公開シンポジウム「博物館と大学を結ぶ」
『博物館における教育・普及活動』
期日: 平成11年7月10日(土)13:00〜16:00
於 : 静岡大学 大学会館 ホール
司会(柴垣):
こんにちは。今日は『博物館概論』を受講している学生諸君の他に、博物館に実際にお勤めになっている学芸員の方々にご案内しましたところ、数人のかたが来て頂いております。それから学生の皆さんの中には、昨夏やこの春に実習に行かれた先の博物館の人もお見えになっているというふうにお聞きしております。今日は、いろいろな博物館における様々な活動を私の授業では聞くことのできない部分について発表していただきまして、そこから、皆さんの博物館に関する実際面みたいなところを参考にしていただこうと思い、企画しました。
この事業は、生涯学習教育研究センターの主催事業ということで行っておりますので、最初に生涯学習教育研究センター長の岡田嚴太郎先生よりご挨拶を頂戴いたします。よろしくお願いいたします。
センター長(岡田嚴太郎):
みなさんこんにちは。生涯学習教育研究センター長の岡田でございます。実を申しますと、私は教育学部の教授も兼任いたしております。よろしくお願いします。静岡大学生涯学習教育研究センターというところは、大学と地域社会を結ぶための公開講座や講演会、公開シンポジウムなどを計画して、逐次実施していく静岡大学の窓口的な役割を果たしている共同教育研究施設でございます。本センターでは、いくつかの計画的な事業のうちで、中でも昨年から継続的に進めていこうとしておりますのが、「博物館と大学を結ぶ」という公開シンポジウムでございます。本学でも、学芸員資格取得希望者が増加の一途をたどっております。従って、博物館へ実習生を送り込む人数も年々多くなってきておりますが、教官のガイダンスや大学が持つ博物館情報はほんのわずかな部分で、実際の博物館・美術館でのそれぞれの特徴を出すべく実施されている新しい活動などへの理解は大変乏しいといえます。そうした現状からも博物館・美術館への理解を深めるために、学芸員の方々の貴重な実体験の報告や提言をいただき、学芸員養成のための大学と博物館の意見交換を兼ね、この公開シンポジウムを行うことといたしました。昨年は学芸員資格に必要な博物館実習を受けるための博物館と大学、学生との意見交換を目的に、「博物館学芸員の仕事」をテーマに第1回の公開シンポジウムを開催いたしました。今回は第2回目といたしまして、学芸員の活動内容の中でも重要な教育・普及活動をテーマに取りあげ、現場での実践活動の事例を語っていただき、最近の教育・普及活動を理解し、学芸員の方々との意見交換を通して、学芸員を希望する学生諸君に、どんな学芸員を目指すべきか、大学もまたそれをどう支援し、教育するか、というふうなことを考える場といたしたいと思っております。
近頃では、開かれた博物館とか体験する博物館へという動きも大変活発になりつつあります。最近の新聞記事でも、文部省が推進しようとしている親しむ博物館づくりの事業も、この夏以降各地の博物館で展開されるようでございます。また、生涯学習審議会の新しい時代に向けての社会教育施設の整備・運営のあり方についてという答申の一つとして、「博物館の整備・運営のあり方について」の報告が平成2年に出されております。博物館活動の活発化で教育・普及活動の多様化と充実、という項目を第1番目にあげて、博物館における人々の学習活動を推進するためには、特に教育・普及活動の充実が今後の重要な課題であると述べております。
本日は科学技術館の水嶋先生から最近の動向についての基調講演をいただき、次に歴史博物館の事例として、大阪市立博物館の酒井先生、考古学面から登呂博物館の中野先生、動物園の事例から、日本平動物園の佐渡友先生、美術館の事例から静岡県立美術館の泰井先生の4名の先生にお話をいただき、情報学部の大堀先生、教育学部の菅野先生からコメントをいただいた後、大堀先生のコーディネイトでパネルディスカッションを行いたいと考えております。講師の諸先生方には、ご多忙の中、本学生涯学習教育研究センターのために、また静岡大学教職員、学生のために遠路足をお運び頂き、誠にありがとうございました。よろしくお願い申し上げます。また、会場にご参集の教職員、学生の皆さん、さらには本学までお出かけいただきました博物館学芸員の皆様には最後までご静聴いただき、後半の質疑討論に是非とも積極的にご参加をいただきたいと思います。この公開シンポジウムは、学生諸君にとっては最近の博物館学芸員の新しい活動の一端を理解することのきっかけに、また静岡大学にとっては博物館と大学をより身近に結びつける糸口となることを願って私のご挨拶といたします。ありがとうございました。
司会:
センター長ありがとうございました。
それでは最初に教育・普及活動での様々な活動を行っておいでになります科学技術館の水嶋英治先生から、基調講演という形でお話をいただこうと思います。先生は財団法人・日本科学技術振興事業団の経営されております科学技術館で、カルチャーエンジニアリング事業部というところの課長をおやりになっておられまして、昭和音楽大学の博物館学の非常勤の講師もなさっておられます。ここは理工系の博物館の様々な展示企画、それから建物の建設、そんなことの指導もなさっておられますし、また、博物館において様々な情報システムを構築しようということへの具体的なご指導もなさっていると伺っています。いわば民間のコンサルティングといったような仕事をなさっておられます。つい先だってまで、パリへ出張されていまして、ICOMという世界組織の国際博物館会議がございまして、その関係の日本の幹事としてお行きになっていたということでございます。それでは、水嶋先生よろしくお願いいたします。
【基調講演】
「拡大する博物館教育活動の範囲」
水嶋 英治
科学技術館・カルチャーエンジニアリング部課長/学芸員
昭和音楽大学非常勤講師
水嶋先生:
みなさんこんにちは、水嶋です(拍手)。今日お話しすることは、博物館教育活動の役割と拡大性ということについて皆さんにイメージを持ってもらうということで、事例紹介をしたいと思っております。まず博物館というのがその建物だけではなくて、事業面、ソフト面で、今、どんどん博物館という建物から外に出ていって活動しているということを皆さんに知っていただきたいと思いまして、いくつか事例をご紹介したいと思います。
レジュメのところにありますように、博物館の役割と学校の役割というのをいちばん最初に考えていきたいと思います。皆さんは教育学を専攻している人もいるというように聞いていますが…。「教」と「育」。まず学校は基本的に教えるところですね。知識を教えて理解してもらう。それから私たち科学技術館では、まあいろんな博物館の方針とか基本姿勢とかあると思いますが、科学技術館の場合では、「教」というよりも「育」、育てる、こちらの方を重視していこうというふうに思っております。それで、知識を教え込むのではなくて、その子どもたちの持っているバックグラウンドをどうやって引き出してあげるのかということを子どもたちに直接接して行うという普及活動をしております。学校というものは基本的に問題を教えて問題を解決することだと私たちは思っていますが、博物館の場合では問題を発見する、ここに重点をおいています。ですから学校で知識を詰め込む一方的なものではなくて、子どもたちがどのように問題を発見していくのかということも教える、「育てる」ということを基本的に考えております。ですから、これからお話しすることは基本的に問題を教え込むんではなくて、それをどうやって育てていくかということに重点をおいているというようにご理解下さい。
まず、科学技術館の活動の事例です。もちろん科学技術館の中では、展示企画あるいはサイエンス友の会という子どもたちを集めてクラブ活動をしたり、ワークショップですね、工作活動とか工作教室とかそういうことをやってます。今日ご紹介したいのは二つあります。アウトリーチプログラムというふうに言ってますが、外に出て活動をする、ですから博物館、科学技術館の中での活動ではありません。外に出かけていきます。二つやっていますが、「青少年のための科学の祭典」というプログラムがあります。みなさんお手元にこのちらしがあると思いますが、ちょっとご覧下さい。最近、学校では理科の時間数がだんだん少なくなっていってまして、理科の学力低下と言うことも国際的に見ると問題です。今までは1番だというんですけれども、シンガポールに抜かれたり、韓国に抜かれたりして日本が2位3位というふうになってきています。これは知識をベースにした学力試験、今までそうだったんですが、やはりこれからの日本の将来を考えていくと子どもたちにもっと積極的になんでだろう?どうしてだろう?という問題を発見していくような教育方針に変えていったらいいんではないか。ということで、私たちは全国にその科学の祭典と称して出かけていきます。そして学校の先生を中心に、学校の先生がもう少し社会に開かれた子どもたちと一緒に実験をする、あるいは実験装置を開発する、そしてそれを何しろお祭りのような感じで親しんでいただこうというふうにこの事業を展開しております。もちろんスポンサーといいますか、主催者は博物館のほかに、科学技術庁とかそこに実行委員会とありますけれども、後援はいろんな学会、それから教育委員会なんかがバックにあります。この事業は、92年から始めましたけれども、そのとき一番最初は3ヶ所でやりました。1万5千人しか来ませんでした。ところが、93年に5ヶ所にしまして、4万2千人入りました。94年6万2千人、95年10万人、96年では17ヶ所にしたところ、お客さんが22万人入りました。97年20ヶ所、98年33ヶ所、今年は36ヶ所でやる予定であります。ですから、2,3日間のお祭りですけれども全国に展開することによって、科学に親しんでもらおう、教育・普及活動していこうというふうに今事業を展開しているんですが、昨年度は33ヶ所で33万人入りました。ですから、科学博物館や科学技術館の中だけでお客さんも呼んで、そこで来館者の数だけを数えているということよりも、もう少し科学博物館の持っているノウハウとか、いろんな情報だとか、あるいはいろんなネットワークを通していって、もう少し展開しようというように事業を行っております。
もう一つ、「サイエンス展示・実験ショーコンテスト」というのがありますが、これは今年で第4回目になります。お手元にチラシがあると思いますが、これはターゲットがもう少し限定されています。一般の人ももちろん参加してもいいんですが、私たちの主たるターゲットは科学系だとか理科の先生、どちらかというと「教」の人たちの方です。中身は何をやっているかといいますと、物理・化学・生物・地学、数学といったものをどのように実験していったらいいか実験ショーをしたらいいかというアイデアを募って、賞を取った人に対しては、800万ないし1000万のお金をかけて展示物を作ります。アイデアだけではできませんので試行錯誤をして展示物を作るというようなことまでやっています。
それから、そのレジュメの3番にいきます。情報通信技術によって教育界に及ぼす影響が広がっている、と。これは博物館だけではなく、今言った「科学の祭典」といった行事へ出かけていって、企画展示プログラムを展開するだけでなくて、今度はインターネットを使って教育・普及活動をすという事例です。学校にも科学系の博物館の情報が利用されていくという例をご紹介したいと思います。まず世界の科学館の持っている情報資源、これを資源といっていますが、いろんな情報を一ヶ所に集めて、みんなでひとつの教育的なコンテンツ、中身ですね、ソフト、これを作っています。これを「サイエンス・ラーニング・ネットワーク」といってますが、シンガポールのサイエンスセンター、アメリカの科学系博物館、ボストンだとかサンフランシスコにあります科学博物館、フランクリンインスティテュートなどの機関6ヶ所、オランダ、フランス、それから日本の科学技術館やイギリスのロンドン科学博物館。こういう世界の博物館が集まりまして、年に2,3回会議を設け、どういう教育的な中身を作っていくかというようなことを相談します。もちろん中国語に翻訳したり、日本語に翻訳したり、オランダ語に翻訳したりしてますが、基本的にはチームを作って中身を作っています。そしてそれを学校だとか博物館に広げていく。そういう情報通信の技術を使って、広げていきます。中には、テーチャー・インスティチュートという研究所があります。Exploratoriumというハンズ・オンタイプの博物館の老舗の中にありますが、ここにこういった研究所を設けています。ここで何をするかというと、毎年夏に、74時間集中的な講義をします。学校の先生を相手にどのように来館者に教えるのか、いわゆる教育方法論の立場で博物館の情報をフィードバックしていく。展示物、コレクションを利用しながら教えていくというような研究所も最近になって出てきています。日本からも何人か勉強しに行っています。
それから、最後のページですが、この4ページですね。大学の役割。今日こういうシンポジウムですから、ちょっと大学のことについて考えていきましょうか。みなさんも学芸員の資格を持って、そのときにまず自分が舞台にたって教える場合もあるでしょう。学校の先生のように教える場合もあるかも知れませんが、最近では、ティームティーチングという考え方が登場しています。どういうことかと言いますと、学芸員の見方、それから学校の先生の見方、考え方、教え方。これは違うんですね。学芸員には専門的な知識だとか情報というのをどのように学校教育の場で、博物館の場で利用するのか。これは人がやることですから、教育といっても「教」に重点をおく人もいれば「育」に重点をおく人もいる。ですから、ティームティーチング、2人でですね、学校の先生の教える教え方と、それから学芸員の専門的な知識を、2人ないしは3人、複数の人間で1つのグループを教えるというような考え方も出てきています。そういう教育の方法論といったような、大学でみなさんが今勉強していると思いますけれども、われわれが考えているのは、ターゲットというのは一体誰なのか、学校の先生なのか、第3者なのか、この辺を常に考えながら博物館の教育活動をしていきませんと間違えることになります。科学の祭典でいいますと、これ一般対象ですが、アイデアコンテストというのは先ほども言いましたように教の人をターゲットにしています。ですから、博物館の教育・普及活動を考える際には、みなさんも教育ターゲットは誰であるのかということを考えていただきたいと思います。
時間になりますので、まとめをしますが、昔、鶴田総一郎という国立科学博物館の先生がいました。その先生が言うには、博物館というのは「ひと」と「もの」と「ところ」、これをつなげる場所だというふうに言ったんですね。今最近では、学社融合というキーワードがありますが、学校と社会教育が融合している、昔は、連携というふうに言ってたんですね。連携というのは、博物館を学校の授業の一環として使うという程度のものだったんですが、もう少し深いつながりをもって学校と社会教育が融合して一緒に事業を展開していくというような考え方もあります。これをもう少し具体的に言いましょう。学芸員というのは、「もうひとりの先生」です。専門知識や情報を持っている専門家。ですからさきほどティームティーチングという考え方を言いましたけど、そういうような呼び方もあるでしょう。それから、博物館というのは「もうひとつの教科書」です。教材としての価値ある資料。最近ではコレクションというよりも情報資源や財産という言い方をしています。リソースですね。博物館を教科書とする。それから最後になりますが、「博物館は教室」です。博物館だけでなく、教室が外へ出かけるという場合もあります。ですから社会資源としての生涯学習の場であるというような考え方で最近は事業を展開しています。以上長くなりましたが、時間なりましたので、この辺で終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました(拍手)。
司会:
基調講演だいぶ時間を短くしていただいて、きちんと時間通りにお話しいただきました。
これからまた博物館、動物園等の事例を伺いますので、学芸員の先生方に壇上に上がっていただきまして、事例報告をしていただきます。
