ニョロニョロってなんだろう?(その1)


 ムーミンに出てくるあのニョロニョロ。あれはいったいなんなんだろう。どんないきものなんだろう。なに類・なに科なんだろう。30年前ほど、小学校の頃からムーミン(昔のアニメです...)を見ていて、気になって仕方がなかった疑問です。

 確か、アニメ・ムーミンに「ニョロニョロの秘密」とかっていう題名で、ニョロニョロが大挙してある島に渡り、雷に打たれてエネルギーを得るという話がありました。──ある日、ニョロニョロにだけわかる秘密の文書が流れ着き、ムーミン谷中のニョロニョロがそわそわし出す。ムーミン谷の住民もニョロニョロの生態をよく知らなかったので、様子をうかがっていると、そのうち一斉に船に乗り、ある島に向かう。秘密の文書にはカミナリが落ちる場所と時間が書いてあったようなんですね。で、島に着くと、雷の落ちる場所にかたまって電撃を受け、それだけで1年分くらいの活動エネルギーを得る(そういえばニョロニョロが何か食べているところって見たことないものね)。──うろ覚えだけれど、大体そんなふうなストーリーでした。

 そんな訳で、「ニョロニョロの秘密」を見てもますます正体がわからなくなるニョロニョロですが、最近知ったムーミン谷のページの「ムーミン童話の基礎知識」を読んでみると「ニョロニョロは種から生まれる」とありました。うーむ、では植物か、しかし見たところ根も持たず、あちこち歩き回るあの自由さ、太陽光が必須とも思えないあの生活スタイルを眺めると動物っぽくもある。で、この両方の条件を満たす生き物って、実はキノコ=菌類なんですね。菌類、それもあの南方熊楠翁[1867-1941]が研究に没頭した粘菌です。この粘菌、栄養状態がいいときにはアメーバ状になって動き回り、また厳しい環境のときはキノコ然と地面に生えて胞子を飛ばしたりもする変わり者で、変形菌とも呼ばれます。

 風のようにふわふわ動き回り、ときおり1匹だけはぐれたり、有事のさいには堅い結束力を示したり。ニョロニョロはまさに「胞子的自由と菌糸的連帯」((c)浅田彰)をもつ生き物ですが、自然界にそのモデルを探すとすると、ですからキノコそれも粘菌ではないかと。(そういえば京極夏彦の近著『塗仏の宴』に登場する不老不死の生き物「くんほうさま」は...*作中最後に、日本に辿り着いた徐福の死体にとりついた粘菌だったことが明かされます。いつもながら派手な設定だなぁ。*

 はてさてしかし、現在までのところ他の生物を補食せず、カミナリのエネルギーだけで活動できる(とてもエコノミカルかつエコロジカルな)粘菌の存在は報告されておりません。また、そもそも「ニョロニョロ」という名前さえ「日本訳した訳者が考えたもの」だそうで、作者自身がいかなるイメージでニョロニョロを作ったのかも私にはわかりません。
 まだ原作さえ読んでいない筆者はそういうわけで、トーヴェ・ヤンソンと南方熊楠の文献にあたり、さらに内外の菌学会の研究成果をフォローしたのち、あらためてこの問題に取り組むことにしたいと思います。  (つづく、かな?)



[註]
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