな契約といったものはあろうと思います。強制ではないですけども、自由意志に基づいて活動はしますが、ある意味でのルールは双方の中で必要があると思います。そういう市民の側と組織の側との、それぞれの共通点のあるところでおこなうことが大切だと思います。ボランティアというのは注目をあびていますけども、「市民参加」という響きの良い言葉に、耳障りの良い言葉に流されることはまずいなと思います。やっぱり、目的をしっかり持って、やる必要があります。
ボランティアさんが集まってから、「さあ、やりましょう」という形も悪くはないと思いますけど、やっぱりしっかりと準備が必要です。どういう部分をどんな形でやっていただくかというのは大変難しいことです。
次に博物館でのボランティアの活動範囲というようなことで、項目を上げてありますけど、1〜5までざっと、これは美術館の例を取り上げておきました。簡単に言いますと、1番は、学芸補助。これは今日の場合ですと、動物園または植物園の場合には、実際に説明したり、実験の補助をする。こういうものも含みます。美術館・博物館でのギャラリートークも含みます。2番目の事務補助。例えば、単純作業ですね、ポスター・チラシの発送時の手伝いなどです。それから、3番、これは展覧会の会場で監視をしたり、インフォメーション等で案内をする。そういう仕事があります。時によっては、お金を扱う場合もあります。店の商品にあたったり、切符を売ったりします。5番目として、その他。例えば、掃除だったり、警備だったり。こういう部分も任せます。それで、今日発表する方々の中には、後半の部分がほとんどないところもあると思いますけども、やむを得ず、職員の少ないところでは、どうしてもやってもらわなければいけないということ、最後の掃除とか、本当は事務員がやらなければいけないような仕事をやっていただくということも聞いたことがあります。そういういくつかに分けられる仕事があると思いますけど、これをどこでどういうふうに考えるかは、それぞれの組織でよくよく考えてやってらっしゃることなので、私はとやかく言えませんけども。この中には、私のみるところでは、本来、組織とやる人が明確な契約をもって行う仕事も含まれています。一定の水準の責任をきちっと問われることがあります。例えば、4番のお金を扱う仕事。これは、トラブルがあったときにボランティアが責任をとれるか、これは非常に難しいんですけれども、ボランティアで参加されている方は基本的に自己責任で処理するはずなんです。最終的に「美術館は知りません」とは言いませんけども、そのためにボランティア保険が用意されているわけです。ボランティア保険のお金は私ども美術館がお支払いしますけども、ボランティア保険になぜ入るかというと、何か事故にあったときにボランティアにその保険で払ってもらうためです。例えば自分がケガをしたとか、他人にケガをさせてしまった場合に補償しなさいというときに、ボランティアは自己責任で行わなければならない、そのためなんです。そういうボランティアにお金を扱うところまでやっていいのかというところを慎重に考えなければいけないと思います。もちろん、やっていただくことは非常にありがたい、助かることですけども、慎重に考えなくてはならないところです。
2の(1)でひとくくりにしてあります学芸補助の内訳を説明しますと、最も一般的なのは展覧会でのガイドであろうかと思います。あるいは、科学館系統では、実験の補助ですね。そういうところも入ってきます。それから、保存している写真や資料の整理。考古学系のところでは山ほどありますので、その整理ですね。それから展覧会のときの原稿の校正をしたり、新聞記事や雑誌の記事などの参考資料の整理、さらに踏み込んで展覧会の設営の手伝いをする。これは、現代美術の展覧会で作家が来てやる場合には、美大や芸大系の学生さんの方がよく見られる。これもボランティアに入るのですけども、こういうようなところがあろうかと思います。どの部分に活動の場を設定して活動するかは、それぞれの館の事情や考え方があります。
今日、おこなっています「博物館とボランティア」という考え方、タイトルで議論するときには、当然、博物館の中での、博物館特有の業務があるわけです。(1)の学芸補助みたいなものが一番それに近いと思いますけど、他のところでもたくさんあると思います。今日の議論の中味では、博物館特有のボランティア活動の内容を念頭に置いていただければいいと思います。例えば、2番の簡単な事務補助。これは博物館でなくても、どこでもあるわけです。ですから、極端に言えばボランティアセンターに登録しておいて、「どこそこが、いつ、何人要求しているから行ってあげて下さい」という形でやるのは今日の議論からは外れているだろうと思います。
それから、博物館・美術館におけるボランティアの組織と運営のところも少しお話しておこうと思いますけれども、ここで、私ども美術館のボランティアの検討が実際に動きはじめた時に調べたんですが、いろんなところでボランティア活動を行っていますが、おもしろいことに、きちんとした決裁をとって、例えば〜局長のはんこをもらっているところがほとんどなかった。みんな内規でやっているんです。これはちょっとおかしいんじゃないかと思うわけです。私ども館では、完全に公式にしようということで非常に手続きは面倒ですが、ボランティアの要綱そのものは、教育長の決裁をとっています。「こういう形でボランティアの活動を始めてもよろしいか」ということで、はんこをもらいました。と言いますのも、ボランティアの方にきちっと活動していただくためには、我々が責任を持って提供する必要があるわけですね。内規でやってますと、そのときの担当者の気分や都合で変わってくる恐れがある。ボランティアさんたちの活動の組織の中での位置づけが明確でない。これはまずいということで、我々はきちんと決裁をとりました。
これは、他でもそうだろうと思いますけど、名古屋市美術館のボランティアは教育普及活動の一環として行うことを明確にしております。私ども美術館のボランティアはガイドしかやっていませんけども、そういう組織の中の位置づけもきちっとする必要があるだろうと思います。それともうひとつ、そこに書きました、ボランティアグループの組織のことですが、ボランティアの方は、あくまで個人の自由意志で自発的な意志に基づいて活動するわけですから、お互いの立場はもちろん対等なわけです。ところが、一方、お願いし、受け入れる博物館側としては、ある一定の目的のもとに活動していただくことであれば、ある系統だった動き、ある種の組織系統というのが必要になってくるわけです。私ども美術館では、世話役という人を置いております。ここに、リーダー・世話役と書いてありますけども、私ども世話役の人は30人ほどで活動しているボランティアの中で、2人以上で互選です。「お互いで選んで下さい」と言ってあります。半年で替わります。「互選」・「半年交替」・「複数」という三原則を持っています。なぜ、こういうふうにしたかというと、先ほどボランティアはお互いに対等であるという考え方から、リーダーとか班長とか、代表者という階層あるいは上下関係を意識させるような言葉はやめようということで、世話役というふうにしてお願いしております。全てのボランティアを世話役がまとめる形で行っています。
それから「登録と登録期間」についてですが、私どもの事例ですと登録期間は2年。それで2年経ったら、辞めていただくとか、継続で登録をお願いするとか。これは様々な事情があって悩んだところなので決めていなかったんですけども、今2年経って希望者の方は全員継続していただくことを考えています。その考え方ですが、当初応募者が非常に多くありまして、チラシを入れておきましたが、これは2年前の最初のときの応募用紙です。内容はほとんど変わらないんですが、黄色いのは、今の第2期の方々のものです。これを読んでいただくと、800字の作文、あえて小論文と書きましたけど、「論文を書いて出して下さい」という、なかなか高いハードルを設けても20人の募集のところに、180人以上の応募があったんです。その論文を読ませていただいて、面接をさせていただくと絞り込むのは非常に難しい。やりたい人はたくさんいる、お願いしたい人もたくさんいる、ということで、なるべく広い範囲にお願いしたい。登録したらずっと登録しっぱなしでは、広がらない。そのためにも、ある程度交替をしなければいけないなという部分と、それから逆に「育成」です。ガイドをやっていって、積み上げていく財産を継承するという考え方もあって、継続登録、再登録です。その2段構えで継続なおかつ新たに募集ということで、今、第2期の人が35人くらいいますが10月から50人以上の体制で動くつもりです。どうなるかはわかりませんけども、そういう方針のもとでやっていきます。
それからボランティアの活動で考えなければいけないことで予算(謝金)があります。予算はこれはもう、それぞれの博物館・美術館で考えていることなのでここでは言いませんが、謝金ですね。「ボランティアでやっているのに何でお礼をもらうのか」とはっきりと疑問に思う方もいらっしゃるでしょうし、現実的に「私は美術館に行ってからは労力を提供しますけども、そこまでの足代ぐらいは」ということをおっしゃったわけです。このふたつの考え方はどうやっても、歩み寄りはできません。結局、結論が出なかったんですが、すでに名古屋市でやっている別組織がお支払いしているということなので、うちもお支払いしようとしました。ですから一律です。額は交通費相当額ということで千円。一番近い方は歩いて3分。一番遠い方ですと、車を飛ばして1時間以上、それでも千円。それから、活動を始めて半年で、大阪に転勤なさった方、その人は毎月、大阪から通っていただいておりますがその方も千円。これは役所の事情もありまして、具体的に個々に別々に交通費を払うと計算が大変になる。ですから、一回千円、交通費相当額を実費でお支払いしております。支払い方は、ちょっと専門的ですけど謝金から支払ってます。源泉徴収はしません。この謝金についても考え方を持っておく必要があるかと思います。
あとですね、最後に一言、強調しておきたいのが研修の部分です。私ども美術館での研修は全部で10回程度あるんですけども、だいたい作品についての解説が多いだろうという想像をされるかもしれませんが、それは10回のうち4回、しかも3時間のうち1時間半です。非常に少ないです。私ども美術館で何をやったかというと方法論に関するものが多かったです。これは、どういう組織で何をやっていただくかによって研修の内容も変わってくるかと思いますが、美術の場合、同じ作品を見ても、わかる人、わからない人、好きな人、嫌いな人、目のつけどころが全然違うわけです。色から見る人、形から見る人、主題から見る人、それを全部ガイドする側は認めてあげなければならないわけです。そういう基本的な態度を培ってもらうために方法論をたくさんやりました。それで情報提供は、私たちいつも言うんですけど、100知ってても出すのは3ぐらいでいいとお願いしています。非常にガイドの中味は難しいですけどもそういうふうな研修をいたしました。時間もなくなりましたので、また具体的なところは質疑のところで話したいと思います。
