シドニー大学における地域貢献と地域連携

静岡大学生涯学習教育研究センター 阿部耕也


 平成14年度末、オーストラリアにおける大学の地域連携・貢献のあり方を視察する機会を得ました。今回はシドニー大学を訪問先に選び、継続教育センター、ビジネスリエゾンオフィスなど、地域貢献の窓口となっている部局を見学し担当者と意見交換を行うことができたので、その概要を報告します。
 イラク戦争が勃発し豪州も参戦という折り、中井弘和副学長、村越順一地域連携推進室長と3月24日から1週間の豪州視察に向かいました。シドニー国際空港の警備は物々しく戦時であることを伺わせましたが、市内に入るとニュース以外で戦時を感じさせられることはありませんでした。幸い旅行中は晴天に恵まれ、快適な南半球の初秋を満喫することができました。
 ニューサウスウェールズ州の州都であるシドニーは、豪州最大かつ最も長い歴史を誇る美しい都市で、世界三大美港の一つに数えられるシドニー湾を中心に広がっており、面積は東京都の5倍強、人口は約380万人を数えます。市中心部近くに立地するシドニー大学は、1850年に設立されたオーストラリア最古の大学で、18の学部からなる最大の大学でもあります。学生数は4万人を超え、5千人を超える外国人留学生も学んでいます。
 事前にシドニー大学出身の情報学部ゲスト教授にコンタクトをとってもらい、3月26日の視察初日にはシドニー大学から下記のような日程をアレンジしていただきました。
 午前10時にキャンパス中心にある印象的なゴシック建築 "Quadrangle"(写真1)下でドッド国際部長と待ち合わせ、棟内にある副学長室にエスコートしてもらい副学長補佐シェリントン教授から公式の歓迎を受けました。教授からは現在進行中のシドニー大学戦略プラン1999-2004について説明を受け、地域貢献・地域連携に関して意見交換を行うことができました。
 続いて、継続教育センターにセンター長ハイマニス女史を訪ね、生涯学習に関するシドニー大学の貢献についてうかがった(写真2)。シドニー大学では、教養コース/キャリアアップコース合わせて250を超える継続教育コースが走り、毎年22,000人ほどが受講するといいます。大学全体として地域住民への教育サービスに取り組む姿勢があり、地域のニーズも高いと感じました。継続教育センターはその企画・運営のほかニーズ調査や地域連携プログラムを担当しており、フルタイムのスタッフ16人、事務職員20人が業務に当たっています。さらにパートタイムの教育スタッフが450人以上いるということです。ハイマニス女史らは、継続教育コースが多くの受講者を集める理由として、豪州最大かつ最も歴史があるシドニー大学への評価・期待をあげられましたが、同時に単位や資格の授与システムの検討をなかなか進めない大学の保守性に危機感を持っておられました。
 初日最後の訪問先はアジア太平洋研究所(RIAP)で、同地域にある諸機関と共同研究を進めたり、研究に訪れる外国人に英語教育サービスを提供したり、多彩な活動をしていました。当初予定していたコースは以上でしたが、副学長補佐との懇談で、地域産業との共同研究、知的所有権の扱い、地域と連携した教育活動にも関心があることを伝えると、早速翌日の視察・意見交換の場を設定していただきました。
 2日目は教育学部・職業経験部門の責任者ジャスマン助教授を訪ね、企業・学校との連携の上で進められる学生の教育課程や現職教員の再教育プログラムの説明を受けました(写真3)。
 続いてビジネスリエゾンオフィスを訪ね、事業推進マネージャーのサイムズ氏に産業との連携について説明を受けました(写真4)。本学の地域共同研究センターに対応するこのオフィスは22人の専任スタッフと6人の事務職員を擁し、大学と企業との共同研究の仲立ちを行い、大学の持つ知的資源をビジネス化することを業務としますが、学内に特許申請の仕方や知的所有権の守り方、研究にともなうリスクマネージメントについて指導助言する仕事も担当しています。パテント・知的所有権について質問したところ、シドニー大学では共同研究の成果である特許などは大学に帰属するものの、そこから上がる収益については関係者が等分するというルールを最近導入したといいます。メルボルン大学などでは特許自体の帰属を研究者に認める方向で動いており、人材や企業がそちらに流れないかと危機感を募らせていました。
 どの担当者も思ったよりフランクにシドニー大学の強みと課題を語ってくれ、こちらも独立行政法人化など大きな変化のただ中にいることを伝えましたが、こうした中で改めてこれからの大学にとって地域貢献・連携が重要だという実感を得ました。
 懇談の後も広大なキャンパスを散策し、南半球最大という附属のフィッシャー図書館および宿泊地に近いシドニー工科大学附属図書館も利用してみましたが、いずれも非常にオープンな対応で、大学開放が当然のこととして根付いていることを感じました。シドニー大学では本学情報学部との学生交換プログラムの検討が進んでいますし、また先にふれたRIAPも日本の財務省と共同研究を進めるなど日本との関係も少なからずあります。また今回の視察旅行では時差がほとんどなく快適でしたが、時差がないということは、例えば日本との遠隔教育プログラムやテレビ会議システムによる共同研究などを進める場合にも重要な要素となってくると感じました。
 今回は準備期間がないまま行われた豪州訪問でしたが、地域貢献・連携に関して多くの示唆を得ることができました。急な訪問にもかかわらず歓待いただいたシェリントン副学長補佐をはじめシドニー大学の皆様、訪問日程のコーディネートをいただいた本学情報学部のゲスト教授、更にこの機会を与えていただいた学長および本学関係者の皆様に紙面をお借りして御礼を申し上げる次第です。