それでは皆さんのお手元にこのレジュメがいってると思いますが、表紙をめくっていただきますと今日の公開シンポジウムのプログラムというのがございます。今基調講演していただきましたが、これから4つのの博物館、美術館、動物園の事例報告をいただきます。
その上でさきほど学社融合という話も水嶋先生からいただきましたが、そうした博物館、美術館をどうとらえるかということで博物館における教育・普及活動を生涯学習という立場から情報学部の先生、それから教育学部の先生から社会教育の面というようなことでコメントをいただく予定であります。そのあと、若干休憩を挟みまして、個々のあるいは皆さんからの質問を受けて進めたいと考えております。それでは最初に事例報告のところから始めます。
講師のご紹介と話の概要といいますか、そういったことも司会を私がさせていただきます。討論の方は、情報学部の大堀先生にお願いしてございます。大堀先生はミュージアムマネージメント学会という学会の代表をされておられますので、その辺のことも踏まえて討論のコーディネーターをしていただきます。
最初に、大阪市立博物館の学芸員の酒井先生から、歴史博物館における教育・普及活動の事例について。先生は建築史のご専門で、今日のレジュメの中には建築史探偵団というような内容の普及活動をされている例がのっております。そんなことを中心にしてこういった大阪市立博物館における教育・普及活動の事例報告をしていただきます。それでは酒井先生よろしくお願いします。
(1)大阪市立博物館
酒井 一光
大阪市立博物館の酒井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。ちょっとあまりこういった高いところから喋ることに慣れていないので、上手くしゃべれないかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。それでは早速始めさせていただきます。皆さんにお配りした資料の中にこういったパンフレットが入っているかと思いますが、これは現在のうちの博物館のパンフレットということです。みなさんお馴染みでないかも知れませんが、大阪の大阪城公園から見ましてちょうど真ん中あたりに、現在のうちの博物館がございます。今日も私、静大のバス停からここまで歩いてきたんですがちょうど大阪城の真ん中辺りにありまして、だいたい毎日このような坂道を登りつつ通勤しております。だいたい大阪城の中と言うことでお客さんの層としては、観光客の方が一方で多いと言うことと、やはり歴史系のもろもろの博物館ということもありまして、大阪の地元の歴史に興味のある方、特に年輩の方が中心に見学にいらっしゃいます。現在、博物館の職員の方は、学芸員は学芸課と庶務課というのがございまして、学芸課は館長を含めて13名、庶務課の方は9名おります。、その他に、業務員さん、チケットを販売してくれる人だとか清掃する方だとかそういった方をあわせますとだいたい30名ほどおります。そのほか外部の警備員等々来ていただいております。博物館の方の専門の職員としては、私、建築史という分野、建築の歴史なんですが、そちらの方の担当させていただいているんですが、うちの博物館は昭和35年にオープンして、その時以来どういった分野があったかといいますと、いわゆる日本史と美術工芸、それから考古学、民俗学という四つの分野が今までありまして、新しく建築という分野が出来ましてそれで採用されたわけです。
これからいろいろ普及活動についてもお話させていただきますが、このパンフレット、正面の博物館はうちの今の建物でして、城内にあって昔の軍隊の建物を戦後になって転用して博物館として使っているものです。それで、だいたいオープンして40年ほどなので、今度新しく新館を建てようということになりまして、この建物はおそらく残しつつ、大阪城からちょっと降りてた所に、パンフレット開いて頂いた右下の所にこの絵新しく建物の絵ありますが、新しい博物館の準備をしています。それが平成13年堂々オープンの予定です。ま、正式な準備等、今やっておりまして、現在の博物館のいろいろ展示や普及の事業と併せて、新博物館の展示計画などもしています。やっていますということですけれども、黄色い小さいレジュメをお配りしていますが、こういったものの新館の正式な具体名ではないんですが、博物館の広報関係、こういったものを学芸課で出したりしています。
こんなわけで現在の博物館の普及事業についてざっと説明させていただきます。お手元の全体のレジュメの6ページを開けてみて下さい。まず最初に大阪市立博物館の普及事業ということで、うちの館で一応行っている普及事業と称されるもの、1つ全部ざーっと書きあげてみたものです。ひとつめは、特別展とかの講演会とか展示解説というのがあります。特別展はうちの博物館では通常年間5本から6本行っていたんですが、現在ここ2,3年は新館への準備ということもありまして年間3,4回になっています。その特別展ごとに講演会や展示解説というものがございまして、講演会は外部の先生をお招きして、展示解説は担当した学芸員が展示場でギャラリートークの形で行っています。それから新しく2番目にミュージアム・サポーティングスタッフというのを導入しました。これはいわゆる博物館ボランティアです。それで特別展は、特別陳列というのは特別展の小さいものですが、展覧会の時に常時お客さんに対して解説したり、解説というところまでは行かなくてもお客さんと会話しながら展覧会を楽しんでもらう。ま、そういったことをやっていただいております。こういった博物館ボランティアというのは非常に現在やりたい方々が多いみたいでして平成9年度から始めたんですが50人の応募に対しておよそ470人の応募者がありました。それで引き続き平成9年、10年と募集して、それぞれかなり好評で、今年は新館がオープンだということで継続者のみにしたのですが、このボランティアの方、下は学生の方、予備校生という方もいますが、20代くらいがひとつの層でして、もうひとつは60代が大きな層としてあります。こういったボランティアの方々がうちの博物館でやってもらう他に、キッズクラブという大阪に子どもの博物館があるのですが、うちの博物館だけでなくて複数の博物館で活動されているという方も多くいらっしゃいます。あまり時間がないのでごく簡単にお話しますが、こういった博物館で常時行っている事業として、いろいろ講座的なもの、それから博物館の常設展を見ていただくときのワークシート、子ども向けのワークシートですね。こういったものとか学芸員実習、そういったことも常時やっております。ただうちの博物館としては、なるべく学芸員の気もちとしてみれば、市民参加型というのをどんどん広めていきたいと思って、ミュージアムサポーティングスタッフの方の活躍をはじめとして、なるべく学芸員が単独で考えるんではなくて、ボランティアの方に積極的に意見を出してもらったりして、なるべく受動的に参加していただくだけではなくて、もうちょっと企画の段階からいろいろ関わっていただきたいとそういう風に思っております。この他にうちの博物館では、伝統的に友の会というのがございまして、パルの会というふうにいっております。だいたい会員数250名くらいだと思います。いわゆる歴史好きの方が多いわけでして、美術とか歴史、考古、民俗といったサークルごとに分かれておりまして、それぞれのサークルごとでいろいろな活動をしています。そのボランティアと友の会というのはそれぞれ別々なんですが、従来、この友の会に入っていた方の中でもボランティアをしたいという方も実際結構出てきていますし、それが全く逆に今まで歴史系の博物館なんかには興味のなかったという方でもボランティアということで興味を持って来てくれている人もおります。他にもいろいろここにあげておりますように、博物館の研究記録ですとか、館報、資料集とか刊行物の発行、それからいろいろな団体への説明、博物館の所蔵品を貸出すときの諸手続きとかこういったことを学芸課が専門的に請け負って、庶務の方が事務的なことを受け持ってもらってお互い協力しながらやっております。
これがだいたいうちの館の全体像なわけですが、それに加えて私自身のことについてちょっとお話ししますと、新しく建築という分野がテーマということで、従来、歴史とか美術とかの方がいろいろ展示の手法も開拓してきたという歴史があるわけですが、私の分野というのはもともと建築の歴史というのは博物館で取り入れているところというのは日本でもまだごくわずかしかありませんので、展示をするにも、何を展示していいのかというのが非常に困るというか、迷ってしまうわけです。みなさんも建築の歴史といわれた時に何を思い浮かべるのかわかりませんが、法隆寺とか東京駅みたいなものとかそんなものを思い浮かべるかと思いますが、実際の建物は博物館の中で展示するわけにはいかない。そういったことで、建物の壊されてしまったときにもらってきた材ですとかいろいろな図面、それから絵画作品、そういったものを展示にしているわけです。ただ新しい分野で、それほどまだノウハウを持っているわけではありませんから、博物館での活動をするといった場合、有力な方法として普及活動というものが思い浮かび、それをひとつ実践としてやっています。去年、私が提案してやったものにここに書いてある建築史探偵団というものがあります。うちの館で土曜講座という講座がありまして、土曜日に月に4回連続して講座を行うわけでして、うちの博物館の講堂で学芸員の講義の形でやっておりました。それをちょっと方針を変えてみて、土曜日に4回、実際に大阪の街中、大阪だけじゃなくて隣の神戸とか京都にも行ったんですが、大阪の街中に出て実際の建物を見ながら勉強しにいこうというような企画をしました。できれば一般のいわゆる見学会みたいにはしたくない、建築史探偵団というからには、例えば40人や50人としてもそれらの人々を一回に引率するのではなくて、もうちょっとプライベートな雰囲気で楽しみながら行けないかということを考えまして、博物館ボランティアの方々に手伝っていただいて、小さなグループに分かれて街中を探検するようにして建築を見てみようという講座を企画しました。これはだいたい4,50人対象で一般市民の方から募集しまして、学芸員は私ともう一人日本の近代史をやっている人と2人で担当しまして、ボランティアのスタッフの方に16人、昨年度からついていただきました。どういった場所を見るかということは次の8ページを見て下さい。8ページの左下に〈建築史探偵団・入門〉日程というのがありまして、そのように午前10時から夕方の4時までにわたる、かなりハードなスケジュールを企画しました。しかも4回連続講座です。果たして人が集まるのだろうかという不安はあったんですが、ふたを開けてみると、なんと4,50人の募集に対して200人近い方が応募して下さいました。それでボランティアの方もかなり熱心に勉強してくれて、資料づくりも非常に熱心にやってくれました。探偵手帳というのは、要するに建築を見るときにどういったところを見ればいいのかといったことについて、いろいろ用語解説とかポイントなどを絞ったものを作ってもらいまして、ちょうどこのA4版四つ折りタイプで胸ポケットに入る大きさの探偵手帳というのをボランティアの方に作ってもらいました。それは準備が大変だったんですが、かなりボランティアの方が友だち作りというか、楽しみながらやってくれたのがこちらとしてもとても良かったというふうに思っています。それで実際4回を通してかなりの方が参加していただきまして、最後に8ページの右下にあります探偵団認定証というものを4回参加した方に、建築史探偵団の印というのを作って、修了証書じゃありませんが渡していく形にしました。それから、割合応募者が多くて好評だったんですが、こうした事業に対する評価方法というのが、うちの館ではまだ定まっておりません。いろいろミュージアムマネージメント学会の会合とか紀要とか見てみますと、こういった事業評価というのはこれから考えていかなければならない評価だと思います。一応、うちの館としては、一般参加者に対してアンケートを行いましたが、その中では割と好評な意見が多く、次回も希望すると答えてくれていました。参加してくれた方々にはかなり好評だったと思っています。ただ4回連続でしたので、途中で来なくなってしまった人もおりましたので、そういった方がどう考えているか、考えなくてはならないと思います。それから一般の参加者の他にボランティア事業としてこれは成功だったかどうかということで、ボランティアの方々にも意見を伺いましたところ、準備が大変で思っていたよりかなり時間が長くかかり大変だったということも聞いています。ただ4回連続の講座ということで、参加者の方と友だちのように上手く付き合えるようになったという肯定的な評価も見られております。それとわれわれ担当した学芸員の感想というのも評価の一つとなるかと思いますが、今回、午前午後という1日通して参加者を拘束してしまうというちょっと無謀な計画だったということもあって、いろいろ反省しなければならない点も多かったと思います。それらの観点を踏まえて、今年また建築史探偵団をやっていきたいと思っています。
これからの博物館全体を見渡した時に、市民との連携とか、大阪市は今年から文化財保護条例というのができまして、それをアピールするという上での学校との連携というのも増えています。企画展といった博物館の展示というのは、学問的なところはいろいろな良さがありますが、割と「一見さん」向けです。こういった普及活動を多くしてなるべく博物館のファンを増やしていきたい、そう思ってこれからもやっていきたいと思っています。以上で簡単ですが、終わらせていただきます。
(2)静岡市立登呂博物館
主幹 中 野 宥
登呂博物館の中野です。私の所はもうみなさんご承知のように、弥生時代の日本でもとても有名な登呂遺跡という所にあります博物館ですから、どんなテーマあるいは展示の何を見ても登呂遺跡そのものであるという歴史・考古系博物館です。そのような遺跡博物館としてどのように見せていくか、あるいはどんな展示や普及事業をするのかということなんですけど、一番大事なことは、弥生時代の登呂の村の再現ということがとても重要な目的だろうということで、現在までいろいろ考えてきているわけです。要するに弥生農村、現在も農村社会があるわけですが、中でも弥生農村というものの生活が一体どういうものであるか、と。難しい話をしちゃいますと、現在の日本人の米を中心とする生活というのが弥生時代に源があるといわれている。その弥生時代の生活の様式、あるいは道具というものは、現在も色濃く残っている様子がある。それを追体験できないかというようなことでいろいろ考えてやってきました。