もう一つ、私のレジュメの中で、たまたま東京の国立博物館からちょっと書いてほしいということで、1ページにありますけどもガイドボランティアというものが美術館・博物館にとってどのくらい重要なものになり得るかということを少し書いておきましたので読んでみて下さい。つまりオールマイティの可能性があるということです。どんな媒体のものを通しても、オーディオ、コンピューターなど使うにしても、常にそれではわからない人がいる。生身の人間が応対すれば、これがいかようにも変われるわけです。小学校の1年生でも、ある程度知っている人でも、年齢、性別、職業などいろんなものを超えて対応ができる可能性を持っているのがガイドであると思うんです。そのガイドを学芸員ができればいいんですけども、そこにボランティアにあたっていただく。これは参加するボランティアの方も非常に勉強熱心にやってくださるわけです。ボランティアの人にとっても、生涯学習の場であるし、ガイドを受けた方は大変充実した時間が過ごせるわけです。2重の意味で生涯学習の場であると私は書きましたけども、そのようなことで、博物館・美術館でのボランティアの主要な場がガイドあるいは来館者との対話というような形で展開していくのは当然のことだろうと考えております。30分になりますので、あとはいずれ後ほどということで。
司会:
ありがとうございました。非常に短い時間に、基調講演ということで申し訳ありませんでした。名古屋市美術館では、2年前から美術館ガイドボランティアというのを始められまして、これまでの事例を踏まえて、博物館におけるボランティア担当の真髄のところをお話いただきました。186人の応募に対して、33人という、狭き門をくぐり抜けた方々が、今、ボランティアで活動されています。その試験には、論文まであったという、そういう中味のお話でした。博物館におけるボランティア活動の組織づくりの苦労も会ったと思いますが、その辺はまた後ほどに。現在、博物館あるいは美術館のガイドボランティアは各地域で、本当に小地域の博物館でも積極的にやられています。このあとそうした事例を発表していただくことにいたします。最初に、やきもの専門の博物館におけるボランティア活動ということで、愛知県陶磁資料館の浅田員由先生にお話をお願いいたします。
事例報告1:
愛知県陶磁資料館 学芸部長 浅田 員由
愛知県陶磁資料館の浅田です。今、紹介がありましたように、私ども博物館といいますか、館は、陶磁器、やきもの専門の博物館です。ちょっと他とは違うところがありますので、もともとの建設された経緯を少しお話します。愛知県というのは皆さんご存知だと思いますが、瀬戸、常滑という2つのやきものの産地でありまして、現在でも、窯業生産高で言いますと、愛知県は全国の3分の一くらい占めている大窯業県です。おそらく、皆さん、九谷とか伊万里とか、そちらの方が有名だと思っていらっしゃるけれども、産業的に言うと、はるかに小さいと思うんです。もともと、そういう窯業が地場産業でして、瀬戸・常滑という日本でも有数の古い歴史を持つ、やきものの産地での陶磁器の博物館ということで、計画したときに、普通の博物館ですと、教育委員会の主導で、学校教育あるいは教育の場として設立される場合が多いわけですけど、私どもの館は、最初から、もちろん教育的な要素はありますけど、産業振興。それからもう一つは、レクリエーション。こういうことを柱とした経緯があります。ですから、建設されたときに歴史的美術的価値を伝えるということ、それから産業振興を目的とする、さらに県民の方々にレクリエーションをしていただくという3つの柱から成り立つというわけです。ですから当初から、私ども館では「陶芸館」と言いまして、実際にやきものをつくる場所があります。館ができて21年になりますけど、博物館であまりそういう陶芸をやるところはなかったわけで、そういうのが1つの館の成り立ちの大きな要因になっています。
陶芸というのは、公民館などでもやっていて、皆さんご存知のことと思いますけど、あれは作ってもらった後よりも、それを焼いたり、仕分けしたりする発送作業が大変なわけです。実は、そういう形で始めたのはいいんですけども、焼き上がったものを整理していくという、その作業がもう非常に大変でして「これは何とかならないだろうか」と。もちろん、有料でやっていることですから、高いお金をとって、アルバイトなり雇えばいいんですが、そうもいかない。なんとか陶芸館で焼成した作品を仕分けしたり、それを発送したりという、そういうようなことをどこかでやっていただけないかというのがありました。もう一つ、館ができたときに「友の会」というものをうまく機能させて、館と友の会という、対等な立場で応援団的なものになっていただけないかという、そういう考え方を打ち出しまして、館ができた時から「友の会」を発足させました。そういう人たちに、「仕分けの仕事があるんだけどやっていただけないかな」という話をしましたところ、十数人の方が「いいですよ」と言ってくれました。そこで、週1回そういう作業をしてもらうことにしました。こういうのもボランティアと言えばボランティアなんですけど、そういう中から、博物館でのボランティア活動をしようという動きが出てきました。
そこでまず、友の会についてお話します。友の会というのは、どこの館においても、こういう言い方は悪いですけど、お荷物的になっている。欧米の美術館・博物館ですと、友の会というと会員も意識が高く、自主運営される。しかし、日本では館側主導になっている。そこへお役所仕事の発想が重なって、ほとんど館側でやってしまう。年1回、遠くへ見学旅行をする。あるいは1回や2回例会をする。逆に館の負担になってしまうわけです。調査すると、大概は「お荷物だ」というところが多かったです。それに対して、私どもは当初から、友の会の会員の互選で組織を作り、友の会の中で自発的に運営していただくようなシステムにしました。ただ、これをやりますと役所というのは、圧力団体になるんじゃないかとすごく懸念するんです。私どもは、圧力団体でもいいんじゃないかと主張しました。話し合いをしていますと、圧力団体といっても、そんな無理をいっているものではなくて、当然今までやらなければならなかったことを指摘してくれているんですね。それで結局、自発的な形で、例えば機関誌を出す、それから研修旅行をする、すべてそういうことは友の会の運営によって行っています。そういう自発的運営の結果、友の会の会員の中から、ボランティア活動の動きが出てきたのです。
陶芸作品の仕分けというところが出発点ではありましたが、「もう少し他のことも手伝いますよ」という声が出てきました。まだ、その頃は、私どもの館もさほど大きくなかったものですから、作品の仕分け以外には、例えばポスターの発送とか、そういうことしか考えられなかったわけですが、ただ平成6年に館が大きくなりまして、建物スペースに少し余裕がでてきた。友の会あるいは友の会会員の中から出てきたボランティア、そういう人たちの部屋もなんとか確保して、そこで仕事をしてもらうような形になりました。ですから友の会のボランティアというのが、だいたい50人くらい、会員の中から本当に熱心な方々がお見えになりまして、仕分けだけではなくて、さまざまな資料の発送もしていただきました。それから、「解説もやってみたい」という声が出てきました。実は、その頃は団体で前もって予約した場合は、学芸員が一応、展示解説をするということになっていました。ところが、団体の方々に説明をしていますと、2,3人のグループとか個人の方たちが、「私たちには解説してもらえないんでしょうか」というのがありました。来た人に全部できればいいんですけど、それも難しい。なんとかグループまたは個人の方に解説できないかと考えていたところで、たまたま、その友の会のボランティアをしていた人達からそういう申し出があったわけです。「これは、結構なことですからやりましょう」ということで話し合いをしまして、1年間、だいたい月に2回、まずやきものの基本的な勉強をしてもらいました。1年経って、全体をおさらいした中で、10名くらいですけど、ある程度知識もある方にやってもらうことになりました。ただ、10名くらいのことですから、毎日カバーするのが難しかった。ですから、当初は、日曜日と火曜日、この日だけ友の会のボランティアとして常設展の展示解説をしていただくことにしました。
実は、先ほどの基調講演にもありましたように、3〜4年前から、展示解説のボランティアがどこの館でも取り入れるという特徴が出てきました。これは、はっきり言いますと、博物館はお金がないからボランティアを使って何とかならないだろうかというのが1つの発想でした。これは大きな間違いですね。その頃から、ボランティアの導入が叫ばれました。私どもは前からそういうことを部分的にやっていたんですが、行政的な動きの中で、昨年から新たにボランティア活動を進めることにしました。これまでの友の会のボランティアと、新しい、いわゆる解説ボランティアは、今後どうするのか、いろいろあったんですけど、友の会ボランティアを吸収する形で、一応、応募していただくということにしました。昨年募集しまして、70名くらいありました。その中の10名くらいは友の会のボランティアですけど、それで1年間。実質は7月からですから半年ですね。日本のやきものの勉強会をやりまして、だいたい今年の1月から常設展示の解説をやっていただいています。ただ、やっていく中で熱心な方が多いものですから、先ほど基調講演にもありましたが、なかなかお断りできない。もともと30名くらいということを想定していたんですけど、実際は応募者全員になってもらうことになり、47名です。当初の計画では、月に2回、2〜3名ずつぐらいと考えていたんですけど、人数が増えてしまったので、月1回しか出られないとかいう人もあります。曜日で来てもらうようにしているんですが、今はだいたい3名の方に来ていただいて、10時から3時まで、お客さんが多い時間にやってもらっています。1つは、常設展示の解説のボランティア。それから昨年度から、これも最近流行なんですが、一般の方に実際に参加してもらう博物館・美術館という活動があります。例えば「親子〜教室」とか。私どもの館はやきもの専門ですので、やきものを造ったりとか、昨年は野焼きをして子どもたちに最初から全部参加してもらったり、今年は土取りからやろうということで、どういう土を使うとどうなるか。これはうまくできるかということとは別の話で、例えば「こういう土を使ったら溶けてしまうんだよ」とか、そういうことも含めてやろうということでなんですが、これにはものすごい人手がいるわけです。ですから、新たにそういう形でボランティアを募集しますと大変なものですから、今まで培ってきた友の会ボランティアと昨年から始めている展示解説ボランティアの中から、「こういう計画がありますけど、やっていただけませんか」ということで、今、20名ほどの方が参加をして下さっています。やきものを造るということですから、全くの素人ではちょっとできないので、ある程度経験がある方で「こういう形だと壊れてしまうから、こうした方がいいよ」といったアドバイスができる方、また野焼きをしますと、一晩中かかるものですから、交替で出られる方、今そういう方にやっていただいています。