University of Minnesotaの地域貢献
〜Extension Service、Minnesota International Centerでのインタビュー

総務部研究協力課研究協力係 寺尾 静乃


 ミシシッピ川を挟んで広大なキャンパスが広がり、長い冬は雪に覆われ、春は芝生や花が眩しいほどのキャンパスの中を、ローラーブレイドやマウンテンバイクで学生が行き交う。ミネソタ州ミネアポリス、生徒数約5万人、300もの分野で学位が取得できる、全米でも大規模なミネソタ大学で、2002年1月から5月までインターンを経験した。私は留学生や外国人研究者に対するビザ等のアドバイス、カウンセリングのサービス等を行う国際交流オフィスでインターンをしていたが、以前大学で生涯学習の事務をしていた経験があり、地域と大学の結びつきに興味があったため、ミネソタ大学の主に地域貢献事業をおこなっているオフィスにインタビューに行った。ここでそのインタビュー・事業内容を紹介したいと思う。
 ミネソタ大学はLand Grant University という、元々地域の農業の振興に寄与することを大きな目的として設立された大学であり、このような歴史的背景をもつ大学になかでExtension Service は、特に実地教育、地域サービスを主な役割として持つ、地域貢献、地域との共同研究のためのオフィス。コミュニティの発展と活性化、食料と環境問題、青少年教育プログラムなどを重点領域とし、大学の学部と共同でワークショップ、会議、短期学習プログラム等をミネソタ州各地で行っている。
 ミネソタ州を7の地域に分類、さらにその中を87のcountryに区分し、各countryにオフィスを置いている。250人のスタッフ、研究者が各countryに住んで、コミュニティと大学を結ぶ役割を果たし、実地研究、地域との共同研究をしている。また20人ほどの市民がオフィスの委員会に参加し、countryのニーズを報告し、企画運営に参加する。  160ものワークショップが各地で開かれ、その分野はコミュニティ、環境、家族、農業、ガーデン、生活の6つ。テーマは「食物の栄養学」「子育て」「ボランティア活動」「ガーデニングデザイン」「農地・土壌・灌漑」など生活に密着した、またその地域性を出したもの。またインターネットを利用したオンラインコースも「イベントマネージメント」「コミュニティ経済分析」「青少年教育」等15コースあり、無料で自由に受講できる。
 その他に、地域と留学生との強い結びつきを実現しているのがMinnesota International Ceter。大学からは独立した非営利団体で、地域の国際化を促進することを目的とし、インターナショナルオフィス、他のオフィスと協力して、留学生、外国人研究者等に、様々なプログラムを提供している。Dinner Hosting Program は、International Center のメンバー(会員)であるミネソタのコミュニティの一般家庭を訪問する。ホストの家庭では、ディナーを提供し、車のない学生のためには送り迎えのサービスをする。このプログラムは、留学生にミネソタの家庭の日常生活を経験させる、異文化を共有することを目的に、通年行われる。International Classroom Connection Program はミネソタの小、中、高校に留学生が訪問して、その国の文化の紹介、プレゼンテーションを行う。参加者は、年4回開かれるトレーニングに参加し、現在実際に教えているスピーカーからの話を聞き、効果的な教授方法などについて学ぶ。Great Minnesota は、2人から8人の留学生のグループが、2〜3日の日程で、ミネソタの郊外でホームスティをし、そのコミュニティの学校で自国の文化についてのプレゼンテーションをする。
 このように、ミネソタ大学では様々な方法で大学と地域の連携を築いている。コミュニティに様々な形で「学ぶ」機会を与え、学生、特に留学生など経験や知識を地域のために発信できる者たちに、その機会を提供する、コミュニティにスタッフを置くことで地域のニーズを十分に取り入れる体制を整える等、大学から地域、地域から大学へと双方向の結びつきを実現している多くのプログラムがあった。