ちょうど博物館には出土遺物、土器ですとか石器ですとか、そういったものの実物があるわけです。そういったモノを中心にいろいろ組み立てていくことが一番重要になりますので、“モノ”を使った体験、そういうものを考えていかなければならない。考古資料というのは、長い間地下に眠っておりますので、大部痛んでおります。出てきたモノをそのまま使ってしまいますと消耗品になってしまいます、なくなってしまいます。出てきたもの、そのものを使っていくには、他に代替えが効くものではありませんから、なかなか勇気がいることでして、いろいろ賛否両論あると思います。そこで、なるべく同じ材質で同じ重量で同じ形のモノ、そういうモノ、いわゆる模型といわれるものですね、そういうモノを作りましてそれを使った追体験をしようではないか、ということになってくるわけです。モノを作るには業者に頼めば、お金はかかるけれど簡単に優秀なモノを作ってきてくれます。それもひとつの方法なんですが、でもできたら使う人がそれを作るということもおもしろいんではないかということで、モノを作る体験もやっております。それからモノを作るということは、こういう講座室のようなところのテーブルの上で作るというのもひとつの方法なんですが、どうせ作るんなら舞台装置が出来上がっている所、そういうところは見学者が大勢いる所なんですが、そういうところで作ったらどうかと考えました。要するに展示室で作る、あるいはうちの場合でしたら、外が公園になっておりまして、復元家屋なんかも建っておりますので、そういった場所で作る。というようなことで、1階にはこれまで民俗資料などを展示してあったのですが、そこを崩しまして、体験オンリーのスペースを作ったわけです。現在は、うちの教育・普及活動の中心が1階の展示室・体験ゾーンなんですけれども、そこで日常的な活動をやっているわけです。その他にもちろん夏休みには、子どもさんたちの自由学習というんですか、夏休みの宿題ですね、そういったものの手助けになるように、おもしろゼミナールといったものも実施しております。これは以前には、教室みたいに話を中心、あるいは土器とか石器とかを示しながら行ったこともありましたけれども、どうしても一方的なものになってしまうので、最近では、先ほども言いましたように“モノを作る”ということを大事にしまして、モノ作りのための講義・ゼミナールという形でやっております。今年ももうすぐ募集が始まるんですけれども、今年の場合は、機織りを組み込みました。私は石の刃物、簡単な石の刃物を作ることを担当しています。それから以前には、日本平動物園さんから提供してもらったんですが、鹿の角をいただきまして、縄文時代に多いんですが、鹿の角から釣り針を作ることもやりました。それから土笛、これ今年もやるんですが、土笛を作ってそれを公園の中で野焼きをして作ってみようというようなこともあります。あるいは昔ながらのおもちゃを作ってみようとか。そういう“モノ”を作る、そしてそれを使う、そういう講習会といったものも計画しております。
それから、もうひとつはどちらかというとイベント的な要素が強いんですけれども、弥生人グルメというものとスタンプラリーというものを実施しております。弥生人グルメというのは、弥生時代の食事をしてみるものです。これはただ食べるだけではなくて、調理からやってもらいます。調理から食べるところまで、市民の親子、子どもさんだけでも大人だけでもいいんですが募集するのです。毎年秋にやっていたんですが、今年から春にいたしました。これは食材に生ものを使いますので、食当たりがいちばん怖いんです。そういうことの少ない時期に。それからあとなるべく晴れの日が続く季節というようなことで、日を決めるのに大変苦労しております。スタンプラリーというのは、これは登呂遺跡の公園の中で、復元家屋が隅の方に建っていたりする区画、あるいは水田跡のところが植栽された樹木によって隠されてしまっていて見学者がなかなか行かない、反対側にはお土産屋さんが並んでいるんですが、人の目というのはお土産やさんの方に向いてしまって、水田跡の方にはなかなかいかないというようなこともございまして、そういった場所を選んでポイントを作り、そこで田下駄を履いてみたり、米搗きをしたりというような体験をしながらまわって、スタンプを集めて、完走者には記念品としてバッチを差し上げるということをします。夏休みに不特定多数の小中学生を対象に実施しております。
こういった数々の教育・普及活動を行っているわけなんですが、うちの博物館は学芸員が4名しかおりません。あとは庶務の人が館長を除いて3名です。それだけですので、こういう講座ですとか、イベントとかというのは、バックアップ的なスタッフがいないので、勢い学芸員だけでやらなければいけない。他にもいろいろ仕事があるものですから、担当を一人決めまして、その人がいろんな庶務的な事務までやることになります。ただ広報というのは、役所の方で主任者がやっておりますので、館から市役所の広報課の方へ行ってやってくださいとだけではなかなか扱ってくれませんので、課全体の窓口になっている広報担当の方に頼まざるを得ないわけです。その他のことは大概学芸員がやっていますが、必要な経理関係はやはり専門の人がいますので、専門の人に頼るところが大きいです。最後のまとめの部分が一番重要な作業になるんですが、いろいろアンケートをとりましても、その分析にまでなかなか手が廻らない、分析がなかなか形になって出てこないというのが悩みです。学芸員だけですと、とてもやりきれないというところもありまして、現在はそれほど多くはないんですけれど、外部の人に講師を頼む、それも専門の人ではなくて素人の方、そういった方に講習を頼むようにしています。以前、文部省の方でも高齢化社会の対策として、プロアマ問わずに手に技術を持っている高齢者の人を是非とも活用して欲しいというお話があったんですけれども、今はいろんな便利な道具が出回って、なかなか自分の技能を発揮する場所がないというような特技を持つOBの人たちに手伝っていただくことにし、それを講座の中に取り込んでいきたいというようなことも考えております。ですから、学芸員だけで全てをまかなっていこうというのでなくて、外の人たちとの連携というのもこれから重要なものになろうと思います。もちろんそこにはボランティアの人たちとの関わり方も出てこようかと思います。なんせ学芸員、職員が少ないものですから、大規模なものを企画するわけにはいきません。勢いそうなりますと、募集人員も少なくなります。募集人員が少ないと回数を多くやらなければならないということになってくるんですけれども、これはやはりスタッフの不足ともうひとつは予算不足ですね。そういうものが足かせになってきて、なかなか回数を増やすというところまでいっておりません。もっとも同じことを何回も繰り返していても仕方がないわけです。そこには学芸員のたゆまざる研修、調査などが要求され、それを活かすようにしていかなければならないわけですが、あまり回数やっておりますと、そういった研究する暇がなくなってしまう、また研究成果が実施の回数に追いついていかないというような現象も出てこようかと思います。そうすると内容のレベルが低くなってしまったり、あるいは参加者の理解度が不足していったりという面に影響してくるわけです。
これからの遺跡博物館というのは、もっと環境を活かした活動というのができないだろうかというようなことで、うちの博物館の場合には、復元家屋、あるいは復元水田をもっと活用した内容のものができないだろうかということを考えつつあります。水田遺構は、全部、復元された水田です。復元されたものですから遺構そのものではありません。ですから、お米を植えることもできるわけです。あそこではいろんな団体がお米、赤米ですとか黒米ですとかを植えておりますけれども、ただ気をつけなければならないのは、その目的ですね。なぜあそこの水田に自分たちはお米を植えようとしているのかということをもうちょっとはっきりとさせるべきところにきていると思います。見ていますと収穫量を上げるためには何でもする、そういったことが見られます。そうじゃなくてあそこは登呂の水田ですから、弥生時代の生活をやはり追体験する場にしなくてはいけないというように僕らは考えていますので、これも今後今各団体ばらばらにやっておりますのを統一して、もっと効果的な内容に変えていこうと思っております。それから復元家屋を使うやり方なんですが、実際に何回かやったのですが、行ってみた方はお分かりでしょうけど、入り口が狭いんです。大勢入ってこられると中にいる人が出られなくなります。そういった物理的な問題も考えなければならない。
それから実際に運営するにあたって、人的な問題というのがあります。スタッフと常にどういった形でやっていくか、人的な育成の問題があると思います。ボランティアの導入というのをどこの博物館でもさかんに行われていると思いますが、ボランティアをどのように育成して活用していくか、どういう形のボランティアが考えられるかというのもひとつ重要な問題になってきます。といいますのはみなさん、ここにいらっしゃる方、おそらく全員の方が博物館・美術館へ就職できるということはなかろうと思うんです。博物館に興味を持ちつつも博物館に就職していない人たち、博物館のスタッフに外から入ってきてなり得る人たち、そういう方に私はこれから大いに期待していきたいなというふうに考えております。そういう人たちとの連携もこれから重要になって来ると思います。なにも学芸員として、学芸員という名前がつけられて、給料のことは何とも言えないですけど、給料もらってやることだけが博物館のスタッフではないと、私はそんなふうに考えております。
ちょっとスライドを用意してありますので見ていただこうと思います。
・これはですね、もう10年くらい前になりましょうか、うちの博物館が、体験的な活動が本格化する前の試験的に学習室でやっていた時の活動の様子です。特別展示室なんですが、手作りの体験を用意して体験学習のまねごとをやっている。そのときの体験室の中の様子なんですけども、ご覧のように体験室の後ろの絵、竜爪の山がちゃんと薬師岳と文珠岳に分かれて描かれております。水門の位置ですとか林の位置、これはほぼ正確に書いてあります。その前に、米つきをしている臼がありますけども、これは弥生時代の臼をまねたものではなくて、民俗資料のおもちを作る臼ですね、それを使っております。ただ杵だけは弥生時代のものをまねて作ったものです。子どもたちが着ている貫頭衣は、お米の袋をお米やさんから貰ってきまして作ったものです。ですから、麻でも糸が太くてチクチクするんですね。子どもたちはこれ着るのにみんな嫌がりました。これも体験のひとつなんですが、土器パズル、発泡スチロールの板を切ってパズルを作って、土器の形を覚えてもらう。それから私たちで作った土器を実際に触って、感触を確かめてもらうというものです。
こういうことがきっかけになりまして、これは1階の体験ゾーン、これは1億3千万円ばかりかけて作ったんですけれども、弥生時代の雰囲気により近い形の脱穀ですね、それを体験できるようにしたものです。
・これはですね、左にいる人が体験指導員です。体験指導員というのを配置しまして、この人に導かれて見学者はどんどん手を出してさわってます。黙ってますと、なかなかみんな触ってくれないんですね。そこでこういった人を配置しまして、その人が入館者、お客さんの気持ちをモノに結びつける、引き寄せていくということをやってもらっています。ここでは学術的な話はほとんどしない、それから展示の解説もほとんどしません。とにかく、さわって会話をするだけです。子どもたちが土笛を作っているんですが、実はこの子どもたちは、近所の子どもたちで、学校の遠足でここに来たときは体験できなかったそうです。人数が多いものですから、実際に触ったりなかなか体験できなかった。ということで、夏休みになりまして、この仲良しグループがどうしてもやってみたいと改めて遊びにやってきてくれたわけです。1階のこういう所には、こういったリピーター現象が見られます。大勢で来たけれどもできなかったのでまた来ました。あるいは、学校で来たんだけどもっとよく見たい、触りたいので、お父さんお母さんに連れてきてもらいました。あるいは大人の団体でも、これは子どもにいいからと、子どもを連れてきてくれるというような現象がみられます。この子どもたち、土笛を作りたいということで、このあと2度ほどきたようです。
・それでは次、これは機織りの風景です。この機織りも実際に展示室の中でお客さんにやっていただいて、できれば出来上がった物を持って帰ってもらいたいと望んでいます。ハンカチでもちょっとしたものでいいと思うんですが。こういう体験で弥生時代の平織りの様子を知ることが出来るということが、非常におもしろいんじゃないかなあと思うんです。ただ糸になるものを準備しなければならないんですが、この準備の段階が大変で、必要なスタッフがそろっていれば準備も出来るんですが、糸まで作るのは今のところ計画の段階にとどまっております。
・これは復元家屋の中で、弥生人のご飯をみてみようというようなことでちょっと試験的にやってみた時のものです。やはりこの中は暗いもんですから、なかなかよく見えないんですね。ところが明かりをつけてしまうとイメージがぶっ壊れちゃう。これも非常に大きな検討課題です。入り口の所に貫頭衣を着たベニヤ板のお人形さんが立っているんですが、これは学芸員の手作りのものです。
・これは、その時に炊いた白いご飯と赤いご飯、赤米ですね。炊けた状態というのは、みなさん話に聞いたり、本で読んだり、頭の中でイメージすることはできるんですが、実感することが出来ない。米を煮るわけですからお粥のようになるとみなさんイメージしているんですね、でもこういう固いご飯が出来る。それから赤色の米を煮るとどういうふうになるのか、赤くなるということは皆さん頭の中ではわかっているんですが、実際にどういう色になるのか、本当に赤い色になるのか、ということが実感としてわかっていらっしゃらない。それが実物として目の前に出てくるということは非常に大きなインパクトがあります。こういうのをいつも示していければおもしろいかと思います。
・これは、ある小学校の体験なんですけれども、田下駄を履いてみたいということで実際に田んぼの中で田下駄を履いてやってみたんですね。1階の体験ゾーンにも田下駄を履くコーナーがあるんですけれども、実際の田んぼにはどろがありますので、ここではみんな非常に苦労して歩いておりました。裸足の方が楽だと思うくらいなんですが、実は裸足になるともっと歩きにくいんです。そういったことを子どもたちが身体で覚えたことは、貴重な体験だったというふうに思います。
・これは、弥生人体験クラブというちょっとした組織があるんですが、その人たちがエブリを使ってますけれども、このエブリも出土資料をまねて作ったものです。それで貫頭衣を着てしろかきをしているところですね。こういうところから秋の収穫まで一年を通して体験することが出来ればまことに素晴らしいことじゃないかと思います。
・これはその田植えの風景です。田植えも田植え定規というピシッときれいに植えられるような道具もあるんですが、そういうものを使ってしまいますと、弥生時代の再現じゃなくなってしまうものですから、ここでは田植え定規とかを使わないでまばらに植えているわけです。あまり密集して植えてしまいますと、生育に良くないわけですね。そういったことも自然に覚えていくことで、農民でない人たちにとって新しい発見として非常に新鮮に受け止められていたようです。
・これは、弥生人グルメという行事の写真なんですけれども、魚のはらわたも子どもたちに実際に取ってもらいます。ここで使っている刃物は、石刃という石の刃物です。そういうものを使って調理の準備から入っていきます。
・これも同じですね。菜っぱのようなものを石の刃物で切って、スープを作る様子です。
・これは復元家屋の中で調理をしているところです。こういうことを中でやっていますと、非常に臨場感がありまして、ギャラリーの方達・一般の観光客の方達も非常に興味を持って見てくれるわけです。ここにいる参加者も実はお客さんなんですけれども、この人たちも私たちスタッフの中に自然に組み込まれてしまうということが、やっていましてよくわかります。
・これはそれを示すものとしていい場面だと思いますけど、真ん中に女の子が立っております。その横でおじさんが何か話を聞いていますね。こういうギャラリーの人たちというのは、行事に参加している人たちにいろいろな質問をぶつけてくるわけです。そうすると参加している人たちも、自分の知っている知識で必死になって答えるわけです。見ていると非常におもしろいです。まさにこれは参加者が本当に展示物に変わっているというそういう状況の気がします。
・これはスタンプラリーの時のものなんですけれども、脱穀を外に持っていってやっている所です。
・これもスタンプラリーのひとつのポイントでの情景です。ここでもとにかくやたら細かい説明はしないよう努めてはいるんですが、やはりどうしても何というか、解説的になってしまうことも多いようです。
・これは全部完走し終わって、受付に戻ってきて、バッチをもらっているところです。このバッチも今は業者に頼んで作っていますけれど、この時には学芸員が登呂の復元家屋をかたどった焼き物のバッチを作りまして、それを配っていたんです。今のよりこっちの方が味があっていいんじゃないかなと思うんですが、もらう方はやっぱりきれいなバッチの方がいいみたいですね。
・これは講座の一つとして土笛を作るところの場面です。真ん中に立っているのが、博物館1階の体験指導員でもありまして、講師を務めている人です。こういう講座の時にはボランティアの人にも手伝ってもらっています。立っているおばさんがボランティアのおばさんです。こういう場合に、学芸員だけではとてもまわりきれないところで、いろんな方達のお手伝いがいるんじゃないかなと思います。