なかなか熱心にやっていただいているんですけど、今のところボランティアは年配の方が多いものですから、我々が一番来てほしいときに来ていただけないということがあります。 これからどうしていくかということなんですけど、実は、今、博物館の方で問題になっているのは、まもなく学校が完全週5日制になります。それで、そのうちの1日か2日は社会教育施設とか生涯学習施設を利用させようという文部省の答申が出ています。これは、博物館・美術館が一番かと思います。非常にけっこうなことなんですが、それに対応する人・金というものが必要になってきます。良い状態で、そういうことに対応していこうとすると、やはりボランティアの協力が必要になってきます。今、やきものというのがどういう見方をされているかというと、今日も美術館の関係の方がお見えになっていますが、一般の方が私ども館に来て、最初におっしゃるのが「絵はわかるけどやきもののことはわからない」という言い方をされます。これはつまり、学校教育の中で、例えば美術の時間にゴッホとかルノアールとかそういう名前を紹介して、みんな名前を知っている。一番良い例が、山梨県立美術館のミレーですけど、みんな知ってます。名前を知っているから、絵がわかるというのはちょっと違うだろうと思うんですけど、やきものというのは、早い話が中学・高校と歴史の教科書を見てきますと、非常に少ないです。弥生土器が出てきて、あとは仁清の、静岡で有名なMOA美術館の茶壺ですね。あとはほとんど出てこないわけです。知っているとか知らないというのは、知識としてそういうものがあるかどうかのちがいなんです。だから、子どもたちも含めて、やはり人がついて説明しますと非常によくわかったという意見を聞きます。
先ほど、基調講演にもあったように、いくらキャプションで説明したり、パネルで説明しても、人が一緒について説明してくれると非常にわかりやすいのです。だから「いつもこうしてくれたら」とおっしゃるんですけども、私たちにもそんなに余裕がない。だからますます、解説ボランティアの人が必要になってくると思います。それで、役所ですので予算とかそういうのも含めて、何人までだったら受け入れられるかという問題があるわけです。実は、今年は募集をしていないんですが、電話がかかってきてます。「今年は募集しないんですか」と。非常に申し訳ないのですが断っている状態です。ただ、やっていただきたいことはたくさんあるので、なるべくそういう形で応募していただいている方には、できるだけボランティアをしていただく場を設けたいと思っております。
レジュメのところで、問題点のところであげてありますけど、今のところ、我々が感じる問題点というのはありません。が、一般の観客がボランティアをどう見ているかということが1つあります。「ボランティアの説明がやかましい」というのがありまして、何か美術館というのは、聖域でシーンとしていて、静かに鑑賞するという意識が強いんでしょうか。だから、お客さんどうしが展示物を見て、ちょっと話をしていても、やっぱり受付とか監視員に文句をつける人がいます。これは考え方の違いなので、どうしようもないんですが、例えば大英博物館とかルーブルに行って、そんなシーンとして見ているのかといったら、モナリザの前なんかは人だかりで、デパートの特売みたいになってるんです。でも、文句を言う人はいないだろうし、中には堂々とお客さんの中で、前に立って模写している人もいるわけです。日本人はどうも教育的配慮からかどうかわかりませんが、とにかく美術品というのは、静かに、もう心の中で鑑賞するんだという意識が強いのかなあと思います。ですから、こういう問題がこれまでありました。
もう一つは、やはりやきものですと、観覧者の方が、割合ある部分だけを非常に詳しく聞かれることがあります。そのことだけは、解説ボランティアの人にとっては難しいです。難しいことを言われたときは、「とにかくわからないことはわからないと言ってください」と、それで「生半可なことを言わないで、なおかつ納得しなければ学芸員を呼んで下さい」と言っています。話を聞いていますと、非常に思い込みの強いお客さんがいまして、我々でも手こずるような、そういう思い込みをしている方もいらっしゃいます。これはボランティアには対応できないだろうなという気がします。そういうことも含めてボランティアが説明できるかと言ったら、やはりできないのでとにかく「そういう人が多いんだという認識でいて下さい」と言うしかないと思うんですけど。
うちの館のボランティアは、十数年前から始めた友の会のボランティア、それと昨年から始めた解説ボランティアも含めまして、どういう希望で始めているかと言いますと、まず、やきものをやってみたいというのがあります。毎回そういう勉強ができる、あるいは我々の場合も月2回くらい希望者だけ集めて勉強会をしておりますので、そういう時間が持てるということと、もう一つは、同じ趣味を持った人、つまり、ボランティアに参加する人たちというのは、だいたい同じ趣味を持っているわけです。そういう中で、非常に話しが合うわけです。だから毎日出てきて、顔を合わせるのが楽しいということでして、これは生涯学習とか、老人福祉ボランティアに近くなってきている気がしますが。先ほど言ったように、お金がどうこうということは一切気にされないんです。その辺りが、逆に役所側が気にするんですね。予算はこれだけだから、この人数でということになる。
ただ、これからはまちがいなく、こういう人たちが増えてくるだろうし、それをうまく取り込むというと違うかもしれませんが、対等の立場で美術館・博物館というのはそういうものだ、いっしょになって発展していくんだという認識を持たないといけないだろうと強く感じます。特に、会社をリタイヤして、そういうところに来ている人が増えてきますと、その人たちに対して従来のように学校教育だけの学生、小・中・高校生を対象にした、教えてやるという姿勢ではいけない。博物館が今後、どういう地位を持って、しかも自分たちの方が上の立場ではなくて、お客さんの方が知識が多い人もいるわけですから、それでやっていけるかというところが問題です。今のままでは、博物館・美術館も生き残れない。今は大学でも合併、倒産がある時代ですから、今のような状態ですと、博物館でもリストラとか合併、倒産という方向へいくんじゃないかと思います。そうならないためには、ボランティアとうまくいっしょにやっていけるかということだろうという気がしています。ちょっと話がそれましたけど、私の話は以上です。
司会:
ありがとうございました。次に、地元静岡県で多くのボランティアの方々に活動していただいているという事例をもとに、静岡県立美術館の飯田真先生にその活動状況のお話をお願いします。
事例報告2:
静岡県立美術館 主任学芸員 飯田 真
静岡県立美術館の飯田と申します。まず最初に、ここで1分間、コマーシャルをさせて下さい。お手元にチラシを入れさせていただきましたけど、7月末まで当館では、「金山平三展」を開催しております。この方の作品は、とても日本的な風景が日本的な感覚で描かれて、我々日本人にも非常に親しみの持てる絵です。最近、日経新聞に、全国版ですけども、紹介されまして全国から反響があるんですが、静岡県民の皆様に、まだ今ひとつ来ていただいていないのです。非常に良い展覧会でお勧めしますので、ぜひお越しください。ということで、ここまでは報告書の際、テープおこしから削除していただいて、本題に入ります。
静岡県立美術館では、開館の前年にボランティアを募集、研修を行いまして、開館と同時にボランティアをスタートさせました。当館にはボランティア室というのがあります。初代館長が「ボランティア室を館の中で一番いい所につくりなさい」ということをおっしゃいまして、玄関を入ってすぐの左手のところなんですけど、非常に景色のいい所にボランティア室を設けています。ですから、静岡県立美術館のボランティアというのは、そういう面では他館のボランティアとは待遇が随分違うかもしれません。しかも、導入が早かったということで、県立美術館のボランティアは良い、悪いは別としまして、全国では非常に有名ですので、全国の美術館、あるいは行政の方が視察に来ます。
それで、実際の活動ですけれども、人数がお手元の資料の12ページにありますが、最初に募集を行った、つまり開館前ですけど、行ったところ、非常に反響がありまして、私はそのときは館にいなかったんですけど、電話線がパンクするぐらいだったそうです。そこから選考しまして350人でスタートしました。その後、3回追加募集を行っていますけど、活動は月曜日が休館ですので、火曜日から日曜日、さらに第1週から第4週まで24班に分けまして、ですからボランティアさんにとっては、4週に1回、活動に来てもらうことになります。そういう形で、1班12,3人程度で行っています。昨日、平均年齢をコンピューターを使って計算してみたところ、56〜7才でした。一番若い方で25才なんですけど、やはり子育てを終えられた主婦の方が大半を占めています。それで、どういう活動をしていただくかということですが、まず、全員の方にやっていただく活動と、有志の方だけにやっていただく活動があります。全員の方にやっていただくのは、4週に1回、来ていただいたときなんですが、インフォメーションに座っていただいて、お客さんを案内していただきます。それから図書閲覧室がありまして、そこは開架式の図書と閉架式の図書がありますので、館に請求すれば閉架のものも貸し出しできますので、そこの運営、受付をお願いしています。そして、最近ですけどもロダン館で音声ガイドの無料サービスをしておりますが、そこの貸し出しの補助もお願いしています。その他、新聞の切り抜き、美術関係の記事を切り抜いていただいて整理していただきます。それから、各種の郵便物の発送のお手伝いもお願いしています。それと当館では、ロダン館の方で目の不自由な方に彫刻を触っていただいて、鑑賞していただくというプログラムを行っていますが、その案内をボランティアさんにお願いしています。彫刻すべてが触れるというわけではなくて、決まった14点、その中で誘導していただいて、場合によっては解説もするのです。それから日曜日だけなんですが、美術ビデオの上映の運営もやっていただいています。それで、特典と言っては何ですけど、ボランティアをやっているとどんなことがあるかというと、毎年秋に研修旅行を日帰りで行っています。これを全額、館が支給するわけではなくて、バスを美術館の方で用意します。実際の美術館の観覧料、昼食などについては参加者が負担することになっています。それからもちろん、展覧会の無料御招待。また、展覧会ごとにポスターができますけど、そのポスターをボランティアさんに差し上げております。といっても、家の中に飾ってほしいわけではなくて、それを使って広報していただきたいということから、差し上げています。先ほど報酬の話が出ましたけど、当館では旅費も含めて全くの無報酬です。