参考:ホームページアドレス
University of Minnesota Extension Service 
http://www.extension.umn.edu/
Minnesota International Center http://www.micglobe.org/




『きて見て静大』・「やきもの考古学A」の受講者

生涯学習教育研究センター教授 柴垣 勇夫


 平成12年度の秋口に、滝欽二センタ長の発案で、公開講座をもっと開放的な方法で行うための、『飛ぶ教室』と呼ぶ出前講座や、『きて見て静大』という学内での実技的な講座を計画的に実施する事業が、生涯学習教育研究センター運営委員会で承認された。そして、平成13年1月からセンター教官の研究分野を生かした講座を、その糸口として具体化させることとした。講師や施設・教室の使用等を煮詰め、年明け1月下旬から日曜ごと5回の講座を、@陶磁史講義、A古窯跡調査で出土した志戸呂焼陶片の復元と、BC志戸呂焼に使われたものに近い釉薬を使って、初歩のやきものづくりを教育学部の美術教室の応援を得て実施し、D講評と土と釉薬の話で組むこととした。講師には、実技の指導に陶芸家前田正剛氏と美術科教室教務補佐員土田美智子氏、講話を愛知県立芸術大学助教授太田公典氏にお願いし、要項を定め実施した。これには教育学部美術教育の先生方の協力で、教室使用を認めていただいた。募集は、20人で1月9日に募集したところ、3日間で即締め切ってしまうこととなった。受講者の平均年齢は54才で、28才から70才の幅があり男女比は6対14であった。終了後に寄せられた感想には、古陶磁に触れられて良かったことと、土の成分に関する講話が、大変興味深かったといったことが寄せられた。
 今年度は、Aの復元作業には、古代の須恵器に焦点をあて、一昨年調査した藤枝市の助宗古窯の出土品整理を行っていたこともあって、この8世紀の須恵器を復元し、Cに自然釉をかけてやきものの変化を、実際に経験してもらうこととした。陶磁史の変化を取り入れ、技術の発展過程も体験するという、大学ならではの講座を心がけ、その特色を持たせることに意を注いだ。そして、講師には前年の講師陣に加えて、人文学部考古学の篠原和大助教授にも加わっていただくことができた。今年も年明けの1月8日に募集要項を記者発表したところ、翌日の募集記事から3日のうちに、募集人員20名があっという間に埋まってしまった。前回の応募者は、今回は受け付けないこととしたが、三人ほどの昨年の受講者から欠員が出たら是非入れて欲しいとの希望があった。残念ながら希望には答えられなかったが、人気の高さを感じた。
 やきもの考古学と名付けた理由は、静岡の窯業史を見直し、資料の保存と特色ある地域文化を浮かび上がらせることが地域とのつながりを広げることになると考えたからに他ならない。前回と対象資料を変えたことで、より考古学に関心を持つ人の応募が高かったようで、受講者のアンケートに古代の須恵器に触れられることへの期待が高かったことがあげられていた。昨年同様、土と日の日程で組んだ4週に5回の講座だったが、受講者は、48才以上の中高年齢層(平均60才)、男女比は、10対10の同比で、陶芸を少し経験した人が数人参加していた。大学の教室での講義や実技が新鮮で楽しいという反響が強い反面、国立の施設の古さにちょっと驚いたという意見も多かった。浜松や豊田町から6名の参加もあり、環境の良さが気に入り、春には櫻を見にまた訪れたいと数名の人が答えていた。
 参加者の年齢のせいもあるが、大学での文化講座や、実技教室、見学を交えた講座を期待する声が多く、少人数構成によるこうした公開講座への期待の高さが感じられる。リフレッシュやリカレント教育への橋渡しに、小事業ながら学内全体に広がることを望みたい。





