水虫の「決定的治療法」がかくも無数に存在する理由
一昔前は水虫の特効薬ができたならノーベル賞ものといわれたほど水虫の完治はむずかしかったようです。それでも、効果的な治療薬ができるずっと前から「水虫がこれでなおった」という民間療法とか、何十年来の水虫がこれでウソのように完治したという経験談は無数にあるんですね。実際その療法を他の人が試しても、しかしまったく効かない。
最近(でもないか)亡くなった心理学者にスキナー[1904-1990]って人がいるんですが、これは彼が言う「迷信行動」なのかもしれませんね。スキナーは、ネズミやハトを特製の実験箱に入れ、レバーを押したり的をつついたりするとあるスケジュールで餌が出るようにして、その行動を延々観察したわけです。あるとき、行動に関係なく5分とか10分とか一定時間ごとに餌が出るようにしたらどうなったかというと、最初は様々な行動をバラバラなタイミングでしていた動物が、エサの出る時間間隔が近づくとそれぞれが自分なりにお決まりの行動をとるようになるんだそうです。前回エサが出たときに各自たまたまやっていた行動を次のエサ時間のときにやり出すようになるわけですね。それぞれの行動とはまったく関係なく一定間隔で餌を出しているだけなのに、ネズミやハトは自分の行動が餌を出したと思い込むのだというわけで「迷信行動」と呼ばれたんですが、これって人間も射程に入れた命名ですよね。
水虫の話でした。水虫の正体は白癬菌というカビで、まあ一種のキノコです。で、キノコの寿命なんですが、それぞれあるんだそうです。ぽっ、と一本出てくるキノコの寿命ではなくて、その本体である菌糸の「シロ」の寿命ですね。地中からニョキっと顔を出すいわゆるキノコは、キノコの本体にとって「花」というか「実」みたいなもので、その本体のシロは数十年地中に生き続けるわけで、松茸名人はそのシロの場所を知っていたり、シロが生息しそうな場所を探すのがうまかったりするんですね。キノコを生やすわけではないですが水虫にもシロの寿命があって、致命的な打撃を受けない限り30年とか40年とかはしぶとく生きる。で、寿命が尽きるとウソのように水虫が消えてなくなるわけです。で、その時たまたま宿主がある療法をやっていたとすると、これが水虫の「決定的治療法」に祭り上げられるんではないかと。
土中や枯れ木ではなく人間の足先をシロに選ぶ菌類もいるくらいですから、キノコのすみかは様々です。そのうち昆虫の身体を選んだのが、有名な冬虫夏草ですね。生きている虫に胞子がとりつき一瞬で宿主を殺したのち、腐らせずその養分で大きなキノコを生やす冬中夏草は、ファーブル昆虫記のあの狩人蜂をも想起させて、なかなか興味をそそる菌類です。中国では漢方薬として珍重されていますし、陸上競技で驚異的記録を連発した中国の「馬軍団」が服用していたという噂もありました。ちなみに私は一度もお目にかかっていませんが、知人が昔福島の土湯温泉だったか、温泉宿で出されたみそ汁の具(!)に入っていたそうです。とても貴重なもので長生きするからと宿のおばちゃんに勧められたのに、蜂に大き目のカビが生えたようなその姿に恐れをなし食べなかったとのこと。もったいないお化けがでるぞー!
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