そういった日常活動だけでは物足りない、また余力があるという方にはグループ活動をしていただいています。その中心となりますのが、ギャラリートーク、展示解説でして、収蔵品常設展示の解説を第2,4土曜日にやっていただいています。それから、企画展については、やるときもあればやらないときもあります。それは希望を聞いたり、作品解説で担当学芸員が指導できる時間があるかといった条件も合わせてお願いすることになります。ギャラリートーク班では、月に1回、月例会を開催しております。こういうことの他に、実習的な勉強をしていただかなくてはいけないということで、勉強会を行っています。例えば、彫刻展だったら、彫刻の勉強会をグループで研修活動をやっていただいています。それからいろいろあるんですけども、資料整理グループ、ドキュメンテーションですけど、美術館では、先ほどの新聞切り抜きなどの後の整理が大変でして、それを専門家としてやっていただきます。あと、美術館には画廊ですとか、ハガキ類が多数送られてきますので、そういうものを順に整理していただくという仕事です。それからパソコンのチーム「桐の会」で、桐というのはソフトの名前でして、データベースソフトなんですけど、パソコンを導入してから、最初は住所録から始まりまして、収蔵品データ、そして今は館にある図書データを入力していただいていまして、これもかなり成果が上がっています。現在、館の3万冊以上の図書の90%以上の入力ができていまして、近いうちにインターネット上で公開するという予定もございます。
それから、ボランティア内のお世話をするのも、できたらボランティアさんで、していただきたいなというのがございまして、研修旅行についての計画、立案ですとかいろんな資料についてはグループ活動でお願いしています。それから、触察。手で触れていただく鑑賞についても、一応全員の方にやっていただくんですけど、かなり団体で多くの方がいらっしゃったときとか、人数が足りない場合がありますので、お願いするような専門的な役を置いています。それから、今年度から他館ではよく行われています、普及に関するボランティアということで、特に、実技関係ですね。当館でも、夏休みに子ども向けのワークッショップを開催していますけども、それの補助をしていただけるグループを今年度より始めました。それで、先ほど言い忘れましたけど、ボランティアさんの特典と言いますか、ボランティアさんに対してだけのことで、普通、展覧会がありますと、関係者の内覧会、テープカットが行われますけど、それよりも前にボランティアさんにはご覧いただこうということで、「ボランティアプレビュー」と言いますけども、それを実施しています。ですから誰よりも早くその展覧会をご覧いただける機会を設けています。ところが残念ながら、以前は100名ほどいらしていただいていたんですが、これも何回も続けてきますと、マンネリ化してきて最近では50人くらいになっています。5年ほど前に当館に天皇陛下がいらっしゃったんですが、そのときに一般には立ち入り禁止の場所でお見送りをするということで、ボランティアさんに出席を依頼しましたところ、そのときには200名を超える方の希望がありまして、私はそのとき担当で分刻みのスケジュールで対応しました。
次に問題点ですけども、今年美術館は15年目になりますけども、当館の場合は開館当初からいらっしゃるボランティアさんもいらっしゃいます。15年間、活動を続けていらっしゃいますけども、どうしてもマンネリ化に陥りやすいということと、こちら学芸員の立場としてもなかなか活性化というのも難しいところがあって、実際これだけ多くいらっしゃいますので、本来でしたら専門の分野を分けて、コンピューターを使える方はコンピューターとか細かな分野での活動もしたいわけですけど、そういう組織を組むのが難しいというのが現状です。ただ先ほどの話にもありましたが、今美術館というのは、年間入館者数が減っておりまして、「美術館のあり方」というのが問われている時代だと思うんです。そこにおいてやはり、地域住民との関わりという意味でボランティアさんが今後、大切になってくると思います。当館でもアメリカ型の、アメリカで導入されていたボランティアをモデルにしたわけですけども、15年経ったところで、もう一度見直して、これはどういうものかわかりませんけども、日本的なボランティアというものを打ち出していく必要があるのだと思います。以上です。
司会:
ありがとうございました。次に考古博物館の事例で、静岡市立登呂博物館の浅野毅先生に体験指導ボランティアなどの事例をお話していただきます。
事例報告3:
静岡市立登呂博物館 学芸員 浅野 毅
登呂博物館の浅野と申します。よろしくお願いします。私ども登呂博物館のボランティアは、きっかけとしましては平成6年に体験型の展示に改装しました時点でした。当初はワークシートというものを置きまして、お客さんが自由にものに触りながら、体験しながら通っていただこうと考えていたんですけど、どうしても人がいないとその中がスムーズに動線がとれない、展開していかないということがありまして、いろいろと試行錯誤していく中で、やはりボランティアを導入することになりました。
基本的には、体験指導員という方がいまして、その人たちの補助をしてもらう形です。体験指導員は嘱託の方達ですので、その場所についての義務と責任を伴っています。それでボランティアの方達に、その体験指導員の補助をしていただくということで、常にいらっしゃるのは、現在は20名です。今年度、若い方も入りましたので、24才から71才までいらっしゃいますけども、平均で53才です。
もう一つ、今年度から始めたものに学芸補助ボランティアがございます。これは2名しかとりませんけども、はじめに言いました体験指導ボランティアの人たちは一応、報酬を払っているんですが、学芸補助ボランティアの2名は全くの無償です。学芸補助ボランティアの方たちは、主に、展示・資料の手伝いをしていただいていまして、民俗の分野では調査の協力、考古の関係では土器の拓本をとったり、あるいはデータをとったり、という作業をしていただいています。それともう一つ、土器を製作するという作業もあります。これはもちろん、本人の強い意志もあるんですが、登呂式土器というのがあるんですけど、それをなるべく忠実に作っていきたいということで、非常に努力して作っていらっしゃいます。体験指導ボランティアの方は、1階の体験型の展示室内で、指導員の補助だけではなくて、お客さんに直接、道具の使い方を指導していただきます。その人たち自身も登呂遺跡に興味がある方、また登呂博物館に何か協力したい、あるいはまた社会の接点として博物館に関わりたいという生涯学習的な要素をもって来られる方もいらっしゃいます。昨年も募集しまして、今年度の人たちを募集したんですけど、申し込みの基準としましては、18才以上70才までです。歴史系の博物館ですので、結果がはっきりしない、抽象的なこともありますので、一応最低でも18才としています。それで通える方であれば、市内でも市外でも受け入れるようにしています。今年度は応募者15名おりまして、昨年からの継続者もありますので、全体で20人です。
それで、研修の期間ですけども、2月6日から3月11日までの中で6回です。毎年、研修をやってきまして、最初は10回だったんですけど、10回の平日や土日の研修はかなり厳しいわけです。そうしますと、参加者が研修の段階で終わったときには半分に減ってしまうというようなことがあって、現在6回にしています。内容としては、もちろん登呂遺跡の内容になりますけど、体験型展示という中では非常に擬似体験的なものもあるんです。その中に「弥生人ごっこ」というのがあります。私どもの研修の中でも特徴的だと思うんですけど、赤米を土器で炊飯したり、実際に食べたり。そういった実際の体験が伴わないと、実体験の展示の部分がありましても、お客さんに説明するにも言葉として伝わらないわけです。ですから、研修の中で実際に裸足で田下駄をはいたり、おいしくないかもしれませんが、ご飯を土器で炊いて食べてもらったりします。
あと、来館者の動きと対応する解説、お客さんと同じ視点で考えてもらう説明をする。知っていることをすごく話したくなるんですけど、そういうことを押し売りしないようにと。お客さん自身は博物館に、いろんな事情を持って来られるわけです。そうしますと、何を見て、あるいはまた何を見ていないのか。こちらの意図する展示を半分しか見ていない方もいますし、2人連れで来てずっと話をしていて、そのまま出ていってしまったりということもありますけど、それはそれで博物館を楽しんでいってくれている。そういうようなことを研修の中で伝えるようにしています。他には、どうしてもボランティアの方たちそれぞれの都合があって、ボランティア自身が会う機会が少ないものですから、年4回の会合でそういった機会を得るということもあります。あとは学芸員とも親しくなってもらうように、それもねらいとして学芸講座研修をしています。やはり考古系の博物館ですので、市内の遺跡調査があれば、現地見学のできるときには訪れるということもして、なるべく弥生時代の様子を具体的に理解してもらえるように、お客さんに少しでも伝わるようにと考えて行っています。こういった研修を続けてきて、もう6年目になります。
体験指導ボランティアの効果としましては、やはり体験型の展示というのは、原寸大のジオラマと同じなんですけど、その中にお客さんが入ったときに1つの媒体となってお客さんと展示をつなぐという重要な役割をしていると思います。ボランティアの方たち自身も何年かやっていらっしゃる方には、登呂遺跡や弥生時代に興味を持って、それぞれの自分のテーマが見つかってきて、そういう人たちは登呂遺跡で出土した穀物に興味を持ったり、あるいは機織りに興味をもったりしています。それが最終的に展示につながっていけばいいんじゃないかなというふうに考えています。
私ども博物館の体験指導ボランティアには報酬を出していますけども、一律で1日400円です。これは市内のバスの往復程度です。先ほどの美術館では千円ということでしたけども距離的なスケールがちょっと違うので、うちはこれでいいかなと思います。館ごとにちょっと似たようなことをしているようでも、やはりそれぞれの館で事情が違うんじゃないかと思います。うちのところでは、最初に「お金を出します」と言ったら、「お金が欲しくてやっているわけではありません」と言われましたけど、今でも400円出すようにしています。それはボランティアの方たちの通信費、つまり何かを調べようとすると、どこかへハガキを出したりしますので、そういった費用です。あるいは交通費に少しでもあてていただく。うちの博物館でも清水や藤枝から通っていらっしゃる方もいますし、また近い方では、遺跡の公園のすぐ横に住んでいらっしゃる方もいます。バラバラなんですが、それでも一律400円です。
これからのことですけど、体験型の展示といっても屋内でやってるものですから、せっかく遺跡公園というものが隣接されている良い環境にありますから、そういったところに出ていくような形でやっていきたい。そのためには、多くの選択肢を博物館や学芸員が提示していく必要があると思うんです。もちろん、ボランティアが興味をもっていくことも重要ですけど、それをカリキュラムとしてうまく組んでいって、それが展示として見せられる状態を恒常的に行えるものになっていくことが、一番理想じゃないかと考えています。最終的には、これは、私の中で考えていることですけど、実際の資料を見ていただくことも重要なんですが、もっと弥生の機を織る人が遺跡の中にいたり、あるいは住居を補修したりとか、そういうものをうまく展示の中に取り込んで、展示の中と公園の中が一体となって「弥生の生活カレンダー」というようなものが見られる、あるいは感じられる状態にしていけたらというのが、これからの目標というところです。