カナダUCFV大学の継続教育コース見聞記

静岡大学生涯学習教育研究センター長 滝 欽二


 平成12年度末の3月17日より1週間、カナダの大学におけるcontinuing education(継続教育または連携教育)システムを見学する機会を得た。時差が12〜14時間あり、またカナダ国内の移動にも飛行機を使用せねばならないので、訪問先の大学は2ヶ所とした。カナダは生涯学習や継続学習教育では先進国であり、訪問先にはわが大学と姉妹校であるアルバータ州立大学ではなく、まだ気温が零度以下であった中央部のマニトバ州にあるウイニペグ大学(UW)とこの地よりは暖かい太平洋側のブリティシュコロンビア(BC)州のバンクーバーの東部にあるフレーザーバレー大学(UCFV)を選んだ。ここではUCFVの継続教育システムについて、見聞したことを中心に述べる。
 UCFVは上述のようにBC州の中心都市のバンクーバーから東へ80kmのところにある風光明媚なフレーザー川渓谷地帯にあって米国との国境に近いアボツフォード市にメインキャンパスがあり、また10数km離れたチリワック市内にもキャンパスを有している。
 この大学は前身の職業専門大学と法律研究所が統合されて1974年に創設された新しい州立大学である。同じBC州にある総合大学のUBC(ブリティシュコロンビア州立大学)およびサイモンフレーザー大学と教育研究体制を連携している。
 3月17日の午前8時30分、イギリスのエリザベス女王も宿泊されたことのあるバンクーバーの中心地にあるフェアモントホテルに大学の国際担当のDea Freschi女史に出迎えていただき、1時間のドライブののちアボツフォードキャンパスに到着した。当日は10時から夕方までびっしりとスケジュールを組んでいただき、大学の継続(連携)教育の説明と施設をいろいろな方に案内していただいた。何度も来日の経験もあり、昨年わが大学の生涯学習教育研究センターを訪問していただいたLinda Brown女史と市民開放・ビジネス・情報学部長のKaren Evans女史らの大きな歓迎を受けた(
センターニュース)。ここのスタッフには女性が多くて大変明るく活気があり,我が国の大学の事情とは大きな相違をまず感じた。
写真1  この大学は創設された経緯から、農学・園芸、航空学などの職業専門科目や法律、幼児教育までたいそう幅広い分野の教育プログラムが組まれている。これらのコースを2年間修得し学位免状を取得した学生は希望すればさらに上の学士課程に進学し、文学、理学、経営管理、コンピューター情報処理、社会福祉などの10学部の学士プログラムが準備されている。2つのメインキャンパスをもつ大学全体では6,000名の学生、200名の留学生が在籍し、1,200名の教職員を擁して各種80以上の修了証明書や学位免状を授与しているという。筆者が訪問したアボツフォードキャンパスは市街地からちょっとはずれた丘陵地にあり、淡い赤褐色の瀟洒な2階建の校舎が周辺の緑とマッチしてゆったりと配置されており、3月下旬であったがすがすがしい気分のする構内だった(写真1)。
 継続教育コースの1つである一般教養プログラムのESL(第二外国語としての英語コース)には高校卒業程度で18歳以上が入学資格とされている。したがって日本人を含む外国人が仮に必要な英語力がない場合にはこのESLコースをまず受講しなければならない。このESLは大変充実したシステムで、初級から上級までの5段階レベルと大学進学準備レベルの6コースあり、それぞれ1セメスター(半期間)で構成されている。学生は1週間に各レベルの主要科目と選択科目のうち18から24時間の授業を選ぶ。また語学実習室のコンピューターを駆使していつでも自主学習をすることができる。すなわち自分にあったプログラムを選び、順次上級に進むことができる。継続教育コースにはESLのほかに前述したように職業専門コースとして農学、ビジネス、コンピュータートレーニング、刑事裁判、幼児教育、環境、美術、演劇からスポーツリクレーションレーダー養成、社会福祉など20コースがある。また特徴的なのは、このコースには関係した仕事につきながら実践力を身につけるプログラムもある。いわゆる社会人が仕事に従事しながらそれぞれ関係の職業教育を受講し、必要な資格を取得したり、短期間に実践的な技術をものにするというコースである。例としてはマルチメディア出版、薬剤師、歯科衛生士、幼児教育、法律秘書などが準備されている。
 これらの仕組みや運営は、わが生涯学習教育研究センターとしてもまた大学の今後のさまざまな活路を見出すためには、大いに参考にすべきであると思った。
 そのほか継続教育コースには、われわれも毎年行っているような市民教育やオープンキャンパス的な成人教養教育などがあり、これらの事業への参加受講はもちろん無料であるので全学の予算や国、州からの助成金をもとにやりくりしながら実施しているという話である。市民教育の内容は公衆衛生、環境社会、政策論などを公開講座式で行われ、成人教養教育にはレジャー、自己開発、自己表現、シェークスピア演劇、天文学、芸術表現など多種多彩な内容が企画されている。また、この成人教養教育には、正規の授業と同じように必要単位を取得して学士の称号を得ることもできる。継続教育の運営基金は受講生からの授業料が88%で残りの12%は国や州からの助成金で構成されているようである。継続教育コースのこれまでの登録者数は17,000名にのぼり、21の証明書プログラム、1,100の短期コースがある。この継続教育コースには企業の技術者や個人経営者からなる非常勤講師が400名登録されており、20名の専任の教職員と4名のパート職員が勤務しており、年間予算は300万カナダドル(約2.8億円)で運営されている。
写真2  大学内の継続教育コースの建物と施設を見学させていただいたが、いずれの教室も少人数教育でコンピューターなどの施設(写真2)も充実しており、スタッフもてきぱきと教育指導していて明るく活気のある様子がよくわかった。昼時にはお忙しい中、大学の学長をはじめ他学部の学部長も交えて昼食をとりながら懇談した。当日通訳を引き受けてくれた日本人留学生の巣山淳一郎君(横浜出身)には多大な協力を得た。夕方、大学近くのバーでメンバーのみなさま(写真3)とおいしいビールと食べ物を家内ともどもご馳走になり、Brown 女史らに見送られながらバンクーバー行きのバスに乗り込んだ。
写真3  あわただしいカナダ訪問だったが、生涯教育の一端を見聞でき、Evans学部長をはじめスタッフのみなさま、巣山君、さらにこの機会を与えていただいた学長および本センター、大学の関係者のみなさまには大変お世話になった。紙面をお借りして謝意を申し上げる次第である。