以上、ちょっと長くなってしまいましたけれども、うちの博物館の事例をお話しました。
(3)静岡市立日本平動物園
管理課 佐渡友 陽一
日本平動物園の佐渡友と申します。先ほどは登呂博物館のとても楽しい、いろいろな活動をしていらっしゃるスライドを見せてもらったんですけれども、実は私、南部小学校の出身なんですよ(笑)。登呂遺跡が一応学区内で、子どもの頃には登呂遺跡でザリガニとったり、自転車でけんか相手を追っかけまわしたり、秋には落ち葉拾いなんかほうき持ってやったりもしました。そんな私がもうちょっと小さい頃によく行ったのが日本平動物園で、今そちらに就職してイベントの担当をやっているわけなんです。動物園の教育・普及活動という話をさせていただきます。動物園ではあんまり教育・普及という言葉は使われなくって、何でもかんでもイベントっていう枠組みに突っ込んじゃうんですが、そういう事業をまずお話しします。
具体的にどんなことやっているかといいますと、1.当園の教育・普及活動として、恒常的にしているのがZOOスポットガイドです。月1回というのは、飼育担当の方が、月1回30分くらいなんですけど、その数倍の時間準備して、一つの動物をとりあげて、それについていろいろと話をします。話の内容は、結構高度でおもしろいんですが、始めたのは最近なんで、今は手探りでやっている状態です。これなんかは将来的にもっと伸びていく活動だと思います。2つめに書いてあるボランティアガイド、実はこれ正式な名称ではなくて、正式な名称はつい最近決まりました。活動自体は4月からやっているんですが、名称が決まったのは6月末です。かなりいい加減なことやってますけどね。正式な名称は、わくわくアニマルガイドと言います。ボランティアが6つの動物についてそれぞれ解説します。これもスポットガイドのようなものなんですけれど、第1から第4の日曜と第2第4の土曜日にやっております。このボランティアガイドで道具をいろいろ使っているんですけれど、いくつか持ってきました。@これ何でしょう?これから回しますから、お手元にとって考えてみて下さい。動物の頭骨です。2つのうち、どっちかでわかれば結構です。バネがついてますからあごが開きます。もし良かったら試してみて下さい。Aそれから、これは卵なんです。ボランティアの人は今使ってないものなんですけれども、重いものです。これ、なかに砂とか詰めて重さを合わせてあります。そうですね、これ持って遊んでもらうんですけれども。動物園に行きますと、これを使った手作りのパネルといいますか展示があります。もし良かったら動物園に来て、見て下さい。Bそれから比較的大きいやつ、いきましょう。これ。何だと思います?近くに来て見てもらえばわかると思いますが、動物のフンです。こんな大きいフンをする動物は決まってますよね、そう、象です。象はだいたい1回にこのフンを10個くらいごろごろごろっと、それを1日に数回。これ乾燥していますから軽いですけれども、濡れているときは1個で1キロくらいあります。1回10キロ、1日数10キロから多いやつで100キロくらいフンをします。同じようなフンなんですけれども。あ、そうそう、このフンはちゃんと乾燥させてコーティングしてありますから、持っても全然平気ですよ。コーティングの仕方も結構おもしろいんですよ。C同じような大型の草食獣なんですが。これ、キリンのフンなんですよ。大きめの小石みたいな感じです。さっきの象の感じと違いますね。なんで違うかわかりますか?これは消化器官の違いなんですよ。キリンって反すうするんですね。胃が4つに分かれていて一旦入れたものを吐き戻してもう一回消化するんです。繊維の吸収率が抜群にいいんです。象の方は見てるだけでわかりますけど、わらの繊維がすごく残っちゃってます。吸収率悪いんですよ。そういうことがフンを見るだけでわかる。そういった話が一応出来るわけですね。これはあまり小さいんで見たっておもしろくないのでまわしません。Dあとこれはですね、象の歯。これ子どもの時の歯です。大人の歯というのは、もうわらじぐらい大きくなります。そんな歯4本だけです。上下左右各1本、あとは牙。でそれが、象の歯は5回生え変わります。人間で言うと、乳歯の奥歯3本と永久歯の奥歯3本が順々に出てくるような感じになります。これ結構重いんです。Eあとは、これもフンなんですけれども、実際にボランティアの人が扱っているものです。ちょうどボランティアの活動に使っているものですから、今日は予備のやつを持ってきました。このにおいを嗅いでみるとおもしろいんです。何かのフンなんですが、食べているものの匂いがするので、においを嗅いでもらって何の植物か想像してもらえば、だいたい何の動物かわかるかと思います。こんなところで会話ができるわけですけれども。
次に、恒常的な活動としては、クイズラリーですね。クイズラリーって要はオリエンテーリングです、クイズ形式の。それから友の会活動。友の会はだいたい250人くらいいます。それからサマースクール。今度7月の末に小学生対象ですけれど、年間だいたい300人くらいでやってますね。そのほか幼児動物教室。保育園や幼稚園の子どもたちが学級単位で来るんです。1回30人で年間100回くらい。かなりの数こなさなければならないんです。それから写生大会。写生大会の目的を見ると、描画能力の向上および動物愛護精神の向上ということになってるんです(笑)。これ春秋で合計3000人くらいになりますかね。それから博物館の展示に比較的近いのが、資料館の展示。剥製とか頭骨なんかが置いてありまして、イラストやパネル展示もしています。去年はトラのパネル展をやったりしました。
それから、臨時的な活動で、これ要望があったらなんですけれども、ふれあい教室というのがあります。幼児動物教室と比較的似てるんですけれども、動物に親しみましょうといった意味です。職場体験学習、最近これ、中学生がやっています。飼育実習でだいたい1日あるいは2日。今日もちょうど来ています。飼育実習、学芸員実習、これも随時受け入れています。飼育実習は、1週間から2週間くらい、学芸員実習とだいたい同じくらいですね。学芸員実習はうちの場合は、動物病院の方へ行って、飼育実習などを行ってもらいます。それからそのほか、イベントの中で行う教育普及ということになるわけですが、これが私が専門とするところとなります。
イベントの中で行う教育普及ということで、一体何なのかって具体例を持ってきました。オレンジ色の資料がいってると思いますけど、「いってらっしゃい東京へ。ゴリラのトトちゃん」。ちょうど昨日です、ゴリラのトトが東京の上野動物園に行きました。これはおとといやった送る会の時に使ったパンフレットなんですけれども。日付が7月9日になってますけれどね、1週間前にはこの日付でやる予定だったんです。突然変わってしまいました。当日変わったり、結構バタバタやるんです、こういうの(笑)。開いてみますと、「トトちゃんってこんな女の子だよ」という風に書いてあります。上の方に簡単に紹介があって、下の方には、「どうして東京に行くの?」「それはね、お嫁入りなんです。」というふうに非常に端的に書いてあるわけです。これ、私としてはターゲットを子連れの親にしています。だから、読み仮名のルビふってないわけです。親が読んで、子どもに読み聞かせてあげる。「どうして東京に行くの?」「こういう理由なんだよ」って親が教えてあげる。細かいところは親が読めばいいんです。例えば、アフリカ(カメルーン)のジャングルで生まれたから、ちゃんとした誕生日はわからないんだというふうに書いてありますけれども、これを子どもに言うときは、「このゴリラはアフリカから来たんだって」、「アフリカのジャングルから来たんだって」って言えばいいですよね。カメルーンってどこの国かなあ、まあいいや、そこら辺は言わないにするかと。まあその辺を一応期待しているわけですね。やはり完全なイベントですから、基本には誘客宣伝ということを考えています。つまり集客と一体なんですよ。ですから右側には、あまり科学的ではないエピソードだけで、読んでもらっておもしろければいいと。ちょっと字数が多すぎたかなあとは思っているんですが。最終ページにいくと、裏表紙ですが、ゴリラの名前の紹介があって、下の方に上野動物園のゴリラの繁殖計画などの話があって、ちょっと小さめの字になっています。もう少し具体的でも良かったかなぁとは思っています。この中には、野生のゴリラは、アフリカのジャングルで1頭のオスと数頭のメスからなる群れをつくって暮らしています、とそういった説明が入っています。そこら辺の生態の話まで触れられればいいなあということなんです。
このあたりのイベントがどういうふうに広報されるかと言いますと、これイベントを行った日の朝刊です。だからイベント行う前ですね。朝刊の社会面の一番いいところにゴリラの交換の話が出ています。次にこの日の夕刊にまた出ています。夕刊の方は2面の右上の隅、まあ悪くはない場所でカラー写真入りで、こんなイベントやりましたよということでもう1回出たんです。テレビの方、こちらは翌日でした。ですからテレビなんかでも繰り返し繰り返し放映してもらう。この繰り返しが、マスコミを使う場合の非常に重要なことじゃないかと思っております。地域のニュースや新聞の社会面にPRするわけです。科学的な情報をそのまま出そうとしても普段はなかなか受け入れてくれないんです。そこで個体の情報にリンクさせて、ドラマの背景として情報を埋め込んで出していく。そうすると相手は説明の中でいろいろと理解する。具体的に言うと、そのイベントの映像に乗っけて、東京にゴリラが来るその背景なんかを話してくれるわけです。
ここら辺から動物園はちょっと特殊かなあという感じがしますが、動物園の特徴というのをちょっと整理してみようと思います。博物館的な言い方になりますけど、一次資料は生きている動物になるんですね。この場合はゴリラのトトというのが一次資料にあたるわけです。この一次資料、生きている動物ですから、どんなに頑張って手当しても死ぬんですよ。寿命があるんですね。寿命があるから繁殖させて増やしておかないとまずいということで動物園は飼育中心となるわけです。次に二次資料、生成物、フン、卵、抜けた羽、毛、歯いろいろ出てくるんですけれども。それから死体、剥製、骨格、それに生態の記録。行動ですとか、あるいは鳴き声を録音する。写真、録音、録画とこういったものを結構豊富に取りそろえています。行動はまだちょっと弱いんですけれどもね。日本平動物園では、結構この辺は取りそろえてあります。写真なんか特にそうですね。トトなんかも小さい頃の写真なんか結構いっぱいありまして、どれを使おうかなあと悩みました。
それで、次レジュメの2-2、親が子どもを連れて行きたがる場所ですね。動物園は子どもが大きな特徴なんですけれども、物心つく前の子どもが来るんですよ。ということは親が連れてきているんですね。典型的な客層は、3歳以下の子連れの家族。このへんで動物園というものが相手にすべきものが見えて来るんじゃないかと思うんです。最近はカップルが上昇傾向にあると見られております。上野動物園なんか結構多いみたいですけれど、その点いまいち日本平動物園は施設的に古いとか足りないとかいう面があるようです。
2-3、根拠法なき「博物館」・肩書きなき「学芸員」とありますね。どういうことかといいますと博物館には博物館法がありますね。動物園、あるいは水族館、植物園もそうですけれども、それぞれの法律ってないんです。ないんですけど、博物館法がまあいちばん近い、あるいは公園法。というのは、動物園というのはもともと独立採算施設だったんです。自分たちで採算がとれたから地方自治体が勝手に作ってやってたので、国のレベルで所轄官庁というのがないんです。補助金もない。組織とか施設とか多種多様なんですね。まあこれは博物館でも一緒でしょうけど。日本平動物園は、実は博物館相当施設ではないそうです。私、これ、上司に聞いてちょっとびっくりしたんです。まあ実際の活動にはたいして影響はないんですけれども。静岡県では、地方自治体のもっている施設については、教育委員会所管でないと博物館相当施設にはならないそうです。まあ相当施設になったからといって変わらないかなぁとは思いますが。あと学芸員職を持っている動物園というのは全国的に見ても数カ所しかありません。水族館は結構持っている人が多いんですけど。ここら辺だと東海大学の海洋博物館、三保の水族館ですね。あそこには学芸員の方がいます。それから動物園、犬山のモンキーセンターは博物館で、あと神戸の方の動物園とかは学芸員がいるんですけど。学芸員職をもっている動物園は他にはほとんどありません。じゃあ誰がそういった仕事をやるのかというと、日本平動物園では獣医さんとか飼育担当の人がやっています。今会場でまわっている象のフンをコーティングしたり、卵の中に砂を入れて重さをあわせて、さらにそれを手作りのケースに入れたり、写真を撮ったり、パネルを作ったり、そういうのは全部飼育担当の方中心にやっています。あるいは先ほど言った動物を生かして増やす方法について、珍しい繁殖例についてはレポートを作ったり、あるいは研究会にもっていって発表したりするわけですが、そういったものを作ったりする仕事もやっています。その飼育担当の方になりたいといわれますと、実は静岡市では大卒の採用はないんです。静岡市では現業職という枠があって、基本的に高卒で採用しています。ただ最近は、学芸員資格を持っていると、就職に有利に働く例も出てきました。富山のファミリーパークという動物園があるんですけど、あるいは横浜に出来たズーラシア、よこはま動物園というところなどは、学芸員資格が有利に働くようです。興味のある方はチャレンジしてみてもいいかもしれないけれども、すごい高いハードルです。私ははっきり言ってあきらめた口です。(笑)じゃあ私は一体何なのかと言いますと、レジュメの3の個人的経験からというところに入ります。
大学の4年生から始めまして、修士の1年2年と3年間、動物園における教育普及を研究していたんですけど、大学が東京の方だったので、上野動物園にお世話になりまして、週に3回くらい行っていたんですね。3年間でだいたい200回くらい顔出していたんですかね。主にやっていたのはニホンザルだったもんですから、今でもあそこの猿山に行くと、顔を見れば名前がわかります。それから、修士の2年は静岡から通ってたもんですから、ボランティアで日本平の方に行っていました。月3〜4回、2年間で100回くらい行ったかと思います。日本平動物園に入り浸ってました。博物館実習は小田原にあります神奈川県立生命の星・地球博物館という所でやりまして、その後1年くらいボランティアもやりました。そこのボランティアは、当時は完全な裏方で、学芸員の補助とかやっていたので、博物館学の学芸員さんについて、入館者アンケートの集計なんかをやっておりました。こういった動物園や博物館ボランティアでやったことが今、大変生きていると思います。先ほどのトトのパンフレット、これ使ってるソフト、パワーポイントです。使っている方も多いんじゃないかと思いますけれども、パソコンでこれくらいできます。あとはスキャナとちょっとした素材集で。
次に就職なんですけれど、どうしようかなあと思ったわけですね。飼育やってもいいかもしれないけどそれもハードルが高いし、結構採るところ少ないし、実家に戻ってきたいし、できれば飼育よりも教育・普及がいいし、一生動物園にかかわれなくてもいいかもしれないし…ということで、結局、教育・普及に向かうということで静岡市の事務職を受けました。ですから私、学芸員としての採用ではないんですね。学芸員の資格を持ってますけど、就職には全然使ってません。入ってみたところ、偶然、イベント担当・ボランティアコーディネーターということで動物園に配属されたわけです。ただ動物園にいられるのも、去年今年来年くらいまでなのかなぁと思っていまして、今のうちにやれることはやっておこうと思っています。動物園で働けなかったらどうするつもりだったかといいますと、もともとボランティアをやっていましたから、ボランティア続けていこうという話になるわけです。職員の今の方が密度も濃く、やりがいのある仕事が出来ています。でも最初の方の例にあげたクイズラリーというイベントは、問題がちょっと古くなっちゃってて、ボランティアだったときにそろそろ変えようかなぁと思って作りかけていたんですけど、職員になった今は止めちゃいました。そのうちまたボランティアさんがやる気になったら出そうかなと思っているんです。