司会:次は、動物園でのボランティアの事例を、日本平動物園佐渡友先生にお願いします。
事例報告4:
静岡市立日本平動物園 主事・学芸員 佐渡友 陽一
日本平動物園の佐渡友と申します。私の場合、今回個人的な立場で来させていただきました。と申しますのは、私は現在ボランティアの担当職員をしておりますが、以前はボランティアを自分がやっていたんです。ちょっと珍しいタイプだと思いますので、その辺の紹介からさせていただきます。
まず、資料の14ページですけど、個人的ボランティア関係歴というところで、まず最初に大学時代に、日本平動物園の友の会ボランティアをやっていました。この友の会ボランティアというのは、先ほど陶磁資料館の浅田様からお話がありましたものと同じような形で、友の会の運営を主体とし、その他の各種イベントを実施するというものです。それから、生命の星・地球博物館でもボランティアを一年間重複してやっておりました。こちらの方は、登呂の浅野さんから報告がありました学芸補助ボランティアと同じようなタイプのものでして、私はここで、博物館学の学芸員さんのお手伝いで、入館者アンケートの分析というちょっと変わったボランティアをやっておりました。これらのボランティアの経験を経て、現在静岡市に就職し、たまたま日本平動物園に配属されたのですが、就職したときに、なぜかボランティア育成予算がついていまして、入っていきなり1年目にして、ボランティアを立ち上げるという仕事をやらせていただいたわけです。平成11年の1月にガイドボランティアの養成講座を行いまして、その後4月から活動を行いました。約1年経って、11年の12月からコーディネーター会議というのを行いました。これはボランティアさんと相談しながら「このガイドボランティアをどうやっていこうか」という方針を策定するために行ったものです。この結果、「ボランティアのやることはボランティア自身が決めていこう」ということになりました。そして、これを踏まえて、12年4月から新しい班を設置したり、あるいは複数班に重複所属をするというボランティアの組織改革を行いました。現在、この7月に追加募集の準備をしており、今回はじめて新人研修を企画しています。これも担当のボランティアさんにお願いして、お手元にお配りしてあるピンク色のチラシや、後ろの方に貼らしていただいた2種類のポスターを作って頂きました。会則とかハンドブックの策定を続けているところです。
その他、私が現在やっている個人的な活動として、1−4の「しずおか環境教育研究会会員」があります。これも要するにボランティアなんですけど、博物館と違うところは特定の施設ではないところです。それから1−5の「メーリングリストZooEducation」というのを動物園の教育に関わっている方々とともに創りました。こちらはネット上で、動物園で教育をやっていくにはどうしたらいいだろうかと考え、今回、環境教育学会でこの5月にその成果を自由集会で発表しました。
個人的な話はこれくらいにしまして、うちの動物園の話に移りたいと思います。レジュメでは、「2.日本平動物園のボランティア」になります。
まず、友の会ボランティアの方ですが、こちらは友の会自体は昭和51年に始まり、それから5年ぐらいしてボランティア活動が始まったそうです。ボランティアの構成は、中学生から60代まで約20人という形になっています。それから2-2のガイドボランティア。こちらは昨年創立されました。ボランティアの構成は中学生から60代まで現在は約40人。年齢的には私より若い人の方が多いです。だから、平均はだいたい20才くらいになると思います。男女比は1:2と女性が多数派です。さらに年齢的には、親子ボランティアを導入しまして、今上限も下限も一切ありません。どんなに小さな子でも親と一緒だったらボランティアとして入れるという形をつくりました。
現在は、組織基盤の整備中でして、活動内容自体もこれから向上させてゆかなければならない段階です。活動基盤については、この辺の話は先ほど、神谷さんから教育長の決裁をとられたという話をしていらっしゃいましたけど、こちらの方はボランティアの独自組織という位置づけをしております。将来的には、NPOを目指していこうということも言っています。神谷さんが先ほど、二重の意味でボランティアというのは生涯学習であるとおっしゃいましたが、私もこのボランティアの養成講座を行う目的として、生涯学習の場を提供するという点を強く打ち出したつもりです。ですから、ボランティアの位置づけとしては、まず一段階としてボランティアさんの生涯学習、それからガイドボランティアというグループと動物園が協力して何かをやるという意味でボランティアさんに場所を提供する、いろんな情報を提供するというような考え方を私はしています。
これらのボランティアを担当する中で、あるいは自分がボランティアとして活動してきた中で私の中にできあがってきたのが、2−3の「自律的に成長できるボランティア」という考え方です。これにつきましては、15ページの図1をご覧下さい。これが、私の考えているボランティアの、いわば育ち方です。
まず、最初にボランティアに入る人は、「よく分からないけど面白そう」という状態で入ってくるんじゃないかと思います。これが、実際にやってみて「楽しかった」と感じてもらうことが第一に必要だと思います。しかし、ボランティアとは言っても、責任はあります。来ると言って来なかったら、みんなが困ってしまいます。これが、上に書いてある丸の「楽しさ」と「責任」です。私は、この段階では、自由に活動できる枠があって、新しいアイデアを自分で考えてやってみる事が大切だと考えています。その意味で、施設側が大枠を決めて、その中で何をするのかはボランティアさん自身が決めて行く形がいいのではないかと考えています。
そして、この楽しさと責任のバランスの中でやりがいを感じてもらえれば、そのボランティアは定着していって、それで右下の丸に進むわけですが、自分たちが考えたことを実行する力が必要になります。つまり活動基盤が必要になるわけです。実際に活動基盤を整えて行くにあたっては、様々な環境が必要になると思います。右下に書いてあるのが、ボランティア内の条件で、それが「負担を集中させない」ことと、「ボランティア間コミュニケーションの充実」です。誰かが考えたことをみんなで共有して、実施してというような形が大事じゃないかなと思います。
それからもう一つが、右上にあります「職員との関係」です。ここではまず、お互いの領域を侵さないという意味での「仕事の区分」がある程度必要だと考えています。神谷さんのお話では、事務補助のボランティアは行わないという、こちらにあまりいかないようにするためには、やはりこういったことが一番にあるんじゃないかと思います。同時に、お互いに相手の存在が必要であり、かつ相手に負担を掛けないという微妙な関係がなければ、少なくとも、うちの動物園のように職員側に組織的な体力のないところでは、なかなかボランティアは育っていかないんじゃないかと思っています。また、ボランティアが職員の下請けにならないためにも、私は、こういう形の方がいいと思いますし、それからボランティアさんに広く、生涯学習の場を提供していくという意味でも、こういう形でいってみたいなと思っているところです。もう一つ、職員との関係でとても大切なことがありまして、書き忘れてしまったので、是非手書きで入れていただきたいのですが、それは「目的意識を共有」することです。先ほどもちょっと申しましたが、これは博物館ボランティアに限った話ではなく、「市民と行政の連携」といった話になると必ず出てくるのですが、異なる立場でお互いの長所を生かしながら、共通の目標を実現するために共同歩調を取ることが、ボランティアの成功のために何よりも大切ではないでしょうか。
そして、こういった形で活動基盤が整備できれば、左下の「より広く、より多く」というステージに進み、より多くのボランティアさんが活発に活動してゆけるでしょう。しかし、もちろん、活動のバリエーションを広げて行くためには、より広い活動の枠が用意されていることが必要ですし、人数を増やすためには知名度や広報力といったものが必要になるはずです。
いずれにしましても、この段階へ進めば、活動はより楽しくなり、やりがいの感じられるものとなっているはずです。これで一周するわけですが、質的には最初より向上していますから、正確にはらせんを描きながら向上してゆくイメージになるでしょうか。また実際には、活動基盤の整備なんか、一朝一夕にできるものではありませんから、本当に少しずつ、何年も掛けてだんだんに活動を向上させてゆくことになると思っています。
ここで、この輪を回して行くのがコーディネーターの仕事になると思っています。具体的には、制度的なサポートをしたり、あるいは実際の事務仕事や関係者の間の調整を行ったりするわけですが、この仕事を現在は職員として、私が主にやらせて頂いているわけです。将来的には、ボランティアさんに今、ガイドボランティアの方では、「コーディネーター」という名の役をお願いしていますので、こういった方々を中心にボランティアさんが一丸となって、この役割を果たしてくださることを期待しております。
次にレジュメの3の方に入っていきますけども、ここからは学芸員資格を取ろうとしていらっしゃる学生の皆さんにお伝えしておきたいことです。「学芸員というモノの見方を基盤とした自己実現」という部分です。私、昨年もこのシンポジウムに呼んでいただきまして、その際に「学芸員資格を取る中で得たモノの見方を大切にして欲しい」と発言させて頂きました。今回はそれをもう一歩私自身に引き寄せて、皆さんの参考になればと思って紹介させていただきたいと存じます。
これにつきましては、16ページの図2をご覧下さい。これは、最初にお話した私のボランティア歴を中心に図にしたものです。まず、中央・上の四角、大学時代の動物園研究とありますけど、最初、私が動物園の研究をしようと決めたとき、実は私は動物園が博物館の一種だなんてこと知りませんでした。そんな状態で、当時東京に住んでいたんで上野動物園で実習生としてお世話になることになり、結局大学4年から修士の1・2年の3年間、ご迷惑をお掛けしました。そんな中で培われたのが、「動物園研究」から右上に矢印が伸びている「動物園教育関係者とのネットワーク」です。研究自体は社会情報学的な分野だったのですが、個人的な興味が教育普及分野にあったものですから、この方面ではそれなりの蓄積をさせていただきました。