公開講座委員からひとこと
今後の公開講座の一課題

静岡大学農学部教授 


 「生涯学習教育研究センター研究会」が静岡大学内に発足した。この研究会は、5年目を迎えた生涯学習教育研究センターの在り方に、反省を加えつつ今後のよりよい事業を企画して行こうとする趣旨のものである。
 その第1回の研究会として、さる2月28日(水)に、大学会館研修室で開かれた。本学センターの2年先輩(平成7年設置)に当たる宮崎大学からセンター助教授の原 義彦先生及び1年先輩(平成8年設置)の富山大学からセンター教授の大石 昴先生をお招きして、テーマは「生涯学習教育研究センターの在り方と諸事業」という内容で話し合われた。
 両大学とも、講師謝金などの予算問題、講義内容と受講者の数の問題、県や市が開く公開講座と大学が開く講座との「住み分け」の難しさなど、やはりいずれの国立大学のセンターも様々な困難に遭遇しながらも、懸命に新しい企画を打ち出して奮闘されている姿に接することが出来た。例えば、参加型・体験型学習などを取り入れた事業の企画、ニーズを創生するような事業の展開、学内の教職員の啓発、学外の機関とのチャネル形成、大学の授業科目の開放、出前(高校、町村などに)公開講座、県内のネットワーク公開講座、インターネットやSCSによる公開講座など様々な取り組みに挑戦されていることでした。
 ここで考えさせられたことは、今までの公開講座と異なる取り組みとして、両大学ともインターネットやSCSによる公開講座の試みであった。今までの講座は、受講者が一定の時間に同じ場所に集まって、講師と同じ空間で講義を受ける。それに対して、SCSは同一時間ではあるが空間が異なり、更にインターネットでは時間も空間も共有することが無い場合もでてくる。動きや表情、色や音から来る「生」の演奏の雰囲気と、映像で居ながらにして聞くことが出来るテレビやビデオやCDとの差のようなものだろうか。今までの公開講座とは、受け取られ方や参加の仕方など大きく性格が異なるものになって行くように感じる。これからは高度の情報化指向の中で、当然考えられねばならないことではある。したがって、画一的ではなくそれぞれの良さと教育効果を考えながら、講義のテーマと内容、受講者の年齢層、講師の制約などを加味して、使い分けて行く必要があると思われる。