ですから職業にこだわることなく、学芸員資格を取得する中で得たものをバックグラウンドとして使っていければいいと私は思っています。学芸員として就職なさるのは結構厳しいとは思いますけれども、学芸員資格を取る中で得たものの見方を大切に、それをいかすというふうに考えていただきたいと思います。
(4)静岡県立美術館
学芸員 泰井 良
静岡県立美術館の泰井と申します。よろしくお願いします。それでは眠たくなるといけませんから少し早めにお話しします。8月2日から当館で博物館実習を実施しますけれども、この中にも10人ほどうちの博物館実習を受けられる方がいらっしゃると思いますので、その時にもいろいろとお話できるかと思っております。今までお話しされた3人の方は市立の施設の方で、私だけが県立の美術館ということで、若干、県の施設の教育・普及は違っている点があるかと思います。当然、普及の仕方、何を柱とするのかも違ってくると思います。そういう点もお話しできればと思っております。県の美術館ということで資料の14ページと15ページに書いてありますように、県全体を対象に入れた教育・普及活動を常に心がけています。その他にもリーフレットがありましてこういうものですね、年間スケジュールとかね。表紙は一昨年買いましたポール・ゴーギャンの作品ですが、ずいぶん話題になった作品です。この資料にありますように、教育・普及活動はかなり間口が広いことがお分かりになると思います。ここに書いてないものもまだありまして、友の会活動ですとか、かなりいろいろな事業があります。その中から、かいつまんで説明します。 まず当館の案内をします。開館はちょうど今から13年前です。10周年の時には、10周年記念のシンポジウムや展覧会などを開催していまして、いろいろイベントを開催しました。そのあと平成6年になりまして、ロダン館というのが出来ました。現在、その担当は私になってますが、ロダン彫刻が32点あります。加えて、ロダン以前以降の作品がありまして、これも常に展示しております。ロダン館は平成6年に出来まして、ちょうど今年で5年目を迎えます。学芸の職員なんですが、全部で11名おりまして、別に教育・普及の担当だからといってずっと教育・普及ばっかりやっているわけではありません。みなさんも経験する博物館実習の担当であるとか、あるいは何か資料を整備する係であるとか、それぞれの事務的な仕事もしながら、展覧会も併せて担当しております。年間だいたい5本から6本実施してまして、今年はこの年間スケジュールのように実施しています。私はこの「ロダンの水彩画とデッサン展」を担当しています。それと事務職員が8名おりまして、あと館長と副館長です。館長は非常勤になっております。そういった組織でありまして、特色として学芸員が研究職となっているところがあげられます。つまり学芸員として採用され、基本的には美術館から異動することがないということですね。もうひとつ美術館が出来れば換わることもあるかもしれませんが、できることはないようです。ということで定年を迎えるまでいるというわけで、その意味での専門職になっています。
うちの教育・普及活動ですが、だいたい大きく3つに分けられるかと思います。ひとつには講演会、美術講座、ボランティア活動、視覚障害者のためのロダン彫刻触察プログラム、ビデオ・プラザといったものです。まあ生涯学習といいますか、そういった分野につながりやすいものです。それから美術館の作品を実体験を通じて体験してもらう実技系のものですね。実技講座、自由工房、ワークショップ、これは夏休みの子どもワークショップ、それから春と秋にやってますワークショップですね。技法セミナー、ロダン館デッサン会も実技的な分野になるかと思います。その他に対外協力として、移動美術展、デジタル関連業務、それから博物館実習もこれに入ります。講師としての派遣業務、こういうような教育・普及もあります。これだけ幅広いとやはり県全体に幅広く普及しなければならないから、どうしても分野が広がってしまいまして大きくなってしまいます。まあいい面もかなりあります。
ところで申し上げておかなければならないのは、教育・普及、今言われている教育・普及を専門とする、エデュケーターと言われる人ですが、これが当館にはおりません。国立美術館ですと、西洋美術館であるとか、東京国立近代美術館、ここには近年ですが、教育普及の専門官が配置されております。しかし、私どもの美術館も、やっていることはかなり幅広いことをやっておりますので、今の職員の中でこなすのはなかなか大変な状況です。昨年までは実技系だけは学校の美術の先生に3年間やっていただいたわけですが、その方もまた人事異動でいなくなり、実技系の部門が大変手薄になってしまっております。
簡単に個々の部門を紹介してみたいと思います。1番目の講演会ですが、これは特別展ですね、年間スケジュールにある5本の展覧会に合わせて、それぞれ外部講師の先生を呼んでおります。今年は5回の特別講演会を実施する予定です。「東アジア/絵画の近代展」は青木先生に来ていただきました。最近、聴講者が減っておりますので、ぜひ来ていただきたいと思います。
美術講座は講座室で学芸員が展覧会の説明と作品解説を行うものです。これは年間9回から10回実施しております。テーマは展覧会についての具体的な説明を行います。
ボランティア活動ですが、これは開館の前年度から導入されておりまして、今の館長は2代目ですが、その前の鈴木敬館長の発案で、ニューヨークのメトロポリタン美術館のボランティア制度を模範にしようと職員を何回か派遣しまして、その制度を学んできております。普通のボランティア、いわゆる災害ボランティアなどと大きく違うのは、美術館と来館者の「架け橋」としての役割を担っているということです。去年、4回目の募集をしましたときには、静岡大学からボランティアに入られた方もいらっしゃいました。美術館の活動を理解していただきまして、それを広報、普及していただくという役割を担っております。職員の代行業務ではありませんので、広報業務ですとか、その他美術館の普及活動ということをやっております。現在314名の方が活動しておられまして、この規模の館としてはかなり大きいものになっています。全体を24班に分けて、インフォメーション、図書閲覧室の受付、それからあとで出てきます視覚障害者のためのロダン彫刻の触察ガイド、新聞等の美術記事の切り抜き、データベースの作成ですね、あるいはコンピューター入力業務、ギャラリートークといったことをしていただいております。既に10年以上経っておりまして、いろいろな問題点が出てきております。
ギャラリートークなんですが、これは毎月第2・第4土曜日にそれぞれ2時と3時から20分間やっております。収蔵品展と企画展の両方でやっております。企画展の場合は、その時々の企画展に応じて特別班をつくって学芸員が勉強会をやっています。これはだいたい特別展が始まる前に、6回か7回、勉強会をやります。展覧会の準備をしながら勉強会をやっておりますので、展覧会近くなりますと疲れてくることもあります。最近はもう10年やっておりますと、学芸員よりその分野に詳しい方も出てきまして、逆に教わるということもあります。本当に力強い方もおられ、我々にとってもやりがいのあることです。
それから視覚障害者のためのロダン彫刻触察プログラム。基本的に美術館では触ってはいけないということになっていますけれども、このプログラムに関しては触るということです。平成6年に別館のロダン館が出来ましたけれども、《カレーの市民》という作品がその中にあるわけですね。これは最初、エントランスホールに並べてたんですけれど、その除幕式がありまして、市内の盲学校の生徒さんを呼んでおりました。この時に《カレーの市》民の彫刻を触っていただいたんですね。ちょうどパリのロダン美術館の館長、ジャック・ヴィランさんが来ていまして、これは素晴らしい、こういうことを実行している美術館には、今後ロダン作品の協力および研究協力は惜しまないということを言われました。それで最初はもっと少ない点数を考えていたんですが、結果的に32点のロダンの彫刻が集まることになりました。当時の知事もそれだったら別館を造ろうということでロダン館が出来たという経緯があります。ロダン館の触察プログラムは現在でも実施していることです。電話によるお申し込みをいただきまして、学芸員が立ち会い、ボランティアが付き添い、案内・解説を行っております。それから毎週1回、日曜日の1時から美術ビデオ、レーザーディスク(LD)の鑑賞会を行っております。これもボランティアさんの仕事になっております。
実技系にいきまして、実技講座、自由工房、ワークショップ、技法セミナー、ロダン館デッサン会というのが入っております。実技講座というのは、実技を通して講師の先生にも作品を作っていただきながら教えていただくというものでして、作ってみないと版画の技法ですとか、彫刻刀の使い方とかよくわからないですよね。そういうプログラムを組んで実技をやっていただくのです。今年は第1回として5月、6月に全4回「自己流を見つけよう 現代美術編」ということで、静岡大学の講師の先生、蜂谷充志先生に来ていただきました。第2回は10月に「路上観察」ということで、路上で美術に関係する物を観察してもらいます。去年、写真家の先生をお連れしまして、路上で写真家の目で撮影をやろうと計画し、プロの写真家について路上の写真を撮ってまわった講座をやったんですけど、それの応用編ということです。それから自由工房というのがありますけど、アトリエをもっていまして、週3〜4日間開放しています。日曜日にはチーフインストラクターの先生に来ていただきまして、そこで自分の作るものを見つけてもらって指導をしてもらう。指導をしてもらうといっても自由に作ることが目的ですから束縛することはありません。そこを使って自分のアトリエのようにしてもらうことを中心にやっております。これも電話による申し込みで随時受け付けております。夏には12日間、春には10日間長期の開室もしております。ここで作ったものを展示してもらうという「自由工房展」というものもやっておりまして、作品を出品する中でまた創る喜びを見いだしていく。それからワークショップというのがありますけど、これは主に夏休みの子どもワークショップですね。今年は「歩いていこう絵の中へ」というテーマです。ちょうど「狩野派の世界」という展示をやっていまして、それにあわせてだいたい小学校2年生から6年生までを対象にしてやっています。墨を使って描きながら、日本画の描かれている場所はどういう場所なのか、裏山に出たりして、非常に深い森林になってますので、絵を見ながら実際に描かれた場所に出て体験してみるわけです。静岡大学の学生の方で博物館実習でうちに来られる方は、このプログラムを子どもたちと一緒にやっていただくということになると思います。次に、技法セミナーですが、先ほどもいいましたけれども、美術作品の制作のプロセスを実際にスライドを使いながら、作った作家が解説するというものです。今年は「人間・喜劇」という版画展がございますから、それに因んだ版画の講座をやっております。また毎月の第4金曜日と土曜日には、年間32回ロダン館のデッサン会を行っております。これは海外の美術館で日常茶飯事に行われているデッサンをうちの美術館でもやろうというわけです。日本の美術館はですね、写真を撮っちゃいけない、デッサンしてはいけない、作品に触っちゃいけないと、禁止ばかり決めているわけですね。これじゃいけない、もっと積極的に行こうということで、うちの美術館では常設展に関しては、フラッシュを使わなければ写真を撮ってもいいわけですね。
それから、移動美術展、デジタルミュージアムですね。博物館実習といったようなこともやっております。移動美術展というのは県立美術館が、静岡県というのは西部・中部・東部・伊豆とありますけども、中部にあります。横に長い県で、どうしても遠方の方が来られないということで、県民の財産である美術作品を多くの方に見てもらおうというのが移動美術展開催の理由です。開館の翌年から実施しておりまして、主に、西部・東部・伊豆といった地方で行っております。去年は掛川市二の丸美術館と下田市民文化会館で行いまして、今年は天竜市の秋野不矩美術館と沼津市民文化会館の両館で行います。当館の作品をだいたい30点から40点持っていきまして、学芸員が展示作業を行います。もちろん会場の方のご協力を得てやるんですが。これを見た方が県立美術館に来てみようと思うようなものになると思っております。それから、最近、基調講演でもお話がありましたけれども、デジタル関連の普及ですね。かなりの割合で増えてきたなあと思います。2年前に当館もホームページを開設しておりまして、レジュメの下にあるのが当館のホームページのアドレスです。その他にですね、自治省や郵政省、文化庁の文化財情報システムですね、芸術作品、いわゆる文化財について、どこに何があるのかを把握しようというのです。黒田清輝とかですね、あるいはマネとかがいったいどこに何点あるんだろうとか、そんなことがほとんどわからないわけですね。我々専門家でも苦労するわけです、ましてや一般の人には把握できない。黒田清輝やマネと入力すれば、どこに何点あるかということがわかるように、そういうものをデーターベースで作りましょうというのが文化財情報システムですね、東京国立博物館が中心になってやっていますけれども、それへの参画です。それからさらに今後の課題として、もっと膨大なデータ量をですね、研究機関とやり取りしましょう。もっと太い線を使って光ファイバーのような通信を使って、対外協力にも力を入れていこうというわけです。それからみなさんがおやりになる博物館実習、これも1週間実施しておりますが、今年も8月の2日から9日まで1週間実施しますが、いろいろな業務について理解していただき、最後に自分の企画展というのを考えてもらって実体験していただくようなことを考えております。
これだけ幅広いと基調講演にもありましたが、誰に対して何を伝えるのかということを明確にしておかなければいけません。やはり生涯教育としてずっと続けていけるものとしての博物館ですね、それから実技系の創作者の方々、もしくはそれに準じる方が美術館を使って作家として成長してもらうという場所の提供ですね。それでもって一般の方との間の技法的な接点を作っていくわけです。それから鑑賞教育。美術館というのは、見て勉強する場所なので、それぞれのつながりの部分をどうしていくか。それから県民の美術教育をどういうふうに、他の社会教育施設とどんなふうにして盛り上げていくかというようなことまでやらなければならない。といいますのは県立美術館というのは、県の施設としては博物館施設1ヶ所しかありません。だいたい他の都道府県というのは県立の博物館というのがあるんですけど、静岡県にはそれがないんですね。はやく作って欲しいんですが予算がなくなって作れない。他の県では2館でやれることを、全部うちの美術館1館でやっているわけでして、みなさんの要望に充分にお応えできていないというところがあります。あとここに入っていない美術館友の会ですね、これに関してなぜ入れなかったかと言いますと、美術館の中にある館もありますが、うちは外郭団体で、会長とか事業部とか組織がありまして別団体としてやっております。だいたい今1000人くらいで活動しています。その中でボランティアも兼任されている方がだいたい4割です。それから県の博物館協会の事務局も私どもの美術館が受け持っています。登呂の博物館の方や日本平動物園の方にもいろいろとご支援いただいたりしているんですが、なかなか十分な仕事ができません。しかも教育・普及担当の学芸員が2名しかおりませんで、先ほど言いましたように展覧会業務と掛け持ちです。そういう中で教育普及がいろいろと叫ばれておりますが、予算も人員も逆に切迫しているというところがあります。こういうことも踏まえた中で、誰に何をどのように伝えていくかが大事だと思います。以上です。