この研究の中で私は、今につながるテーマを得たんですけど、それが、「動物園における環境教育」です。動物園の世界では「種の保存と環境教育」と言われるのですが、自然破壊によって多くの動物が絶滅に瀕している現代、動物園は希少動物を優先的に繁殖させ、繁殖個体を野生に戻す種の保存と、危機的な自然の状況を伝え、保護への参加を訴える環境教育に力を入れるべきだということです。ただ、この時点では、私はこのテーマに全面的に賛成したわけではなく、どちらかというと本当にそれができるのか、またそれを中心に据えていいのかという疑問が、私にとってのテーマでした。
それから、研究と同時に中央・右のボランティアを経験し、さらに現在静岡市の職員として採用され、動物園に配属されたわけですけど、ガイドボランティアの立ち上げに関わることができました。それで、職員として採用されたことで市役所の職員内にネットワークができてきています。園内では、「FESTA ZOO」という若手研究会を開いております。そして中央の最後の四角、左側のやつなんですけど、すいません、これ書き間違いました。ここは正しくは1−4にあります「静岡市環境基本計画・市民ワーキンググループ」です。これに参加した理由は、動物園が行おうとしている環境教育が、自然体験を中心とした現代の環境教育と相容れるものなのか、またどうしたら連携を計れるのか模索するためでした。この結論は、私の中ではまだ出ていないんですけど、ただ、動物園のやろうとしていることも理解してもらえるらしい、あとはどう説明するかにあると考え、私も動物園での環境教育を実現してゆきたいという気持ちが段々強くなってきているわけです。
そんなわけで私は「動物園を環境教育の基地にしたい」などという大それたことを考えるようになったのですけど、こうやって図にしてみますと、仕事以外の部分が圧倒的に多いんですね。言ってみれば、ボランティアとしての活動が、今の学芸員的な私を作ってきたんじゃないかと思います。そして、その仕事でない活動もこの動物園での環境教育に集約させて行きたいと考えています。
具体的に、ここにある4つの組織は、2重の四角で囲ってあるものですが、それぞれ私のテーマの上で重要な位置づけを担えると考えています。右上のメーリングリストは、日本の動物園の環境教育を練り上げる、という位置づけ。そして、右下の日本平動物園のガイドボランティアは、日本平動物園での環境教育を実施していく主体。そして、左下の若手勉強会というのは職員の自主的向上をはかる。それから、左上の環境研究会は静岡市の環境教育の専門家集団。これらそれぞれをしっかりしたものにし、同時にそれらの活動をつないで行くことにより、当園での環境教育を実現し、推進してゆければと夢見ている次第です。
詰まるところ、私はこのようにして、自分のアイデンティティというものを学芸員的なモノの見方から得たものを据えるに至ったわけです。しかし、私は学芸員として就職したわけではなく、学芸員資格を持っていることは、このような場にお呼ばれする時くらいしか意味を持ちません。そういう意味では、学芸員という職、あるいは資格にはあまりこだわる必要はないのかなと感じています。それに、私は動物園で3年目ですから、そろそろ異動かなと思うんですけど、現在の仕事とは全然関係のない仕事であっても、この図を見ても分かるように、一見脈絡のないものが思わぬ所で役に立っていることが多いんですよね。市役所の事務職の経験が環境教育研究会やNPOの資格を得るのにいいというようなこともあります。そういう部分こそが、私が人とは違う役割を果たしうるポイントなのかもしれません。
こうやって考えてみると、一番大切なことは、そこにやりがいを感じられることじゃないかな、という気がします。こういった博物館のボランティア活動なんかをやってみて、「こういうのって結構面白いでしょ、やりがいあるでしょ」って感じられる、そういうセンス、モノの見方が大切なんじゃないでしょうか。そして、それがうまくいけば、仕事にはならなかったにしても、自己実現の手段には十分なりうるのではないでしょうか。私からは以上です。
司会:ありがとうございました。ご自分のボランティア経験と、現在のボランティア活動を組織する立場からの事例報告をいただきました。
最後に、浜名湖の北にあります細江町立姫街道歴史民俗資料館の栗原先生から、ボランティアサークル「いぐさ会」の組織設立と活動状況の事例をお話しいただきます。
事例報告5:
細江町立姫街道歴史民俗資料館 学芸員 栗原 雅也
細江町立歴史民俗資料館の栗原でございます。よろしくお願いします。まず、報告をさせていただく前に、館の運営を支えて下さっている嘱託職員とボランティアの皆さんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。本日のこれからお話しします報告も、皆さんの意見を伺い、またディスカッションをしていただいた成果であることを申し上げておきます。
私の立場をお話させていただきますと、資料館の学芸員と申しましても、席は本庁の社会教育課にあります。文化財全般と資料館の管理運営の担当、そして埋蔵文化財の担当で発掘調査も行なっています。今のところ、正規の職員としては私一人でやっております。いわゆる雑芸員という名称で呼ばれる最たるものでして、そんな人間をこういう席に座らせていただいたということは、「学芸員という名称に甘い幻想を抱くな」という柴垣先生から学生の皆さんへのメッセージかなと思っています。
さて私達の町細江町は、隅から隅まで車で走れば15分くらいで行くことができる小さな町で、人口は2万1千人余です。奥浜名湖に位置し、浜名湖と湖北の山並に囲まれ、都田川の平野に開かれた、自然が豊かな住んでみたいという町です。一方銅鐸とか姫街道、気賀関所に象徴されるような文化と交通の要とも言うべき土地です。最近では、古代の引佐郡衙の可能性が高いと見られる井通遺跡の発掘調査もすすめられていまして、ますますその感を強くしています。
細江町は、浜名湖みかんの町としても広く知られていますが、純農村であった中川村と、今申し上げました人と物の集散地であった気賀町が合併してできた町です。
細江町立歴史民俗資料館は、社会教育課所管の社会教育施設として、1980年8月5日に開館しました。ですから、この8月で開館20周年になります。展示面積は234uと小規模ですので、自然や歴史環境に基づくテーマ展示をしています。そのテーマは四つあるんですが、「銅鐸」「姫街道」「浜名湖の囲目網漁」「琉球藺栽培と畳表生産」です。最近では、企画展の成果を生かして、日本の近代化の礎として、細江町でも盛んに行なわれた養蚕の展示も常設に加えております。
職員は、館長を教育長が兼務しております。私と、そして常時館に働くのは元社会教育指導員の先生と女性の臨時職員2名が、1日2名体制で勤務しています。
館の概要を紹介させていただきましたが、銅鐸といいますとどんなイメージを抱くでしょうか。謎と古代のロマンに包まれた遺物、また姫街道と聞くと、ロマンティックな街道のイメージが沸き上がるのではないでしょうか。以前の当館の運営は、そんな資料の優位性、価値の高さにもたれかかっていた部分を否定することはできないと思います。1994年と95年に静岡県教育委員会が文部省の補助を受け、実施した「生涯学習時代における歴史民俗資料館のあり方調査研究委員会」に、たまたま私も参加する機会をいただきまして、生涯学習社会に求められる博物館とはどのようなものかという観点で、そういった以前の運営を振り返り、反省することができました。
今、私達の館は、学習の場を提供する博物館、利用者の学習活動、文化創造に支えられた博物館を目指して、企画展や講座の展開を試みています。具体的にどういうことをやっているかというと、まず、今日のシンポジウムのテーマにもあります、「説明ボランティア養成講座」。これは、博物館学習のサポーターを養成しようといったプログラムです。それから、「歴史民俗資料館講座」。学習のテーマときっかけを提供しようというものです。そして、「調査研究員講座」。ちょっと聞き慣れない講座名かもしれませんが、講座とは言いながらも、自分の好きなテーマで好きなように調査、研究をしていただきまして、そしてご自分で講師として、みんなの前で講演会をしました。そんなふうな講座です。ですから、学習の場を提供して、さらに調査、研究していただいた成果を資料館の資料として、情報提供機能を形成するということです。それからもう一つ、体験学習というモノを直接扱う学習、端的な学習のスタイルを実践して、そういった中で地域の人たちに「文化財って大事なんだよ」ということをわかっていただく、そういった博物館の社会性を実行していこうという体験学習サークルをやっています。ちょっと名前が誤解を受けやすいんですが、「資料館友の会」といいます。
今、お話しました「説明ボランティア養成講座」と「調査研究員講座」の両方を修了した方には、博物館学習のコーディネーターとして「細江町学芸員」という称号をさしあげています。私どもの館におけるボランティア活動も、そういった運営方針の線上で、まさに学習活動の実践者という位置付けで活動していただいています。
次に、レジュメの2番になりますが、現在行っているボランティア活動は、組織的に行っている活動としては、「説明ボランティアサークルいぐさ会」ともう一つ、「資料館友の会」があります。「いぐさ会」では、現在定年退職された男性ですとか、私とちょうど年齢層が同じくらいの家庭の主婦など、そういった方たちで13名。実際動いていただいているのは、8,9名なんですが、その人たちが「いぐさ会」の活動をしています。「資料館友の会」は、指導者層のボランティア、友の会そのものは子どもたちを対象としたもので、その指導者ですね、これはだいたい、30代から50代の資料館の運営委員、教員、役場職員などの6名が指導者として活動して下さっています。また、組織的な活動以外に定期的に、花を活けかえて下さる女性や随時資料整理を手伝っていただく方などもあります。
また昨年調査研究員講座で、町内の伝承や習慣を研究した女性からは、「自分でぜひ、かたりべボランティアサークルをしたい」という要望もいただきまして、こちらの方としても、やっていただきたいことであります。
資料の1をご覧下さい。19ページです。「説明ボランティア養成講座」を行っていると申し上げました。この講座を開設したのは、1996年です。96〜97,98と続けて「説明ボランティア養成講座」を行いました。それと並行して、「調査研究員講座」を毎年行っております。私どもの館の場合、ボランティアを募集するというのではなくて、まず、ボランティア養成講座を開いて、その受講者の中からボランティアサークルを立ち上げていくという経過を辿ってきました。その間に、資料1にあるように、97年の10月の歴史民俗資料館運営委員会で、資料館ボランティアの活動要項の承認を得ました。それが資料4です。これはどういうものかと言いますと、先ほどの発表の中でもボランティア活動組織の位置付けとして、公的な決裁手続きが必要だというお話がありましたが、この活動要項も同じような意味合いで、「私ども資料館はボランティア活動に対して、これから積極的に取り組んでいきますよ」と宣言して、それを公的に認めてもらったという意味合いがあります。ですから、私達の教育委員会で教育長の決裁を受け、そして資料館の運営委員会の中でもいただいて、そういったボランティア活動を行う環境を整えた上でまず、養成講座を立ち上げて、ボランティアとして活動を希望する人たちに呼びかけました。