(生涯学習教育研究センター公開講座委員)




地域への大学開放を進めるために

静岡大学生涯学習教育研究センター長 滝 欽二


文部省の資料(平成10年度)によれば、生涯学習教育研究センターを設置している全国の国公立・私立大学(短大を除く)は、142大学にものぼっています。
国立大学に限れば、平成11年度に設置された1校を加えると、現時点で21大学に設置されている状況にあります。大学開放の窓口としての役割を担うべく、近年、全国各地に積極的に開設されていることを示しています。
 ご承知のように、静岡大学には、平成9年度に、国立大学第15番目の施設として本センターが設置され、本年度は、4年目を迎えました。この間、歴代のセンター長、センター専任教官をはじめとして、学内の委員の皆様により、大学開放にかかわる様々な事業活動や、社会教育主事講習、さらには生涯学習関連の教育研究が進められてまいりました。それらの成果は、研究紀要「生涯学習教育研究」や広報誌「地域と大学」に報告されているところであります。
 私は、この4月より本生涯学習教育研究センターの第3代センター長を勤めることとなりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 本年度は、本センターの過去3年間の実績と経験を踏まえて、さらに積極的な大学開放を進めるべく、広報活動に主眼を置いて、地域との結びつきを強めたいと考えています。
 公開講座の充実や公開シンポジウム、調査研究などの諸事業の推進とともに、各事業の地域への広報活動もまた大切なことだと思っています。
 地域と大学を結ぶために、どうぞ皆様のご協力、ご支援ならびにご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。




教育研究担当教官からひとこと
コミュニティの振興と生涯学習

静岡大学情報学部教授 


 わが国は明治以来、国家の目標として「豊かさの量的拡大」を追求してきたが、これが達成されると徐々にではあるが、人々の意識に変化がみられるようになった。それはかっての経済、成長、産業を中心にしてきたものから、文化、生涯学習、環境、福祉といった、いわば生活に根ざした、より人間的なものに目が向けられるようになったということである。いまや「国家」から「地方」へ、そして「経済」から「人間」や「教育・文化」へといった方向へ、政治経済システムばかりではなく、日常生活レベルにまで様々なかたちで「主役の交代」がみられるようになったといえよう。
 近年、自主性、無償性、公共性、先駆性などの性格をもつ「ボランティア」活動や、民間非営利組織の「NPO」の活動が格別に注目されるようになったが、これらの活動も前述のような人々の意識の変化を背景にしたものである。21世紀には我々が生活するコミュニティにおいて、生きがいや自己実現、そして社会貢献を求める傾向がより一層強まることが確実に予想されている。このため「地方の時代」と「自己実現の時代」を視野に入れたビジョンの提示と、それらを支援する政策、方法論を構想していくことが国としての課題である。これからのコミュニティの振興は、人々の生活文化に貢献し、自己実現の喜びを喚起するものに発展していくことが予想され、その中で生涯学習の果たすべき役割が益々重要になってくるのは間違いない。従って高等教育機関としての大学は、これまでにもまして同一年齢の集団にのみ門戸を開放する体質から脱却し、生涯学習機関としてコミュニティ振興をリードしていくことが必要になっている。生涯学習教育研究センターに期待される役割・機能が大きくなるのは他言を要しない。
 本学の生涯学習教育研究センターは、設立3年という短期間にもかかわらず、センター長のリーダーシップのもと、公開講座、シンポジウム等各種事業を積極的に展開し、地域に開かれた大学の窓口としての役割をよく果たしてきている。勿論、課題も少なくない。 今後、生涯学習がコミュニティの成長・発展にどのように関わり、生涯学習に関する理論をコミュニティの振興にどのように具体化し戦略化すべきか、さらにコミュニティの振興に関する人材養成カリキュラムの開発研究とその展開、実践的なノウハウの提供や課題解決についての学際的な研究など、センター機能の更なる拡充が期待される。

(生涯学習教育研究センター教育研究担当教官)