司会:
「ここで、本学情報学部の大堀先生から生涯学習の立場で、ただいまお話しいただきましたことなどについてコメントをいただきます。そのあと社会教育の立場から教育学部の菅野先生にお話いただきたいと思います。それでは大堀先生、お願いします。」
大堀:
「大堀でございます。浜松の情報学部にも、学芸員資格取得を目指す学生が毎年約60人います。生涯学習の講義もふくめて、人文学部、教育学部のみなさんもこんなにたくさんの方が熱心に受講されているのを知り、驚いています。全部の方が学芸員にすぐなろうと思っているわけではないと思いますが、できれば…という方もいらっしゃることでしょう。先ほども事例発表がございました酒井先生や佐渡友先生などは、ここ数年前に博物館にお勤めになったということですから、ぜひなってみたいと夢を持ちますと、大変厳しい状況は確かにありますが、必ずいつか実現すると思っております。そういうつもりで頑張っていただきたいと思います。学芸員になるつもりはなかったけど、卒業後にいろいろな仕事をしております中でたまたま博物館に、あるいは企業に勤めております中で企業の博物館(今日本に500くらいありますけれども)に、「あなたは学芸員の資格を持っているようだから、その仕事をやらないか」というようなことで学芸員になっているという人もかなりいます。それから学生時代は考えもしなかった学芸員の仕事がおもしろそうだなと思い、あわてて通信教育などで資格を取るというような人もかなりいるのです。
ところで、博物館の役割とか、機能のことなどについては、授業でずいぶん学んでいるかと思いますけど、簡単にまとめて言いますと、一つは博物館は文化財保存の拠点といいますか、すぐれた豊富な作品と資料、そういったものを収集して、社会の知的な共有財産として保存していくというような役割が当然ありますので、そういう点で保存の拠点であります。それから言うまでもなく、資料というものを選択して、企画をして、展示公開していくという、まさに文化の創造の場といいましょうか、創造していく場としての役割があると思います。今日5人の先生にお話していただきましたけれども、実はたいてい学芸員の仕事というのは、いろいろな分野にまたがっておりますから大変忙しいのですけれども、そういった資料を使って選択して新しいものを創りあげていく、創造していくという、そのおもしろさ、魅力、これにとりつかれているから、今日のお話でも2,30分じゃ足りないということになります。大変おもしろい仕事だということが2,3年経つとわかってきます。それから、当然、そういう活動をしていくために必要な調査研究、これは言うまでもなく最も博物館での中心的な役割になるわけです。そういう点では教育・普及活動というのは創意工夫が必要となってくる。そういう意味で、博物館は創造の拠点といったらいいと思います。それから研究の拠点。一つ目が創造の拠点、二つ目が研究の拠点。それから何と言いましても、博物館へ私たちが行くというのは、日常の空間から文化機関の空間へ、文化の時間へひたっていくわけです。そこで私どもは、まさに典型的な生涯学習の場で、新しいものを発見し見つけていく、新しい自分を見つけていく、そういう場でもあるわけです。私はそれはまさに博物館というのが文化との出会いの場、文化との出会いの拠点であるというような感じがします。それから今、何といっても博物館は情報の拠点であるわけです。さっきお話にもございましたように文化情報システムを整備していくということは、これはまさに生涯学習を推進するという点で極めて重要なことであると思います。その他国際交流の拠点でもあると思います。
今日、実は水嶋先生の基調講演も含めて5人の先生のお話からも、一口に博物館といっても、歴史系あり、民俗系あり、考古系あり、科学系あり、美術系あり、動物園、水族館、植物園、プラネタリウムまでかなり多種多様な博物館があることがわかると思います。平成8年10月1日現在の社会教育調査によると、我が国の博物館数は4,507館でございます。登録博物館、博物館相当施設、類似施設の合計です。ところが、実はまだまだ私的な博物館もありますし、小規模なものも含めますと10,000館くらい日本にはミュージアムといわれるものがあるだろうと言われているのです。バブルが崩壊して大変経済不況ではありますけれど、ひょっとすると1日1館近く、どこかで博物館が作られているという状況であります。そういう意味では、博物館は数の上では大変なものなんです。「ミュージアム天国」と言う人もいるほどです。数の上では確かにそうですけれども、果たしてその中身はどうであろうかということになりますと、もちろんまだまだ課題は少なくないと思います。確かに日本の博物館は変わってまいりました。まず建物からいっても大分変わりました。年々ファッショナブルと言いましょうか、建物そのものも新しく良くなってきています。それからイメージもずいぶん変わりました。私どもが感じるイメージ。かつて博物館という所は、非常にかび臭くて暗くて…なんてよく言われたり、場合によっては「博物館行き」とまで言われたりしました。そこに勤めている人まで「博物館行き」と言われるくらいのこともあったのです。しかしこのところは、もうそういう言葉もなくなってきて、幼児から高齢者まで利用する、そういうふうになってまいりました。まさしく生涯学習の場と言うにふさわしいものに変わりつつあります。その利用者もおそらく今延べにして、年間2億7,8000万人くらいの人が博物館を利用しているだろうということですから、国民ひとりあたり2回くらい行っているということになります。「そんなに行っているだろうか?」というように思われるかもしれませんが、案外行っているのです。でもまだまだ利用者は増えなきゃいけないと思います。その利用者の質もずいぶん変わってまいりまして、かつてはごく一部の人だけという感じがしましたけれども、この頃、学歴高度化ということも反映していて、博物館を訪れる方というのは、まさに高度教養人と言ったら良いのでしょうか、そういう方々が増えてきています。
さっき博物館のイメージが変わったと申しましたけれども、国際博物館会議、さっき柴垣先生もICOMのことをおっしゃいましたけれども、国際博物館会議の目的として、博物館というのはStudy、Education、それからEnjoymentというのをあげているわけです。そのうちのEnjoyment、楽しさ、その楽しみながら学ぶ、学びながら楽しめる博物館というようなことが大変また大事になってきて、できるだけそんな博物館にしたいという思いが、今日ご発表の先生方の博物館、教育普及活動の事例にも見られたというふうに思います。水嶋先生が基調講演でお話なさってましたけれども、博物館と学校との関係、とりわけ子どもたちへの社会教育と言いますか、学習を支援するという側面から、博物館における学芸員というのはもう一人の先生という、そういう役割を持っています。専門的な知識とか情報を持った専門家としてのもう一人の先生が学芸員である。それから、教材としての資料、価値のある資料を提供できるという意味では博物館というのはもう一つの教科書であるわけです。それからもうひとつは生涯学習の場、博物館というのはもう一つの教室だというようなことをおっしゃっておりましたけれども、そういうことで博物館というのが学校の児童生徒に授業の一環としてこれからも積極的に活用されるべきということが大事だというふうに感じました。
それにいたしましても、5人の先生のお話をお伺いして、教育・普及活動が多彩に行われていることがおわかりになったと思います。博物館というのは展示だけではないとはお分かりになってるんですけど、展示以外の教育・普及活動というのはこんなに多彩・多様に行われているのだということをご理解いただいたと思います。アウトリーチ活動という話も出ました。のちほどディスカッションの時間が多少ございますので、もうちょっとこの辺聞いてみたいとか、あるいはこのへんどうかというご自分のご意見などを含めてお話いただければと思います。アウトリーチ活動と言うお話、それどういうことなんだということもございます。歴史探偵団、おもしろゼミナール、ワークショップ、ギャラリートーク、スタンプラリー、ふれあい教室、大変なメニューがあります。こういうような教育プログラムが多様に企画し展開されるようになってきたというのは、だいたい今から20年くらい前からだと思っております。今日お話に出てきた中では人の問題。博物館では確かに足りなくて、これは博物館に限らずどこでもあります重要な問題です。もちろん学芸員もそうですけれども、ミュージアムサポーティングとしてボランティアの問題がいくつかございました。博物館でなぜボランティアなのか、この辺も多分みなさんどんな課題があるかなど、いろいろ聞きたいと思うことが多分あると思います。ボランティアというのは、やってきた利用者の方々の学習の支援をしていくのは当然ですけれども、ボランティアその人自身の自己実現とか自己開発とかというものにつながる生涯学習が大切で、このボランティア活動と生涯学習というのは深い関係にあるわけです。あと学習の支援という形ではミュージアムトレーニングの問題があります。友の会のお話が出ました。この辺についても、もうちょっとお聞きになりたいのではないかなという気がしました。博物館のいろんな活動を地域の方々に知っていただくという点では、パブリシティ、広報活動という問題もこれからもっともっと重視していかなければならないという感じがしています。たくさん博物館の数は増えたけれども中身はどうかというお話を私さっきいたしましたけれど、まさしくこれから運営問題にかかってまいります。これから学芸員を志される方、博物館の運営の問題についてもひとつ関心を持っていただければいいかと思います。」
司会:
「それでは社会教育の立場から菅野先生お願いします。」
菅野:
「水嶋先生からの基調講演と4人の先生のご報告を伺って、書物でそういったものを少々目にしてはいるんですけれど、まさに当事者として実際にあたっていらっしゃる先生方の熱気のようなものを感じ、改めて感慨を深くいたしました。と同時に、大学において学芸員の養成教育をしていくという立場の片隅に私も位置しているわけですから、こういう立派なお話を受けて将来を担える人材をどう大学が育成していったらいいのか、そのためには何が出来るのか考えますと、ちょっと気が遠くなるようなそんな思いもしています。時間もないようですし、3点ほどに絞って短く話させていただきます。
まず最初に大堀先生も言われましたとおり、私も、博物館ボランティアですとか外部人材の活用と言ったらいいんでしょうか、社会教育施設における市民参加という領域に関心を持ちました。さらに絞って青少年教育施設、あるいは施設の名前を持たなくてもサークル活動の中での大人の指導者、ボランティア、それと子どもたちとの関係、と同時に、子どもたちの間でもやや年長の子ども、いわゆるジュニアリーダーと言われたりする、そういった子どもたちの活用も考えていく必要があると思いました。小さい子どもたちから見てもお兄さん・お姉さんにあたるような存在から受ける影響というのは、やはり大きいと思うのです。それから逆に、お兄さん・お姉さん役をしているジュニアリーダーたちにも教育的に人間形成上の効果は大きいでしょうし。青少年教育の新しいテーマとして浮上してきているように思います。中学生・高校生に休日の時間を提供してもらうということはなかなか難しいところでもあるんですが。さて博物館と言ったらどちらかというと、外から見ますと高尚な場と捉えるところもありましたけれども、より若い外部人材といったものを活用し教育しながら教育されるといった人間形成にも役立つと思いました。学芸員の仕事にもそうした角度からの検討が必要でしょう。
それから2点めは、学校教育との連携をめぐる問題。これも大堀先生の言われたことの二番煎じになってしまうんですが。私、教育学部の人間ですから教員養成にも実は携わっております。学校の教師は教える、博物館は育てるというふうに言われますと、いや先生違いますと、学校も窮屈な中でなんとかやってますよと反論しなければいけないような立場になります。確かに各館の先生方の話を聞いて、社会ですとか理科、あるいは鑑賞の領域でこれから授業時間の数の上でも削られていく図画工作、あるいは音楽、そういった教科の幅と奥行きを博物館が与えてくれるという以上のもっとそこを突き抜けたような本物、あるいは実物との生の接触というような魅力を感じました。教育学ではかなわないなーというふうに思わせられました。しかし同時に学校教育なりの工夫、最近の動きといたしましては、みなさんご承知かと思いますが、いわゆる総合的な学習の時間。それが問題の発見、あるいは探究、解決というものを核にして取り組ませようとしています。出来上がった学習指導要領なんかでは、地域社会との関わりを深く持つといったことがクローズアップされています。そうなってくると今日ご発表いただいた先生方の所も、地域社会との一つの小学校あるいは中学校の校区、学区、範囲の狭い地域社会と密着した型、タイプの博物館なのだと思いました。より地元密着型の博物館にかかってくる課題かなというふうなことも考えておりました。
最後に3点めは、学芸員の養成というか育て方をめぐって考えましたけれども。最後の泰井先生のお話の中でエデュケーターというものが、東京の国立西洋美術館にはあるというお話をお聞きして、学芸員にひとつの提案として専門学芸員あるいは学術学芸員、アカデミック、あるいはリサーチキュレーターというものと、それから一応区別をしてこういうエデュケーショナルキュレーターをおいて、役割分担をさせていくような試みは考えられないだろうかと思います。いろいろ状況が厳しいと言われる中で夢物語なんですけど、教育学部の人間として文学部あるいは美大卒業の学芸員さんと比較して、我が教育学部出身の学芸員は専門性が弱いかもしれない分どんなメリットがあるかというと、子どもの認識、あるいは子どもの行動のメカニズムであるとかそういったものにより多く通じているんですね。そうしたところをメリットとして主張していくことが出来ないかなあと思います。教育・普及活動というお話を伺ってそんな我が学部の学生のことを思い出したわけです。以上です。」
討論
コーディネーター(大堀):
「それでは時間が限られておりますので、早速討論の方に入りたいと思います。せっかくの機会ですので、本当は私の方からこういうようなことについてはどうかというふうに申し上げようかと思ったのですけど、学生のみなさん方からいろいろ博物館について、あるいは博物館の教育プログラムについてわからないこと、疑問に思っていること、それから感想など発言いただこうと思います。今日のお話の中で、さっき申し上げたように聞いてみたいとか、せっかくお集まりですから、皆さんの方から話していただければありがたいと思います。それに加えて、おいでいただいた先生にも、もうちょっと話しておきたいということがあればまたお願いしたいと思います。それではどなたでも結構です。いかがですか。
じゃあ、先生方からもう少し話をしたいというのがあれば…。では佐渡友先生。」
佐渡友:
「それでは私の方から。先ほど出しっぱなしの問題が2つほどございましたので答えを。何かわかった人?わかっている人もいるようですけど。これは、トラです。トラあるいはライオンという答えでいいと思うんですけども。口を開いたとき歯がすごく山型で鋭くなってるんですね。それを見られた方は、だいたいわかったと思います。肉食獣。これだけ正面から見て横幅があるのは、イヌ科じゃなくてネコ科です。横から見ても結構丸っこいんでこれはネコ科の大型肉食獣、これだけ大きくなるのはライオンかトラということです。それから、小さいフン、においをかいで下さいというものですけれども、においは笹、竹のにおいです。これはレッサーパンダです。ジャイアントパンダになるともうちょっと大きいんですけど、同じようなにおいがします。ということで、あとは私の方からボランティアに関してちょっと補足させていただきますと、ボランティアの方で4月から活動始めた方は、基本的に自主性・自立性を重んじてやっていただこうと思っています。というのは私自身3年くらいしかいないと、次来るのは多分全然知らない人が来て、いきなりあなたは何々担当ですということになりますから多分厳しいだろうと思いますので、ボランティア自身が自主性・自発性を持ってやっていくような形で進めたいと思っております。先ほどボランティアガイドというのが、ようやく正式な名称になったと申し上げましたが、その名称もボランティアさんに決めていただきました。とにかく名前を出るだけ出していただいて、その後多数決という民主的な方法で決めたんですけどね。ボランティアのやり方はいろいろあるとは思いますけれども、うちはそういった形で職員が何もしなくても育っていってくれるボランティアを目指したいと思っています。以上です。」