そして、98年度の4月から3回にわたって、養成講座を修了された方々、みんなで立ち上げの準備会を開きました。
その中で、例えば98年3月7日の第2回準備会では、規約案を作成しました。案を作成するといっても、基本的には活動要項に沿った内容になるのですが、館が作った規約をボランティアの皆さんに、ということではなくて、ボランティアの皆さんでつくっていただくというわけです。そういうふうな準備会を重ねまして、98年4月11日に設立されました。そういう経緯をたどって、私どもの館のボランティアサークルはできました。
参考までに、資料2は養成講座の実施要項です。どういった講座を行ったかというものです。資料3は修了者、あるいは学芸員取得者の数を示しています。そして資料5がボランティアサークルの皆さんにつくっていただいた規約です。
規約第2条を見て下さい。いぐさ会の目的は、ボランティア活動を通じて、資料館運営の推進に参加し、自己の実現をはかり、細江の文化を創造する、まさに生涯学習の実践者であるということです。
いぐさ会の主たる活動は入館者に対する案内、説明、レファレンスです。現在、ちょっと問題点でもあるところなんですけど、その活動の当番スケジュールは定めておりません。要するに、好きな時に出てきてもらっているという状況です。これについて、実は、定例会でディスカッションしたばかりです。一つはちょっと恥ずかしい話なんですが、平日は入館者があるとは限らないものですから、いても仕方がないと。もう一つは、主婦の方ですと、育児や、仕事で平日忙しい皆さんにとっては日曜日は大事な自分の時間であり、必ずしも来れるとは限らない、無理なときもあるから楽しみながら長続きさせるために当番制ではない方がいい、といった意見が大半を占めています。一方、当番制にすることで自覚が生まれるという意見もありますし、また定年退職された方の中からは予定さえ決めておけば気楽に動ける立場になったからという意見もあります。私達のボランティアサークルで、今後も議論が絶えない大事な問題だと思います。
定例会は月1回開き、情報交換連絡事項の他に、展示テーマや古文書解読などの勉強会をしています。養成講座の折にアンケートをとったんですが、「講座を修了しただけでは説明はできない」、「養成講座は学習の切っ掛けに過ぎない」、という意見が出ていました。現在、定例の勉強会が、サークルの組織の要になっているようです。ただ昨年は受講希望者がなく、講座が開けませんでした。ボランティアの要望、養成は多方面に渡りますから、これは当面頭打ちということがあっても当然です。
ただ、養成講座受講者からサークルを立ち上げたことが、会員拡大の間口を狭めることにならないかやや懸念のあるところです。
一方問題点だけでなく、古文書勉強会の成果をもとに、ボランティアの皆さんが自分たちで来年の春、古文書の企画展を立ち上げてみようという計画もできています。
さて、一番最初に私達館のことを申し上げましたが、職員体制にも問題がありまして、ボランティアサークルの自主的な活動を、館の運営の中に受け入れてゆく部分での活動の世話の手間ひまは館の、あるいは学芸員の私の責務であるとわかっているんですが、なかなかできない、そういった反省も込めて、レジュメの4−1のところをご覧下さい。「ボランティア側でも年間計画を立てようにも何をしていいのかわからない」とレジュメに書いたところ、サークルの皆さんから反論をいただきました。各々やりたいことはあるのだけれど、一致するものでもないし、といって全体の目的がはっきりしない。ボランティア活動そのものをしたい人もいれば、勉強をしたい人、様々なんだと。資料館側としても、勉強が主目的でもいいんですが、それが館の活動の何かに結びつけば互いにプラスになると思います。今後も互いの目的や要望、意見など出し合って一致点を見つけてゆく必要がある、というのが今回の定例会の結論でした。この今日の報告の準備作業が思わぬ収穫を生みました。
話が変わりまして、体験学習サークル資料館友の会では、最近年ごとにリピーターが増加してきまして、今年は会員11名の内5人がリピーターです。この会が、会員の子供達と、保護者、地域の大人たち、ボランティアの指導者によって自立した運営がされるようになることが評価の始まりだろうと思います。そして、会員の中からボランティアの指導者が生まれることを期待しています。
さて、今後のいぐさ会の活動において、目標をいかに表に出し、引き出し、実現し、かなえてゆくか、これは会員と資料館の話し合いにかかっていると言えそうです。以前の養成講座の中の一つの講座、話し方講座の講師として、フリーアナウンサーの福井一太さんをお招きしたことがあります。福井さんのお話の中で、テーマパークを例に挙げ、入館者に楽しく学び気持ちよく帰っていただくために、資料館で活動する一人一人の演出を大切にすること、つまりおもてなしの心を演出すること、そしてそれを可能にできるのが話し合いだとおっしゃったことを強く記憶しています。展示してある資料の向こうに、館内のそこここに、活動している、館員、学芸員や職員、ボランティアなどの存在が感じられるような博物館を、いぐさ会と資料館で目指してゆきたいと考えています。
討論・質疑
討論参加者: 神谷、浅田、飯田、浅野、佐渡友、栗原 各学芸員の諸先生
司 会: 柴垣勇夫(センター教官)
司会:
いろいろな博物館のボランティアの発表がございました。そういう中で、大変苦労されている様子がうかがわれました。ボランティアの方々との意見交換もされて、さてこれから、ボランティア活動の中味の充実をはかっていこうというふうにお見受けいたしました。そういう中で、博物館ボランティアはどういった点に主眼を置いたボランティア活動なのかというところで、最初の基調講演の中に名古屋市美術館の神谷先生からお話がありましたように、美術館ガイドボランティアというのを中心に据えたボランティア活動というのが、博物館ボランティアの中心ではなかろうかというお話がありました。そういう中で、高齢化社会に向けて、ボランティアの方々の年齢層というのは、かなり高いところにきているんじゃないかと思われます。その点で、各館の実状というところをざっとお話をうかがって、それから現在ボランティア活動をされている方々が、会場にもお見えになっていますので、その方々のご意見もうかがって、一つの討論の場としたいと思います。
それではまず、ボランティアの年齢層の問題につきまして、最初に神谷先生の方からお話いただきたいと思います。
神谷:
資料の8ページのところに、第1期生のデータがありますが、年齢層で言いますと、圧倒的に若い人が多いです。それから、書類選考や面接等をして、最終的に登録される人の率ですけど、これも若い人の方が高い。こういう結果になっています。第2期の今、研修している人たちは、もっと若い人たちが多いんです。平均で30才前半になってきています。これは、特に意図的に選んでいるわけではなくて、最初にお話しました、2つの意味での生涯学習ということで、参加する人の学習と来館者の学習のことも考え合わせて、自分だけ学んで終わりという、カルチャーセンター代わりに思ってもらっては困るというところから、人を選択して、こういう結果になっています。
浅田:
私どもでは、友の会のボランティアの場合は、友の会ができてから、約17,8年になるものですから、その頃リタイヤされて、最初に入られた会員は70才を超えています。しかし、昨年度から新たに募集しました展示解説ボランティアは、ここに30〜70代と書いてありますけど、30、40代が多いです。しかも、男性で40代ぐらいということは、仕事もされていると思うんですけど、割合そういう方が多いです。ですから、少しボランティアに対する認識、これがただ博物館だけではなくて一般のボランティアも含めて変わってきているんじゃないかという気がしています。ただある程度、年齢のいかれた方には、先生をやっていた方、そういうような方が多いものですから、それから考えていくと、小学生、子ども相手の解説というよりは、かなり知識もあって、興味をもった見学者への解説をしていただくと喜ばれるんじゃないかなと思います。ですから、どういう方法で選択して来ていただくかというところに、年齢や経歴などバラエティがあった方がいいんじゃないかなという感想を持っています。
飯田:
先ほども申し上げましたが、当館のボランティアは平均年齢56才で、最初を含めて4回募集を行っていますけども、最近行った募集に限り、応募者が多くて半分に抽選をさせていただきました。それ以外は、応募していただければ登録できるという形になっていますので、全くその姿がボランティア希望者の年齢層と合致しているということになります。中には、若い方も応募されるときには当然いらっしゃいますけど、活動がグループに分かれると、自分のお父さんやお母さんぐらいの年齢の人達と活動するということで、本来的には、そういった世代の違う人たちが一緒に交流することが、非常に意味のあることだと思っていますけども、現実にはどうしても途中で辞退するようなことになってしまいまして、これも問題だなとは感じているところです。
浅野:
うちでは、年齢幅がたまたま今年度からは、24才〜71才までかなり幅広くなったんですけど、それまでは男性が3名で残りが女性、それも主婦の方が多かったんですけど、その方たちの参加できる曜日というのが、平日の方が都合がいい。土日は家庭があるので参加できない。しかし、博物館としては、むしろ土日の方が来館者が多いものですから、出ていただきたい。あるいは、何かイベントを催すにもなかなか主婦の方が出にくいという傾向があります。ところが今年度は、仕事をもっていらっしゃる20代の方達が入ったことによって、その方達は逆に、通常の土日の休みの方達なので参加してくれます。さらに、昨年までは12名しかいなかったものですから、1ヶ月単位の中で多く参加してもらうというのが無理だったんですけど、今年度人数が増えてきたことによって、それぞれの負担がすごく軽くなりまして、出方に余裕が出てきました。やはり、人数の問題というのが重要だと感じております。
佐渡友:
うちのボランティアの年齢層の方は、ある程度、お話しておりますけど、友の会ボランティアは中学生から60代と幅広くなっておりまして、若い方が多い分、平均年齢はかなり低めです。ただこちらは、25年にもなる歴史のある団体ですので、20年以上も頑張って下さっている方が中心になっています。その一方で、新しく入った方がなかなか定着して下さらない、なので結果として新しいことに取り組むだけの力を持てないのが辛いところです。
一方、ガイドボランティアについても、中学生から60代と幅は広いのですが、私よりも若いメンバーが半分以上と平均年齢は低めで、20代後半です。特に、20才前後の学生さんが頑張ってくれています。また、仕事をもっていらっしゃる方も多く、チーフコーディネーターという代表の方は、40代の男性です。まだ歴史の浅い団体ですので、問題点ははっきりしておりませんが、現時点では皆さんが盛り上げてくれていると感じています。
栗原:
私どものところの「いぐさ会」につきましては、名簿上13名になっているんですけど、そのうちの実質的に、活動してくださっている方は、9名ほどです。その人たちは、男性は定年退職された、リタイヤされた方で、女性は40〜50代の主婦です。そういう構成になっています。体験学習サークルの指導者層は、その方たちは、熱心にやってくださりそうな方をこちらからお願いしたという関係もありまして、30,40代が中心です。
司会:
館によって、いろんな年齢層になっているようですが、日本平動物園では、かなり大学生が参加したボランティア活動が活発に行われているというお話でした。また、高校生、中学生そんなところのボランティア活動がこれから出てくるんじゃないかということです。しかし、美術館・博物館では、むしろ逆に年齢が高い。確かに年の中では若い、30,40代くらいの方々もいるようですが、しかし、大半が50代、60代というふうなところにきているようであります。
会場の方で、ボランティアをされている方々がお見えになっているようですが、何か他の館のボランティア活動について、ご質問等ございませんでしょうか。
それでは、こういったボランティア活動の意義につきましては、先ほどの事例報告にもございましたように、それぞれの館で活発に行われつつあるということですが、博物館施設が増えてきているということもあるんでしょうか、あるいは入館者減少のいわば博物館の不況の時代という背景の中で、こういったボランティアの活動が、博物館側としても支持されてきつつあると思いますし、これから学芸員になっていこうとしている人たちの中にも、そういった意識というのが必要になってくるだろうと思います。
現在ここに、博物館概論等を履修しております博物館学芸員の卵がかなりおります。それぞれの美術館・博物館の学芸員の方々にこういった卵が採用されるチャンスはあるのかどうか、そんなところをちょっと、お話していただけたら学生の中にも、これから学芸員資格がどんなふうに生かされていくのかということで、希望が持てるんじゃないかと思います。それぞれ、公立の施設でありますから、難関を突破しない限り学芸員としての採用はないのでしょうが、その辺のところも学生にお話していただけると、ちょっとこのシンポジウムのテーマから若干それてしまいますけど、聴講している学生にとっては実感できるんじゃないかと思います。順番にお願いします。
神谷:
学芸員の単位をとる人の数と、実際の募集の数と比率の極端なことはご存知ですね。年間に6千人くらいの学芸員資格取得者に対して、募集は40くらいとかですかね。要するに新しい施設ができなければ、また誰かが辞めるということがなければ厳しいという状況は変わっていません。それは十分承知だと思いますけど、少なくとも、私ども名古屋市美術館あるいは、県立、指定都市相当のところでは、やはり高い専門性が必要になってきます。それともう一つ、私が考えていることは、私ども美術館ではこれまで、何を見せるかに中心を置いていたんですけど、もっとどう見せるかということを考えた方がいいんじゃないかと思うんです。と言いますのも、いろんなところでワークシートなどをやっています。そのワークシートとかテキストは、だいたい大人がよろこんで見てくれます。これはつまりは、だいたい子ども向けなんですが、誰にでもわかる美術館が求められているのじゃないかと思うわけです。そのためにも、やはりガイドボランティアが有効だと思いますけど、大人とか子どもとか、いろんな側面で考えることができる、頭の中にそういうことを念頭に置いている職員がいるところは、これから生き残るんじゃないかと思います。ですから一方では、専門性を、それからその専門性を専門のまま出すんじゃなくて、どうおもしろさや難しさを出していくかを考えていくと、これから博物館として評価されるように思います。
浅田:
私どもの館で、博物館実習をやって、もう14年ぐらいになりますけど、だいたい毎年14,5名来ますので、200名近くになります。最近では、静岡大学からも一人くらいずつ来ています。それでたとえ学芸員になれても、これまでに3人くらいです。だから、先ほどもお話がありましたように厳しいです。ただ時々こういう仕事をしていますと、市町村から、例えばちゃんとした資格を持った人がいないかというようなことはあります。なるべく実習中に、そういうことを話すんですけど、例えば、今、市町村の役所的なところですと、学芸員としての採用はせず、公務員として採用試験をします。ですから、市の職員試験を受ける必要があります。が、これがなかなか難関です。最近、小さな市町村でも、だいたい採用試験をやってます。採用試験をして、資格があると、博物館・美術館は役所ではマイナーですので、無理矢理行かされる人もいます。だから、手を挙げれば、だいたい行かせてもらえます。まだまだそういう形での道はあるのだと思います。ただ、皆さん最初から、決してそういう道がないわけではないので、もちろん一生懸命勉強して、専門性を高めてもらうことは必要ですけど、その望みは捨てなくてもいいような気がします。もし、この中で当館に実習に来る人がいれば、またご相談にのろうかと思いますが、そんなところです。
飯田:
静岡県立美術館は、私、入って11年目になるんですけど、その間、今数えてみたら、全部で6人の学芸員を採用しています。そういう意味では、入れ替わりが多いですね。採用機会はかなり出しております。ただ、そのときには、先ほど神谷さんがおっしゃった専門性ということで、美術の専門、なかでも絵画とか彫刻などの分野というような形で試験が行われます。ただ、最近見直されている中で、ミュージアムマネージメントですとか、そういうことも学芸員の重要な要素として考えられてきていますので、今後、採用の仕方も変わってくるんじゃないかと思います。でも、専門性ということは変わらないでしょうけど、それプラスというふうになってくる気がいたします。
浅野:
登呂博物館ですけども、実は私が登呂博物館にくる前は、静岡市の職員なんですけど、主に考古系ですので、発掘調査に関わったり、遺物整理をしたり、保存処理をするといった、埋蔵文化財の仕事をしていたわけです。それで、36才ぐらいのときから、博物館に異動になったわけなんですが、それまで学芸員の資格自体使っていなっかったので、そういう意味では、まず資格をとっておくということと、もし、そういう方向に進みたいのであれば、それに関連した仕事がどういう位置づけにあるか、つまり、私の場合には、静岡市の職員になることが先だったんですけど、先日も博物館の方にハガキで「学芸員の募集はありませんか」という学生さんからの手紙がありましたけども、そこで博物館が直接、採用するということは、公立の場合にはまずないわけです。ですから、その辺もまず理解していただきたいということです。それと考古学という分野でも、その中でいろんな細かい分野に分かれるわけですけど、先ほどもお話がありましたように、分野の中で、さらに専門性を高めておくということも、1つの近道になっていく方法じゃないかなと思います。最近の考古学系の博物館では、歴史系だと思います。実際に保存処理をするのは、物理系の方が採用されて、様々な機械を扱ったりするわけですけど、そういう人たちが、また学芸員の資格を持っていたりする状況もあるようですので、もっと視野を広く見て、資格をとってほしいと思います。
佐渡友:
動物園や水族館の場合、学芸員という枠で採用することはごく稀です。昔からあるところでは、日本モンキーセンターや東海大学の水族館でしょうか。
しかし、富山ファミリーパークなどでは、学芸員資格を持っていることで職員の採用に当たって有利になると聞いており、次第にこのような所は増えているようです。
しかし、現実問題として学芸員のポジションが空いて、そこに入ることは至難の業です。特に公務員では、学芸員や司書という専門職での採用は縮小し、事務として一括して採る方向にあります。私自身、事務職として市役所に入り、現在動物園に配属しているわけで、また再三申しておりますように、何も職員として仕事をもらわずとも、ボランティアとして自分の力を活かせる場はあるわけですから、あえて学芸員という資格や職種に固執する必要はないのではと考えています。
栗原:
先ほどもお話が出ましたように、私も事務職の採用で、専門職採用ではありません。おそらく、今ここにいらっしゃる学生さんは、博物館学の講座を受けられているでしょうから、文化財、考古学、歴史学、美術史などの専門の勉強もされていると思います。市町村でも埋蔵文化財職員の採用と同様、博物館学芸員の採用も専門性が必要だと思います。私は事務職採用から学芸担当となりましたが、文化財にしても、学芸員としても、専門性を持った人が求められると思います。
話が違いますけど、日頃資料館の中で、来館者の中で、非常に失礼な言い方かもしれませんが、博物館・資料館の見方というものを知らない方がいます。学校の先生方が、子どもさんを連れてくると、やはり博物館の使い方をもっと知っていたら、子どもたちによりうまく活用できる説明ができるはずです。そういった意味で、これだけたくさんの学生さんが、博物館学の講座を受けられて、学芸員として就職するか否かはともかくとして、博物館への関心を高めて社会に出てゆかれる。そう考えると私自身としてはうれしいところです。
司会:
ありがとうございました。会場にいる履修生の皆さんから、何かご質問はありませんか。学芸員の蒼々たるメンバーがお見えになる、こういうチャンスは他にありませんのでどうでしょうか。
それでは、今日は「博物館とボランティア」というタイトルで学芸員の方々から、博物館におけるボランティア活動の理想と実態というところをお話いただきました。本来、もう少し議論を高めるべきでありますが、時間等の制約と、それからこちらのまとめ方の悪さもあって話題もちょっと違う方向へいってしまいました。しかし、それにしましても博物館における学芸員の仕事というのは、大変数多く、専門性だけで努めていける部分は少なく、むしろ他の部分へかなり時間を割かなければならないという体質をもっています。そういう中で博物館が、もっと入館者を増やし、学芸員の姿が見えるような博物館活動というところにもっていくためには、いろんな問題もありますが、如何せん、人数が少ないという、大きな根本的な問題があります。そういう点では、これからの博物館におけるボランティア活動は、なお活発になっていくだろうと思います。今日は、非常に雑多なまとめ方でありますが、博物館不況の時代を乗り切るために、博物館ボランティアは、いかに活動するべきかというところでの公開シンポジウムをさせていただきました。先生方、大変遠くからどうもありがとうございました。近くの先生方には、毎年学生が実習でお世話になり、どうもありがとうございました。講師の先生方に感謝の意を込めて拍手でお送りしたいと思います。(拍手)
それでは以上をもちまして、「大学と博物館を結ぶ」第3回目の公開シンポジウム「博物館とボランティア」を終わりにさせていただきます。皆さん、最後までお聞きくださいましてありがとうございました。(拍手)
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