静岡大学のランドマークを目指して

静岡大学生涯学習教育研究センター長(第2代) 岡田 嚴太郎


 21世紀を目前にして、我が国は物質的な豊かさよりむしろ精神的・文化的な豊かさを求める成熟社会へ移行しつつあります。加えて、少子化・高齢化の進展に伴い、従来の社会構造は大きな曲がり角を迎え、生涯学習社会の構築が急務とされています。昨年4月に発足した「静岡大学生涯学習教育研究センター」は、開設2年目を迎え、私はこの4月から原 秀三郎初代センター長の後任をお引き受けし、センターの本格的な事業展開を軌道に乗せる責任の重大さに、身の引きしまる思いをいたしております。
 本年度の主要なセンター事業の一環として、来る7月22日から8月20日にかけて、本学を中心に平成10年度静岡大学社会教育主事講習が実施されます。関係諸機関のご協力を得て、すでに2回にわたる運営委員会を開催し、社会教育のリーダーを目指す約70名の受講生の受け入れに、万全の体制を整えております。また、来年度からは静岡大学公開講座の企画・運営を、当センターが全面的に行うこととなっており、平成10年度を試行期間と定め、現在そのための諸準備を着々と進めているところです。本年度のセンター諸事業のスムーズな展開を図るべく、センター管理委員会、運営委員会および教官会議等を機能的に開催し、効率よいセンター運営を目指しています。
 本センターの最大の目標である静岡大学の開放を一層推進するために、大学開放事業の情報一元化、インターネットの活用および生涯学習関連諸機関との情報ネットワーク化等を促進いたします。具体的には、本年4月末にインターネット・ホームページを開設するとともに、静岡県総合教育センターとの連携を進めるべく、静岡県生涯学習情報提供システム「マナビット」のインターネット・ホームページにリンクし、本学の各種情報を積極的に提供しつつあります。また、センターの広報誌「地域と大学」およびセンター研究紀要「生涯学習教育研究」を定期的に刊行いたします。
 本センターは、開設されて間もない学内共同教育研究施設ではありますが、静岡大学のランドマークとして、地域に開かれた「大学の窓口」であると認識しています。全学のご理解とご協力を得ながら、今後のセンター活動を着実に展開する所存でおります。




教育研究担当教官からひとこと
『わけあう』

静岡大学農学部長 中井 弘和


 昨年秋のはじめ、ダイアナ元皇太子妃の衝撃的な死のニュースが世界中を席巻していたさ中、20世紀を生き、そして21世紀に大きな光を投げかけて、2人の巨星がひっそりと地上から姿を消した。20世紀最高の書の一つ「夜と霧」を著した心理学者・ヴィクトール・フランクルと貧しい人々に生涯を捧げたマザー・テレサである。
 フランクルは、ナチスの強制収容所に捕らえられ奇跡的に生還した体験のその書の中で、どのような人々が極限状況を強く生き抜くことができたかについて冷徹な文章で書き綴っている。厳しい労働と飢えの中で、わずかに配られる食べ物を自分より弱っている人たちに分け与えたような人々が強く生き抜くことができたと言うのである。分け合うというささやかな愛の行為が人々の生命力を高めた、ということになるのであろうか。
 マザー・テレサの偉大な働きについては周知のことであろう。貧しい人の中でも最も貧しい人々に仕えなさい。これは、彼女がシスター達によく語った言葉であるが、そこには与えることによってそれ以上のものが与えられるというメッセージが含まれている。
 日本の社会を取り巻く状況はこのところ極めて厳しく、大学にも競争原理が益々色濃く導入されてくるにちがいない。われわれ大学人は、そのような状況の中で、人を押し通けて生きていくのか、あるいは、そうであるからこそ人と分け合って生きていこうとするのであろうか。それは、私達ひとりひとりの選択にかかっていることであるが、その時、フランクルやマザー・テレサが生涯をかけて残していったものを思い起こしたいと言いたいのである。
 とまれ、わが静岡大学は、新設の生涯学習教育研究センターを通して、組織的に地域社会とより多く分け合うことによって、自らの生命力を高めながら、激動の時代を強く生きていくことができる、と私は考えている。

(生涯学習教育研究センター教育研究担当教官)