コーディネーター:
「それじゃあ中野先生、お願いします。」
中野:
「教育普及活動と言いましても、学芸員にはいろんな活動がありますけど、何をやってもそれは私たちはひとつの展示の形であると考えておりまして、そういう意味で展示の中に学芸員がどんどん入り込んでいくというふうな行動をしておりますと、見学者、お客さんの生の声が、あるいは反応に触れることが出来るわけです。いろんな博物館学などの本を読みましても、そういうことは特に書いてありません。何が飛び出すかわからない。そこに非常におもしろい真実があるんじゃないかと思っています。私は考古学をずっとやってきまして、発掘調査を何十回と静岡市内でやってきましたから、他の人たちから見れば私はプロになる訳なんですが、そのプロが全然通用しない場所がああいった所であるということです。そういった所へ出て初めて生きた研究が出来る、可能になるということをつくづく感じます。そのひとつひとつを今説明しますと、多分1日じゃ終わらないんじゃないかなあと思いますけど。今までは学芸員というのは研究職として博物館の奥深くこもって、本の山に埋もれて、苦虫をかみつぶしたようなおっかないおじさんおばさんがイメージされていたわけですが、これからの学芸員というのは、もっとオープンにですね、展示室の方で走り回って動き回ってというようなことが要求されてるんだというように思います。そういった意味では、もうプロも見学者もましてや学芸員もない。そういった枠組みは取り外して、いろいろお互いに体験していく、学習していくという姿勢が求められるんじゃないかなあと最近思うことです。」
コーディネーター:
「ありがとうございました。学芸員の姿勢のようなお話もいただきました。では酒井先生お願いします。」
酒井:
「先ほどからいくつか問題点も出ていますが、うちの博物館もオープンしたのが昭和35年と割に古い方です。その時に博物館と言えば、主なもので国立3館と言われている、東京、京都、奈良の国立博物館が日本有数のものとしてありまして、うちの館もそれにほぼならう形で市立の博物館として誕生しました。どちらかというとみんな専門分野を持っていて、研究よりの所は従来得意としていました。ここ近年になって研究展示と並んで普及というものの重要性に気づきだして、みんなそれぞれ声を大きくするようになりました。特にそれに加えてここ数年になって我々の世代というか、20代後半から30代前半の学芸員が増え、うちは新館建てるわけなんでそこに向けて、古い体制から抜け出して新しくもっと親しみやすい博物館にできるかいろいろ工夫をしています。ですから、今までの研究的なところをきちんと踏まえつつ、新しくどうやって親しみやすく生まれ変われるか、僕らいろいろ努力しているわけですが、やっぱりこういった教育学部とかを出た新しい普及担当の人に入っていただけると、今まで僕らが気づかなかったような細かなサービスというか新しい発想というかそういうのが出来るんじゃないかなと思います。うちの館でもぜひそういった職の人が出てくれることを期待しています。みなさんもどんどん自分から存在をアピールしていってもらいたいと思います。いろいろなチャンスがあると思いますので。市立博物館とかは公募しかないと思いますけど、企業の博物館とかで入ってからその企業の博物館に移るとかそういった機会も、もしかしたらあるかもしれませんので、いろいろと頑張って下さい。」
コーディネーター:
「はい、ありがとうございました。先ほども菅野先生からエデュケーターという、博物館における教育的な働きをする職員の存在が求められるというお話ございましたですね。それでは水嶋先生。」
水嶋:
「一番最初に、「教」と「育」のこと、学校教育が教でというのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、私の言っているのは、学校教育と博物館の役割を踏まえた上で、お互いがどのように協力をしていくかというようなことを言いたかったんです。育てるっていうことの身近な例のひとつですが、うちの子どもは5年生ですけども、近くの科学博物館に遊びに行きました。母親と行きました。母親が「あれ、そんなのわかんないの?馬鹿ねえ。」、この一言で嫌になっちゃったんですね、理科が。それを私が1ヶ月後に聞いてほめたんですね。「おまえこんなのがわかったのか、すごいなあ」と。うちの子どもですけども、よいしょをして。そうしたら、しゃべりだしたんですね、どんどんどんどん。私、それ、科学教育の研究会で自分の事例を言いましてね。母親の一言がいかに子どもを傷つけるのかということと、それから子どもを育てるということは発見の芽を吸い上げるということがすごい大事なのだと身をもって感じたんです。育てるということは本当にどういうことなんだろうということを学校教育の現場で見ていますと、少し足りないんじゃないかな、と。そういう意味では、学校の黒板とノートと鉛筆だけの世界ではなくて、もう少し子どもに目を開いてもらいたい。博物館の資料とかコレクションだとかそういったものをベースにしたアメリカの言葉で言うと、Learning by doingというんだそうですけれども、doingすることによって学んでもらいたい。そういう子が博物館が好きになると思っております。私のスタッフは、サイエンス友の会の講師をしていますが、よく言って聞かせます。多分、山本五十六か誰かが言ったらしいんですけれども、「やってみせて、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かず」っていうんだそうです。ですからまず博物館学芸員がやってみせて、そして言って聞かせて、ほめてやんなきゃ動かないんだ。それが「教」と「育」の2つあわさった教育じゃないかなあと思っています。
それで、さっき言い忘れましたけれども、青少年の科学の祭典のところで、静岡大会というのがありますので、もし時間があれば行って下さい。浜名湖大会というのが今年ですね、8月7日、雄踏町文化センターというところです。静岡大会、これ静岡市児童会館です、8月22日。こういうふうにやってます。科学技術館に来るのは毎年50万人くらいのお客さんです。ところが博物館の入館者数で評価されちゃうんですね、これがひとつのバロメーターになっています。これは善し悪しありますが、最近では博物館の教育活動、まあ外に出ていってプログラムをやってそれに参加する人、昨年ですと30数万人来てますのでそういった数、あるいはインターネットで公開しているホームページを検索するような人、そういう人たちもカウントしていわゆるビジター数にします。そうやって考えますと、物理的な博物館に足を運ぶ人が50万人、プラスそういった博物館周辺活動かもしれませんが、アウトリーチプログラムで来る人が50万人。合計で100万人は見ているんじゃないかというような言い方を我々しております。」
コーディネーター:
「なかなか教育というのは難しいことで、よく博物館へ子どもたちが来て展示を見ていて、このしかけはどうなっているんだろう、と疑問に思って、そこにいる学芸員の方とかボランティアの人に、「これどうなっているんですか?」と聞くと、「そんなこともわかんないの?」と決して悪気で言っているのではないのですけど、そんなことを言っちゃうと子どもというのはせっかく持ちかけた疑問、そういったものが非常に萎えちゃう、縮んじゃうんですね。教育というのは、きっとその人が持っている疑問とか考え方を引き出してあげるところに大事なところがある。そういったところが指導者としては大事な要素かなあと、思います。泰井先生、いかがですか?」
泰井:
「私の場合というか、特に半分くらいの方が聞きに来られるんですが、学芸員になる方、資格を取られる方大勢いらっしゃるんですね。この前も県で学芸員を募集したら、1人の募集に60人の応募が来ました。非常に高い倍率で狭き門になっているんですけれども、逆に美術館側も望む人に巡り会えないんですね。大学にはいろんな良い人材がいらっしゃる、いろんな能力を持った方がいらっしゃるんですが、なかなかうちの望む人材に巡り会うことは少ない。さっき一番最初のご講演の中で、博物館、美術館はまずモノがある、それから建物があると、そして人がいるということですけれども、この3つが互いに結びついて、館が出来るんだと思うんです。中でも人というのは一番重要なわけですね。教育・普及ということは、何かを伝え、教育していくわけですが、何も自分でやろうとしていない、やっていないと伝えるものがないんですね。やっているものを日常の中で伝えていくということをまず学芸員を志される場合に望みたい。やる気というか、こういうことやってみたいということを前面にアピールしていただけると、こちらもそういう熱意がわかるわけですから、一緒にやっていこうと言う気になるわけでして。職員一人一人のやる気というか、知識を持っているだけでなくて、博物館に外から接される方も互いに理解し合うことが、日本の博物館の、ひいては文化の発展にもつながっていくんじゃないかなと思います。何をこちらが伝えていくか、そういうところをまず見つけていただきたいというふうに思います。」
コーディネーター:
「どうもありがとうございました。今5人の先生からお話をお聞きしました。また後で時間を見てお話いただきたいと思いますが、どうでしょうか。博物館の教育普及といってもどうもよくわかりにくくて、何聞いて良いかよくわからないということもありますけれど、あまりそういうことにこだわらずに、例えば博物館教育といったら、代表的なのは何といってもやはり展示ですから、その展示のことなんかについて皆さんから注文してみたい、これはどうなんだろう?とか、もう少し何とかならないかとか、そういうことでも結構ですから、どなたでもご発言下さい。はい、どうぞ。」
会場:
「ちょっと趣旨とは離れるんですけれど、広報活動について聞きたいんですが、それほど興味を持っていない人を展示をしているものに引きつける広報活動、どんなことを行っているんでしょうか?」
コーディネーター:
「これ教育・普及活動の中では重要なことだと思うんですよね。広報活動というのは博物館としては意外にこれまでは十分手が回っていなかった分野ですね。いかがでしょうか?なかなか博物館には興味を持てないという人がいるわけですけれども、そういった人たちに出来るだけ引きつけたいということでどんなことをしていけばいいでしょうか。」
酒井:
「うちの館もあまりそういったことにこれまで積極的ではありませんでした。だからこういう質問があると大いに反省させられるところなんですが、先ほどから言ってますようにうちでボランティアを平成9年から始めました。その人たちというのは、私の最初の年に展覧会を自分で企画したものをやりまして、その準備段階からいろいろ接しながら勉強会みたいのをして、実際に展示会始まってからも解説などいろいろやってもらったんです。その時にボランティアの人たちは、非常に積極的にポスター持っていっていろいろ渡してくれたり、そういったことをしてくれました。この口コミといいますか、そういった効果というのは意外と大きいと思います。だから、口コミというのは馬鹿にならないなと思って、そこから大きいイメージというのは作れると思うし、あともうひとつ思うのはポスターとかちらしとか作ってて、最近のご時世ではそういった宣伝費削られています。こういったものをもっと雑誌とかのメディアにどんどん出すべきで、僕なんかは展覧会のプレス資料とか作っているんですが、プレス資料とか写真とかを添えて雑誌社とか新聞社とかに送りまくります。載せてくれるところはあります。あと学芸員で茶飲み話しているとき、ティッシュに博物館載せて配ろうかなんてそういうアホなことも言ってます(笑)。もっと力を入れなきゃならないというふうに思っています。」
コーディネーター:
「先ほど日本平動物園で新聞とかのお話ありましたが…」
佐渡友:
「動物園の場合は、興味がない人があまりいないという面もあることはあるんですけれども。世代的に来ないということはあるんですよね。例えば中高生なんかは、忙しいのが最大の理由だと思うんです、時間がなくて。子どもが大きくなっちゃうとやっぱりこない。そういう人たちを引きつけるにはどうしたらいいかということを考えますと、やっぱり新聞とかニュースになることはどんどん出した方がいいです。ニュース自体にそんな意味はなくてもいいんです。とりあえず動物園のニュースが流れれば、「へえー、今度ゴリラが移動したんだ。あ、そういえば最近動物園行ってないっけなあ、試しに行ってみるか。」というような人が増えてくれれば、それだけで誘客になるんですね。全体じゃなくって個々の標本、展示物、動物に関して比較的人気のないものがあるわけですね。そういうものに対して、これは来たお客さんに対してどうアプローチするかということになると思うんですけれども、例えば、ガイドボランティアで今、小型サルなんてものをやっています。小型のサルは日本平動物園にいっぱいいるんですけれども、まあ目立ちはしません。こういうのにどうやって引き留めるかというと、例えば頭骨なんかも使います。似たような動物、例えば、カピバラとか、ヨザルとか並べると結構違うわけですよね。発見があるんですよね。あるいはぬいぐるみをボランティアの方が手作りで作ってくれました。そういったものを使ったり、あるいは子どもが産まれたのをうまくつかまえる。今ここで子育てしている小型サルは、おもしろいことに背中に子どもを乗せているのお父さんが多いんですよ、あるいはお兄さんだったり。オスの方が多いんですよ、不思議な話ですけれど。そういった話をすると、え、そうなの?おもしろいじゃんという話になるわけですよ。そういったただ見ているだけではわからないおもしろさをちょっと解説してあげることによって発見がある。そこらへんを狙っていけばいいかなというように思います。」
コーディネーター:
「ありがとうございました。他の方もいろいろご意見があると思いますが。どなたかいかがですか。何か展示そのものだとか、展示の解説とか、感想でもよろしいんですけど…。はい、どうぞ。」
会場:
「学生じゃないんですけどよろしいでしょうか?」
コーディネーター:
「はい、どうぞ」
会場:
「実は私、こちらの卒業生でして、しかも人文学部で国文を学んでいたんですが、ちょうど教職課程をとっていたんです。縁あって、ただいま東海大学の海洋科学博物館に広報として勤めております。で、佐渡友さんなんかもおしゃっていたんですけれども、広報の立場から教育普及、いわゆるイベントという形で教育普及しているんです。ですから教育学の知識というのは役に立っていると思うんです。しかし東海大学海洋科学博物館の方では、いろいろの知識とかそういうことは非常に専門的だと思うんですが、教育普及における教育方法っていうのは、まだまだ学校教育の、言い方悪いんですけど、まねというような気がするんですね。以前、私ニューイングランド水族館というところに行きまして、そこの教育部門の方が幼稚園の先生に向かって、科学とは何かということと科学をどう教えるかというワークショップがあってそれに参加したことがあるんです。それはそれこそ水族館の職員が学校教育とはちょっと違うんですが、幼稚園の方に教育方法など教えているんです。日本ではまだそこまでいっていないとは思うんですが、先ほど水嶋さんのおっしゃっていたのと、菅野さんも教育理論を学校教育で実践するのではなく、社会教育機関、博物館や水族館で実践する必要ですか、そういう研究をなさっているようなことをおっしゃっていたような気がしたんですけれど。そこのところをちょっと伺いたいなと思って、ご質問させていただきました。」
コーディネーター:
「ありがとうございました。学校教育方式が社会教育に持ち込まれて、場合によっては、まねをしているとか、いろいろその辺の問題は博物館にもあるんじゃないか、いろいろ教育方法論の問題のご質問かと思うんですが、いかがでしょうか。水嶋先生、あるいは菅野先生。」
水嶋:
「つい先週出版された本の中の論文を見ていましたら、フランスのリヨン大学での博物館講座だと思いますけれども、ジョエルさんという人が書いているんです。これ私の昔の友人なんですけど、その人がいろいろ分析してるんです。イギリスの論文では、そういうものを見たことがないので、フランスの方をご紹介したいと思います。ひとつの例ですよ。学校の先生はこう一方的に話し出すんですね。それでその論文ですよ、10人くらいいるとするでしょ。そうしますと学校の先生が入る場合は、一方的なコミュニケーションになるっていうんですね。いいですか。誤解があるかもしれませんけど(笑)。それでそのサークルの中に学校の先生が真ん中に入ります。日の丸弁当の梅干しのように。入っていろいろお話しします。だけど、その先生は対象を見て4年生だとか中学生だとかね、その対象を見ると、どうしてもその学校の先生の教え方っていうのは、そのレベルに合わせてしまうんだ、と。ところが、もっと幅広い社会教育というか美術館というのは、サークルに10人くらいいるでしょ、そしてその中にさっきチームティーチングって解説、時間なくて出来ませんでしたけど、学校の先生が入るよりも効率的ないろいろなパターンを分析しているわけですね。まず、エデュケーターがその真ん中に入る。学芸員みたいな人が。美術作品を説明する。本物の美術作品があるでしょ、それを解説する。ところが、学芸員の見方っていうのもまた偏っているわけですね。そこでいちばん望ましいのは、学芸員が入って、場所を変えて、今度は先生がそれをフォローするんです。最後はこの10人の中の対極というか、こちら側とこちら側でディスカッションにまで発展すれば、そこが活性化されて、そこに参加しているグループの10何人かもいろいろな意見が出てくる。モチベーションを高めるというか、アクティベイトするというか、アニメイトするっていうんですかね、アニメーション。ですからさっきのティームティーチングというのは、学校の先生と学芸員が二人だけいて一方的に話すのではなくて、お客さんていうんですか、その顔色見ながら、知識を与えながら、活性化するというようなことを役割分担をしながら、所を変え、場所を変え、テーマを変えて、お互いに補足する。補完って言ってました、その人は。こういうふうに補完ですね(手振り)。足りないところを補う。というようなことがいちばんふさわしいんではないかというような結論を言ってました。こういうような研究をしている人もフランスにはいらっしゃる。以上です。」
コーディネーター:
「ありがとうございました。菅野先生どうぞ。」
菅野:
「学校教育と博物館、社会教育との関わりですが、(テープ切れ)。人の流れを見ていく、この会話を記録していく。まずどこへ行く。そんなのを見てきて、それを分析する。展示ひとつをとりあげても、目線の高さを大人の高さから子どもの高さに持っていってもう一回見るとか。その目線というのは実際の目線に限らずに、もう一回子どもの心理、発達段階ですとか、子どもなりの思考、そんなところを分析し、そして展示に生かす。こんなふうな関連がどうやらあると。」
コーディネーター:
「中野先生、泰井先生何かございますでしょうか」
泰井:
「あの、どうしても偏りがあるというか、日本の場合、美術の場合ですよ、学校の教育というのはどうしても指導している方、美術系の作家の側からの指導、創作教育ですね。美術館というのは、学芸員というのは美学美術史を出た美術史の研究者ですね。鑑賞教育なんですね。学校の先生に来てもらいますと、確かに実技系の部分は進むんですけども、鑑賞、見る立場からの本来の美術館の機能という面でそれをどのように手助けしていくかというその辺が上手くいっていないんです。ニューヨークの近代美術館なんかが中心になってやっているワークシートとか、ああいったやり方の教育というのがどんどん入ってきているんですが、日本の教育・普及というのは、まだそれほど地に着いていないんですよね。少しずつ日本の実態に合わせながらやっていかねばならない。ワークシートというのは確かに有効な手段ではあるんですが、アメリカというのは多民族国家ですよね。ああいうところでは、どうしてもいろんな考え方というか思想があるので、できるだけ共通の場を作ろうという場合有効なんですけれど、日本は島国でして、みんな同じ考えになっちゃうんですね。誰も意見を言わないとみんな言わないとかですね、そういうことは多いんです。逆に考え方を散してあげなきゃいけない。意見を、もっと言いやすいように、考えやすいように作ってあげなきゃならない。そういうふうにプログラムされなきゃならないんですよ。これが、アメリカなんかとの違いです。学校教育と鑑賞教育、そういう点も少しお互いに協力し合わないといけないと思います。」
中野:
「ちょっと難しくてなんて言っていいかわかんないんですけど、先ほどの質問、よく私たちの方で言われていることで、国立歴史民俗博物館の館長さんの佐原真先生なんかもおっしゃってるんですが、佐原先生の場合は99人の考古学っていうことで、100人の人の中へ考古学的なニュースが流れたときに興味を示すのは1人である。あとの99人は全然反応も示さない。その99人のための考古学というものが必要なんだということをおっしゃっています。それから、奈良国立文化財研究所長だった坪井清足先生は、難しい事柄をどうやってやさしく伝えていくか、そらが学問であるということをおっしゃっています。考古学というのは実は正解はないんです。わからないんです。過去へさかのぼって見てこなければ、絶対にわからないんです。そういうわからないものをわかったふうなことを言ってやっているのが、私たち研究者なんですけれども(笑)。それは、実際にああいう展示の場で、特に子どもたちに対したとき、答えを必ず正解という形で現さない。それから相手が言ったことを間違っているというような反応はできるだけ示さない。ひとつの考え方として、こういうこともあり得るということを示すことはしますけれど、それが正しい、間違いという、要するに○×はつけないということが基本になるわけです。
登呂は稲作の遺跡ですので、当然お米の話になります。幼稚園の子どもたちと話をしたときには、ご飯は知っているけどお米は知らなかったんですね。そういうこともあるということを知らなきゃいけない。安倍川の向こう側のある小学校5年生でしたけれど、向こうはまだ田んぼがあります。田んぼがあるにも関わらず、あぜを知りませんでした。あぜという言葉も知りません。そういうことをまずこちらが充分に把握していないと、どうしても意識や思いが一方通行になってしまいます。今年も実習生の方に手伝っていただいて、要するに盗み聞きですね、今、盗聴法流行ってますけれども、展示室に行ってどういう会話をしているか、全部そのまんまの言葉で書いていくという調査をしました。こういうものをもう少しデータ集めて分析していって、どういうふうな解説のための手順が考えられるのか、方法が考えられるのかということ、それをわかりやすく、やさしく、そしておもしろくするためにはどうしていったらいいのかということを考えていきたいと思います。」
コーディネーター:
「どうもありがとうございました。みなさんの中でこれからちょっとお話を聞きたいという方もいらっしゃるのだろうと思いますが、時間がちょっと過ぎてしまいました。今の話は、博物館における教育方法の問題、大変大事なご質問をいただいて、まだまだこれから考えなきゃいけないところだと思います。それぞれ先生から貴重なご意見をいただき、参考になったかと思います。
なお、ややずれるかもしれませんけど、教育方法というんでしょうか、それもたくさんお話が出ましたけど、館へやってきた人たちが展示をできるだけ理解する手助けになるような形のワークシート、セルフガイドなどといろいろな言い方はございますけど、あのワークシートも大変重要なものですね。展示を見るときにいろいろなヒントが書いてあったり、あるいは自分で感じたことを書いておいたりするわけですが、とかく博物館のワークシートというのは教育指導教材がいわゆる問題集になりつつある。つまり受験勉強に役立つような、そういうまがいのものがかなり出てきているようです。そのことを私は危惧しております。お母さんが子どもを連れてきて、夏休みなどに勉強する場合に、ワークシートがあると、お母さんを喜ばせます。これやっておくと、受験に役立つわよというようなものではどうかなと思います。博物館がいわゆる受験勉強の一つの手助けになるような教材が作られるのはどうかというふうに私は感じておりまして、このへんは十分気をつけねばならないと思います。
さて、時間が経ってしまいました。少しまとめをさせていただきます。ボランティアとか学芸員とか、要するに人の問題です。イベント活動など企画して立案して指導していく人ですから、なかなかこの人の問題は重要です。先ほどの中野先生のお話にもありましたように、これからの学芸員は、研究は博物館の活動で極めて重要なものでございます。けれども、生涯学習時代の博物館の学芸員に求められるのは、多様化・高度化する学習ニーズに対してどう対応できるかということで、その人の専門性を深めていかなければならないのですが、そのことだけに閉じこもってしまってはどうなのか。もっと利用者サービス、利用者の満足を創出するという観点から学芸員がこれから活動していかなければ、というお話だったのではないかと思います。博物館というのは、確かにモノを展示して、モノに素晴らしいものがあって、それに感動する。いい美術作品があってこれに感動する。とても大事なことだと思いますから、これからもずっと魅力のある展示を作っていくという努力が欠かせません。もっと考えれば、利用者が博物館に来て感動するというのは、モノを見て感動するけれど、モノ以上に、私は「人は人で感動する」のではないかと。人は人とのリレーションシップを通して感動する。先ほど教育方法の問題が出ましたけれども、学芸員の人が話してくれたことが、家に帰って、非常に心に残っていて、また行ってみよう、今度はどんな話をしてくれるだろうか?、ボランティアの人がああいうこと言ってくれたのがおもしろかった、実はその方が印象に残っていて、それが感動として残っていて博物館のリピーターが増えていくというのも、大いにあり得ることだと、私は思っているんです。
たまたまこの月曜日でしたか、研究会でこういう話を聞きました。あるお父さんが小学生の娘さんと息子さん、6年生と4年生でしたか、教育普及活動で、磯の生物を観察する会へ参加したときの話です。海岸で観察会があって、それともう一つは昆虫の採集で、娘さんは学校の先生が指導者でした。息子さんは学芸員の方が指導者でした。お父さんは、娘さんの方は学校の先生がいらっしゃるなら、息子さんの方へついていこうと学芸員の先生が指導する方に参加したようです。お父さんがおっしゃるには、ずっと見ていてイライラしちゃったというのですね。子どもっていうのは、いろいろな疑問を持ちますよね。磯にいる生物のことを聞いているのに、学芸員の方は「それはわからない。自分の専門じゃない。」と言うのです。自分の専門とは違った質問だったようで、確かにわからないということはあるかと思いますけど、もうちょっと学芸員としての指導の方法はなかったのかなというようなことで、お父さんは大変不満に思われた。それから、学校の先生が指導なさった方は、植物のことばかりじゃなくて、そこで子どもたちの質問に専門性を超えたことにも答えてくれたせいか、とても子どもはおもしろかったと言っていたようです。すごくおもしろかったと。まさにさっき菅野先生もおっしゃっいましたけど、総合的な学習がそこではある程度出来ていたということです。そういう面で、私は学芸員の対応は大変残念だなあと思いました。そういうことは子どもに微妙な影響を与えていくわけです。せっかく持った疑問が専門じゃないということにこだわってしまって、しかもその人は結論ばかり言わないといけないというわけですよね。もう今日お話になった先生方と比較すると、全然違うと私思います。指導者の在りようというのは大変重要なことで、子どもたちに夢も与えれば、知的な刺激などを与えます。そのお父さんの話は、むしろ私に対する一つのアドバイスであったかもしれないと思ってお聞きしたわけです。
さて、大変不手際で時間オーバーになってしまいましたけれども、まだまだこの教育・普及プログラムの問題は深めなきゃならない課題がたくさんございます。今日のアウトリーチ活動の問題、それからボランティアの問題、友の会の問題、また実はあまり出なかったかもしれませんが、これから博物館に期待される情報提供、あるいは相談、様々な年齢の人たちがそれなりに課題を持っております。そういうものを博物館学芸員にもっと相談したい。これから夏休みになると、子どもたちは夏休みの自由研究の相談に来ます。ところがお母さんが、「うちの子ども、夏休みの自由研究の宿題出されたけど、何やったらいいんでしょうか?」などといったことまで……。でもそういうことにも相談にのって、ヒントを出してあげる、相談への対応も大変重要なこれからの教育活動だと思います。また機会がありましたら、こういう話もできると思います。今日は先生方には体験に基づく貴重なご発表、ご意見いただきまして、ありがとうございました。」(拍手)
司会:
「どうもありがとうございました。学芸員のみなさん、本当にありがとうございました。学芸員の仕事というのはずいぶん多岐に渡って、様々な仕事があるということがおわかりなったかと思います。博物館概論では、ほんの上っ面だけをやって今日はそのまさに深いところのお話をしていただきました。最後に生涯学習教育研究センター長にご挨拶をいただきます。お願いします。」
センター長:
「どうも先生方、本当に長時間ありがとうございました。とくに酒井先生は大阪から、水嶋先生は東京から遠方よりお越しをいただきまして、私どもセンターのシンポジウム第2回目でございますが、ご参加をいただき大変嬉しく思っております。事例報告をいただきました4人の先生方、ご専門のそれぞれの分野で大変示唆に富むお話をいただき、私は目から鱗が落ちたような気がしました。実は私は博物館とか美術館とかめぐるのが趣味といいますか、大変喜んで出かける方でございまして、今日はいろいろおもしろい話を聞かせて頂いたので、今後の博物館巡りの参考にさせていただきます。ありがとうございました。それから大堀先生、菅野先生にはコメンテーター、また大堀先生にはコーディネーターもお務めいただきまして本当にありがとうございました。このシンポジウムは『博物館と大学を結ぶ』と題しまして2回目でございますが、来年、あるいは再来年くらいまでの連続ものにしたいとセンターでは考えております。また先生方にも今後ともいろいろな場面でご協力をいただけたらありがたいとそんなふうにも思います。
会場にご参加の学生諸君、それから外からおいでいただきました学芸員の皆様、本当に長時間ありがとうございました。先ほどのお話にもございましたが、この静岡大学東部キャンパスには人文学部・教育学部でだいたい90名の学生、それから西部キャンパスで情報学部の60名ほどの学生が学芸員資格を取ろうというように勉強しています。静岡大学全体として150名の学生が同じ目的を持っているということを伺いまして、我が大学も大変心強いという気がいたした次第でございます。どうぞ学芸員の道というのは大変狭くて厳しいというお話ではありますが、何人かの方が難関を通って学芸員として世の中へ出ていっていただけたら私たちは大変嬉しい気持ちでいっぱいになろうかと思います。頑張って下さい。今日は本当にいろいろありがとうございました。」(拍手)
司会:
「以上を持ちまして、『博物館と大学を結ぶ』第2回の公開シンポジウム、博物館における教育・普及活動というテーマの会を終わらしていただきます。ごくろうさまでした。先生方も本当にありがとうございました。」
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