教育研究担当教官からひとこと
生涯学習機関としての大学

静岡大学教育学部長 角替 弘志


 イギリスの大学には Extra-mural Department と呼ばれる部門が置かれているのが一般的である。Extra-mural とは、英語の辞書によれば「城壁(都市)外の、学外の」という意味であるから、文字通りに解すれば、大学の塀(壁)の外にある部門ということになるが、長い大学開放の歴史を有するイギリスにおいては、大学の教育を市民に開放するために置かれている部門であり、重要な位置を占めている。もう10年以上前になるが、私が文部省の在外研究員として滞在したリーズ大学にも Department of Adult and Continuing Education (成人教育及び継続教育部)があり、大学構内の成人教育センターの外に、近隣の都市に二つのセンターがあり、20人以上の教員スタッフを擁していた。
 成人教育あるいは社会教育というと、わが国では、教養的・趣味的あるいは生活実用的な学習を連想しがちである。生涯学習もそれとの連想で捉えられ、世間的には、生涯学習とは一生学び続けることだから、高齢者の方々が年齢にもめげず学習にいそしむことだと思われていることが多い。そのことは生涯学習のなかでも大切な部分であることは確かである。しかし、それが全てでないことも確かである。
 イギリスでは、成人教育とか継続教育と言った場合に、特に継続教育と言った場合には、教養的・趣味的な学習よりも、資格取得につながる専門的・職業的な学習を意味していることの方が圧倒的に多い。リーズ大学で成人及び継続教育部のゼミに参加したことがあったが、それが教育経営のゼミであったこともあり、その在籍者は全員が30〜40歳代の学校やカレッジの専任あるいは非常勤の教員であった。参加している理由を聞いてみると次のプロモートに備えて資格を取得しておくとのことであった。
 最近のヨーロッパでは生涯学習(Lifelong Learning)という用語が盛んに使われるようになったが、それは雇用ということと密接につながっているようである。即ち、Learn, Earn, Work,が一体のものとして捉えられているようなのである。雇用形態の違いが、成人の学習形態に違いをもたらしていると考えることができるが、わが国でも、リカレント教育の重要性が認識されてきており、大学がそれにどのように貢献できるか、生涯学習教育研究センターに何ができるかを真剣に検討していかなければならない。

(生涯学習教育研究センター教育研究担当教官)




生涯学習教育研究センターの発足

静岡大学生涯学習教育研究初代センター長(初代) 原 秀三郎


 生涯学習社会の構築に向けて、大学開放が大きな課題となっている。静岡大学ではこれまで公開講座の実施や社会人入学、施設開放などいろいろな取り組みがなされてきた。しかし大学開放を一層押し進め、本格的かつ総合的に生涯学習に対応する体制を整えるためには、学内に教育研究機関を設置する必要性が高まってきた。こうした機運の中で、平成9年4月に全国第15番目の学内共同教育研究施設として静岡大学に生涯学習教育研究センターが設置されることになったのである。
 開設以来この約1年間はセンターの陣営を整えるための準備に費やされた。専任教官の任用、教育研究担当教官の選出、資料室の確保といった学内手続きに加え、県・市等地域の生涯学習関連機構との連携・協力体制を整えるべく努めてきた。特に専任教官には、地域社会との連携に特徴を出すべく、大学と博物館施設を結びつける生涯学習の推進と、生涯学習ネットワークシステムの構築を中心とした生涯学習論を進め得る教官を選考し、生涯学習先進地域に位置する静岡大学としての特徴を出すことに意を注いだ。そして専任教官の着任をまって、静岡大学生涯学習教育研究センターの発足を地域にアピールするため、開設記念事業としてシンポジウム『大学開放と生涯学習』を実施することとしたのである。
 平成10年2月21日に開催した、シンポジウム『大学開放と生涯学習』は、講師、パネラーに生涯学習に深い経験をお持ちの多彩な方々をお迎えすることができ、加えて、学内教育研究担当教官の参画と運営委員の協力を得て、佐藤博明学長及び清水明文部省生涯学習局企画官の臨席のもと、盛況裡に終えることができた。県内生涯学習関係機関および諸団体の職員や、生涯学習に深い関心を寄せる県民の方々の参加は300名にのぼり、大学における生涯学習教育研究センターの設置理念を地域に周知することができたように思う。
 私はこの3月をもって静岡大学の定年を迎えるため、生涯学習教育研究センターの本格的な事業展開は、新センター長と専任教官の活躍に大いに期待するところである。終わりに臨み、そのための不可欠な条件として、管理委員会、評議会を中心とした早急な学内協力体制の整備を強く要望したいと思う。



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